1から始まるお付き合い
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宇海君と晴れてカップルになったけれど、私達の関係は以前のまま、一緒に学校に行ったり、お昼を食べたりをしているだけ。
(宇海くんと付き合う事になったけど……
付き合うって一体何をしたら良いんだろう……
カップルって何してるのかな……
普通の友達とはしないような事って……
考えるだけで頭がパンクしてきた。
恋愛経験が皆無の私では 分かるはずも無い。
指南書になるような本を……探そう!)
そう思い立った私は、本屋で恋愛本のコーナーに向かった。自分に不似合いなんかじゃ無いかと思い、ソワソワしてしまう。
(今まで自分に関係がないから、こんなコーナーにきた事なかったけど、奥手な女性に向けた本とか、モテるための本とか、色々ある……)
どれがいいのかもう訳も分からず、平積みになっていた一冊を掴み、足早にレジに向かう。
(変な事してる訳じゃ無いのに……人目が気になる……)
レジに行くのも焦れったい。
通販サイトで買おうとも思ったが、今すぐに読みたいという気持ちが混ざった。
(そうだ、何か別の本を上に重ねて買おう)
たまたま数独ドリルが雑誌コーナーに置いてあったので購入し、私は足早にレジに向かった。
家に帰宅し、私は自室の鍵を閉め、慎重に開封した。
開くと一部の紙が厚みを持っていて、袋綴じがある事に気がつく。袋綴じかあ……なんだか難易度が高そう……
袋綴じは一旦放置して、ペラリと1ページ目を捲る。
まず、「名前を呼びあう」
……名前……って……苗字じゃ無くて、下の名前……
宇海くん、じゃなくて、零くんと……
は、恥ずかしい!早速難易度が高い!
ど、どうしよう……!
顔が赤くなっていると鏡を見なくても分かる。確実に頬に血液が集まってきている。
「……あ」
私に名案が閃いた。
それはフルネームで呼ぶ、というものだ。
名前だけ呼ぶと恥ずかしいが、フルネームなら恥ずかしさも無い!
そう考えると顔に火照りが徐々に引いていった。
明日、試してみる価値はある。
成功を祈りながら私は眠りについた。
次の日、いつも通り三角公園で待っている宇海君に声をかけた。
「宇海、零くん」
「どうしてフルネームなの?」
しまった、その質問をされる事は全く念頭に入れていなかった。
名前を呼ぶのが恥ずかしくて、なんて恋愛素人丸出しの意見を言うのは忍びない。
「えーっと、き、気分かな、なんて」
「ふーん。」
私達は学校に向かって歩みを進めた。
宇海君がなぜ私がフルネームで呼んだのか考えを巡らす前に私は話題を切り出す事にした。
「あ、これ。昨日本屋さんで買ったんだ。あげる。」
私は持っていた紙袋を宇海君に渡す。
「わあ、数独ドリル! 俺、数字が好きだから嬉しいよ、ありがとう。」
「喜んでもらえてよかった。」
「でも唐突だね。」
「えっ」
確かに、宇海君が数字が好きと言うことは前々から知っていたけれど、なんでもない日にプレゼントするのは少し違和感がある。
「あ!たまたま、本屋さんで目について」
「何かの本を買うついで?俺、苗字さんが好きな本知りたいから、何買ったか知りたい」
(疑いのないようなキラキラした目で私を見つめる……ごめん! 私、下心のある買い物をしている!)
「それは……秘密」
実は何かある時に参考になるかもと思い、その本をこっそりとバックに隠していた。存在を隠したら、なんだかずっしりと重たく感じた。
「言えないような買い物なの?」
「う……」
「苗字さんて、結構むっつりなんだね。」
「ち、違う!そんな本じゃないよ!」
「じゃあ何?」
してやったりと言うふうに宇海君が妖艶に微笑む。しまった。完全に宇海君のペースに乗せられた。いかがわしい本だとも思われたくない気持ちが勝り、私は口を開いた。
「……宇海君と距離を縮めたくって。これ……」
私はバックの中に隠していた本を取り出す。
「恋愛指南書、やっぱり。」
やっぱり頭がよく回る宇海君にはバレてた。
ペラリと宇海君が1ページ目を開き、項目を見る。
「名前で呼び合う……これに倣って名前で呼ぼうとしたの?結果的にフルネームだったけど。」
「そう……よくわかるね」
「俺達はこの本に丸々沿わなくて良いと思うよ。」
「……本当?」
私は少し救われた気持ちになった。
このステップをこなしたから次とか、これをしてなきゃだめとか、何が正解かを巡って多くのルールを守るのは大変だと感じていたからだ。
「俺たちは俺たちのペースがあるでしょ?本に従うんじゃなくて、俺たちで作っていこうよ。」
「うん!ありがとう。」
「苗字さんが良いと思えばやればいいし、今じゃないと思えばまた次でいいと思うし。ね、名前。」
不意に名前で呼ばれて私は呆然とする。
「俺は今、呼びたいと思ったからしただけだよ。」
白い歯を見せて宇海君はにっこりと笑う。
認めていたら学校の方角からチャイムがなっている事に気づく。
「あ、チャイム鳴ってるから走ろう」
宇海君が私の手を引いて、私を誘導する。
「ありがとう、零君」
「!」
零君はビックリしたようで私を見つめたが、すぐに笑顔になった。
私達のペースでゆっくりとでも進んでいこう。
零君とのお付き合いは始まったばかりなのだから。
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