1から始まるお付き合い
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彼女がジッパーを全部下げ、肩からパーカーを脱ぐ動作を網膜に焼き付けた。CMのワンシーンみたいな、魅せつける為に作られた映像みたいだった。そして、彼女の水着が自分の想像の遥か上をいっていたことに衝撃を受けた。
「く、黒!?」
あろうことか、清純な彼女の水着が大胆な黒のビキニだったのだ。恥ずかしそうに両腕で胸元を隠し、モジモジと両足の膝を擦り付けている。なんてセクシーなんだ……、名前!!
白の水着も絶対可愛いけど、予想外の黒、ありだ、良すぎる。天使かと思ってたら予想外の小悪魔ぶりに翻弄されてる、俺は。
「へ、変だよね」
「ぜ、全然変じゃないよ……!!」
むしろ……と言ってしまいそうになるがぐっと堪える。あまり変なことを言うと警戒されるかも知れないからだ。名前が白のワンピースを着てたのを見てるから、余計に黒とのコントラストを感じる。天使と悪魔は表裏一体なのか?
「本当は、違うの、黒じゃないの」
「そ、そうなの? でも、すごく似合ってるよ」
「白だったのに……間違えたの!」
ーー
(……無い!)
狭苦しい更衣室で私は必死にバッグの中を隅々まで確認していた。どれだけバッグを探しても、当初予定していた白いフリルの水着が見当たらない。代わりにもう片方の黒のビキニはあるのだが。
(しまった、確認のためにあの水着に昨日着替えて、バッグに入れるのを忘れてた……)
念のために入れておいた黒のビキニしか今はない。……これを……着るしか……。
背に腹はかえられない。私は黒の水着を手に取ったのだった。
ーー
「だから、違うの」
必死に説得しようと試みてるけど、零くんは心ここに在らずの様子だ。いくら話しても右から左に抜けている感じ。
「聞いてる!? 零くん!」
「あ、聞いてたよ、つまり、あの、その、黒のビキニで……」
「似合わないよね……」
私は思わず両腕で胸元を隠す。ただでさえそんなに大きくない胸なのに、黒でなおさら引き締まって見えちゃうだろう……ああ、成長期、早く!
「す、すごい似合ってるよ」
零君は私の水着に目を向けず、プール側を見ている。きっと何も言わないのも失礼だと思って、お世辞にも褒めてくれたんだ。ああ、やっぱ見て幻滅したよね、胸のない彼女よりも、プールで楽しそうにしている胸の大きな子のほうがいいよね……零くんに申し訳ない気持ちでいっぱいだな。
「ごめんね、零くん」
「え!? ど、どうして!?」
驚いた様にこっちを振り返るけど、やっぱり視線は水着にいってない。
「だって、こっち全く見てくれないし。」
「そ、それは」
「変なんでしょ」
「そ、そんなことないって!! むしろ……」
むしろ、何だろう。私は落ち着きがない零くんに真っ向から話したいと思って、思わず彼の肩を両手でつかむ。これで彼の表情がよく見える。
「め、目のやり場に困るんだよ……」
耳まで真っ赤に染まった彼の顔、そして私の水着に目を動かそうとして、また別方向に戻して、を繰り返していた。
「名前、すごい似合ってるよ、本心」
私も思わず彼の熱が伝染して赤くなる。
「あ、ありがとう……」
恥ずかしくなって彼の肩から手を放す。零くんは両手で顔を抑えて、熱が収まるのを待ってるみたい。熱を早く冷ますなら、いい方法がある!
「零くん、こっち!」
私は彼をプールの近くまで誘導し、プールから水を掬って彼にかける。
「えへ、熱、収まった?」
いつも零くんにドキドキされてばっかりだから、私からの小さな小さな反撃。プールの水に触ったことによって、少し私の持っていた熱がまぎれた。
「やったね……?」
零くんがニヒルな笑いを浮かべて25mプールに入水して、私を手招く。嫌な予感がする……
「100m、競争! 勝負だよ」
「え、ひゃ、100m!?」
そんなに泳いだら疲れ果てちゃう!! それに、100mも泳ぎ切る自信がないよ!!
「よーい、ドン!」
そうこうしているうちに零くんがスタートしてた、まずい……!
私も後に続いてスタートする。零くん、私よりも早くスタートしたとはいえ、早すぎる! フォームも完璧だし……もう姿を見失いそう!
水の中はほぼ無音で、それでいて冷たい。私を冷静にさせてくれる環境が整っている。息が苦しくなったら顔を上げて、呼吸を吸う。
単純な作業の繰り返しなのは、わかっている。のに!
全身を使うという事もあって、私は疲れ果ててしまった。
50mを泳ぎ切った途中で、水面から上がる。零くんはまだ泳いでるみたいだ。きっと疲れてるだろうし、何か飲み物を買ってこよう……どこに自動販売機があるんだろう。
25mプールでは、何者かがすごいスピードで泳いでいる! と話題になっていて、ギャラリーが集まってる。零くんって、本当に話題になるよね……
「ね、何探してるの?」
私が辺りを見渡していると、大柄の男性が話しかけてきた。
「えと、自動販売機どこかなって」
「冷たい飲み物ね! こっちこっち!」
強引に私の手首を掴み、私を引っ張ってくる。い、痛い! かなり握力が強いのか、振り払えない。
「え、どこに行くんですか?」
向かっている方向は明らかに自動販売機がなさそうな人気のない暗い場所だ。
「いいからさ」
私の発言なんて気にしてないみたい。どうしよう、こんな時、大声を出せばいいのかな? 怖くて声が出ない、誰か、助けてーー