1から始まるお付き合い
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どのくらいの時間が過ぎたのかな。短い時間しか過ぎてないのかも知れないけど、とても長く感じる。彼の様子が気になって、私はチラリと視線だけ彼に向ける。お互いに向かい合って抱擁してる事もあり、彼の髪の毛しか見えなくて、表情が見えない。1つだけ分かるのは、零くんは私を離す気はなさそうだ。ガッチリと背中に手を回されてる。
(個室で2人きり……っていうのは零くんのお家に行った時に体験した、けど……)
こんなほぼ裸で、なんて……!!!
何か間違いが起きちゃいそう、止めなきゃ……!!
零くんに終わりの合図を送るために彼の腰へと手を回す。
「!」
零くんがびっくりしたかのように跳ねた。驚かせてしまったかな、急いで手を回すのを止めようとした刹那。
プールの水が大きく揺らいで、零くんが私の上半身をプールサイドに押し倒した。
零くんは、私の頭の左右の床に、両手をついている。私の視界いっぱいに零くんの瞳、そして濡れた髪が映る。零くんの髪から伝う水が、私の頬に当たり、これが現実なんだって気がついた。
私は一体何が起きたのか理解できず、ぜろくん、と声をかけようとする。その半開きの唇を狙って彼が自身の唇を押し付けた。
今まで感じたことのない勢いのキスだ、私の口内に彼の舌が入ってきて、激しく動く。
私の舌を啜ったり、私の歯の並びを確認するかのように撫でたり。私は苦しくなってきて、彼の胸板を叩いた。すると、彼が名残惜しそうかの様に私の唇から離れた。
そのまま寝っ転がった状態で呼吸を整えて、私は彼の方を見る。彼はまだ物足りないって顔をしている。
「ぜろ、くん」
「名前、好きだよ」
そう言って彼が私の頬に手を添えて、また顔を近づけようとした。
しかし、けたたましいサイレンの音で動きが止まる。制限時間が来ちゃったんだ。
名残惜しそうに私たちは立ち上がり、ドアへと向かった。
ーー終わっちゃった。
私たちのペースでちょっとずつ進んで行きたいけど、今のはかなり早いペースだったかも。
でも私も名残惜しいな、なんて。
零くんに言うのも恥ずかしいから秘密だけど。
「……怖かった?」
「え! こ、怖くはなかったよ、びっくりしたけど」
「……もっとしてもいい?」
「えっ」
「冗談」
冗談って言ったけど、真実なのかどっちなのー!? 零くんの気持ちが掴めないよ!
そんな面持ちの中、外に出ると燦燦と太陽が私たちを照らした。
ちゃんと水分を取らないと熱中症になっちゃいそうだなあ。そういえば、零くんの為にお水を買いたかったんだよね。自動販売機が見つからなくて変な人に絡まれちゃったけど。
「零くん、熱中症」
零くんに熱中症予防にお水を買いたい意思を伝えようと声をかけるけど、あまりにもセミの鳴き声がうるさくて聞こえてないみたい。首を傾げられた。
「えーと、熱中症!」
さっきよりも大きな声を出したけど、まだ疑問を持った瞳をしている。
今度は零くんの耳元に手を添えて、ゆっくりと囁く。
「ねっ、ちゅう、しょう!」
伝わったかな? と私が零くんに目を合わせると、彼はびっくりしたように目を開いて、突然キスした。今回は触れるだけの、軽いキス。
「名前、もっとしたかったんだ」
「え、え?」
私は意図がわからずに困惑する。熱中症って言っただけだよね?
「『ねぇ、ちゅーしよう』ってわざわざ言ってくるなんてさ」
ああ!!! 熱中症をゆっくり言ったらそう聞こえなくもない!!
「ち、ちがうよ」
「え、違うの?」
露骨にションボリとする零くん。あああ、悲しまないでほしい! キスはしたいけど、今回は違う意味を伝えようとしてただけなの!
「えと、その……あの、キスがしたくない訳じゃなくて」
「したいんだ?」
「え……」
なんだか自分からしたいって事を申告してしまったみたいだ。
「う、そうです……」
「じゃあ今度は名前からして」
「わ、私から!?」
「うん。いつも俺からだし。俺もたまには名前からして欲しいな。」
そう言って零くんは目を瞑る。長い睫毛と高い鼻、全てが整った顔立ちが無防備に私の目の前にある。うう、私から、するのか。
キョロキョロ周りを見渡すと、周りには誰もいない。人里離れた所に個室があったからだ。
よし……! 勇気を振り絞って零くんに顔を近づける。このまま、くっ付けるだけ……なのに!!
自分からするのってこんなに勇気がいるんだ。
いつもいつも零くんに任せっきりだったな。
私は零くんに甘え過ぎてたな……。これからは私ももっともっと頑張っていかなきゃ。
いつもありがとう、大好きだよ。そんな思いを込めながら彼に唇をくっつけた、でも恥ずかしいから一瞬で離してしまった。
「ふふ」
零くんが突然微笑んで、私の頭に手を添えてグシャグシャと頭を撫でた。
「へ、変だったかな」
「ううん、名前の気持ちが伝わったよ。ありがとう」
「どういたしまして……」
どんな気持ちが伝わったんだろう、それは零くんのみぞ知る。
「次は何に行く?」
「うーん、流れるプールに行きたいな!」
「うん、もう次は名前を離さないから」
見失わないからっていう意味だろうけど……!
そんな真っ直ぐな瞳で言われると緊張しちゃうな。零くんの手を握って、私たちは流れるプールへと向かった。
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