1から始まるお付き合い
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熱を浴びた顔を私に向ける零くんは、ひどく扇情的だ。そんな視線の零くんから目が離せなくなる。
零くんはペロリと苺のように赤い舌を少し出し、上唇に沿うようにゆっくりと舐めた。
そうすると、私と彼の間にあるテーブルを避け、そのまま私の横に座る。
彼は強引に私の肩を抱き、視線を交わらせる。
(どうしよう……!)
誰がどう見ても彼は欲情している。私が無防備なままに、こんな状態にさせてしまった……!
このまま流れに任せるべきなのか? でも、獣のような状態の彼を野放しにして、自身がどうなるのか分からない。私は葛藤し、困惑する。
「零くんっ……!」
勇気を振り絞って、声を上げた。彼は私が次に何を言うのか様子を見ているようだ。
「……こわいよ……」
ポツリと出た思いがけない自分の発言だった。
普段と違う彼の様子は、私にとって衝撃があった。それに、今の彼は、何をするか分からない恐怖心が心のどこかであったのだ。思いがけずに出た言葉は、自身の本音とでも言うのか。
零くんは雷に打たれたかのような驚きで目を見開いた。先ほどの欲情は消え失せたようで、逆に、私が恐ろしいと感じている事に罪悪感を感じたようだ。
「名前、ごめん、怖かったよね……」
俺どうかしてたと彼がつぶやきながら私をそのまま抱きしめる。壊れ物を抱きしめるみたいな力加減で、彼の慈しみを感じる。
「私には少し早すぎたみたいで……怖かった……期待に添えなくてごめんね」
「名前は悪くないんだよ、謝らないで。俺、突っ走りすぎた。」
そう言った後に、零くんがいつもみたいなお日様のように笑う。
その笑みに安心して、自然と私も笑みがこぼれた。
そんな風に零くんが気を抜いている隙を見て、彼の目の前で手を叩く。所謂、猫騙しだ。
零くんが意表を突かれた表情で私を見る。
「びっくりしたでしょ。私もこうだったんだから。」
してやったりな表情を彼に向ける。こんな風に、突然何かがあると怖いでしょう……と伝えたかったのだけど。
「……名前はっ……! なんでそんなにもうっ……可愛いの……!」
零くんは両手で顔を抑えながら悶絶している。
私の意図と異なった反応で、困惑する。
「え、びっくりして怖かったでしょ?」
「びっくりしたけど……っ! その方法が猫騙しって……」
どうやら子供騙しの技を使ったからか、それが可愛いと感じるポイントだったみたい。
「おねがい、名前。もう一回」
「もうやりません!」
ーー
「名前、先にお風呂に入る?」
「いやいや、私は泊まらせていただいてる身だし……! 零くんが先に入って!」
「俺は別に気にしないのに……わかったよ。あ、そこに洗濯機があるから使ってね。」
零くんがシャワーを浴びている間に、私は洗濯機を回させてもらう。突然のお泊まりだったから、下着が無いのだ。多分、今、洗濯と乾燥をかけたら間に合うんじゃ無いかな。
洗濯機がグルグル回り始めたのを確認し、私は部屋へ戻る。色んなことが起きたから、一先ず整理したかったのだ。
(あの完璧超人の零くんだって、人並みにそういった……性欲があるんだな……)
当たり前とは言え、彼のあの瞳、吐息、行動。
思い出すだけで体が疼いた。
私が知らない零くんの素顔が見れてよかった。
彼のこと、もっともっと知っていきたいな。
「お待たせ」
本を読んで待っていたら零くんがやって来た。
ほんのり赤い顔、熱で温まった体、そして水滴が滴る髪の毛。水も滴るいい男とは彼のことか。
「? なに、じっと見て。」
「あ、ご、ごめんね!」
「お風呂入って……って着替える服がないよね。俺の部屋着あるから着る?」
そう言って零くんはTシャツと短パンを貸してくれた。
清潔感のある真っ白なお風呂場に着くと、そこにはホテルのようにシャンプーやリンスが一列に並んでいた。シャンプーをプッシュすると、零くんの香りが広がった。
(同じ香りを纏えるのかな)
そんな風に思いを募りながら、私は流れて行くシャンプーの泡を見守った。
ーー
お風呂から上がると、リビングの電気がついており、そこには零くんがいた。何処と無く、美味しそうな、いい匂いがする。
「あ、名前。お腹空いたでしょ。ご飯作ったから食べよう」
零くんはエプロン姿で揚げ物をしていた。
揚げ物に集中してるみたいで、視線はそちらに行っている。
不意打ちのエプロン姿に私はくらりと目眩がする。
「ありがとう、泊まらせて頂いて、ご飯まで。」
「名前はお客様なんだから持て成すのは当たり前だよっ!」
得意げに微笑みながら、盛り付けをしている。
完成品を並べながら軽快に歩みを進めてる。
なんだか主夫として活躍してる人みたい。かわいいな。
「え」
並べ終わったところで、私に視線を移動した零くんは足どりを止めた。
「ど、どうしてズボン着てないの!?」
「あ、Tシャツで下も隠れてるから良いかなって」
「ちょっとしか隠れてないよ! しかも屈んだりしたら見えちゃうよ!」
息を荒くして、かなり動揺した様子零だ。
「下! 着て! すぐに!また俺、変になっちゃうよ!? ……!!!」
言い終わると同時に、零くんが驚いた表情を突然浮かべた。
「名前……下着、付けてる?」
「まだ乾燥が終わってなくて、付けてないの」
「……着替えてから食べよう!」
零くんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。横顔もすごく綺麗。なんだか怒ってしまったのか、零くんは私から距離を置いてしまった。
普段、お風呂から上がったらブラジャーを着けない習慣があったから、あまり自分では違和感を感じなかった。けど、男子高校生の零くんには強すぎる刺激だったかも。なんだか私に反応してくれる零くんが可愛いし、面白いと感じてしまう。
(普段はからかわれっぱなしだから、たまにはいいかもね)
私はそう思いながら、洗濯機の残りの数字が0になるのをゆっくりと待っていた。