歪なカンケイ
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「名前、朝だよ」
優しそうな声色の声に私は目を開く。声色の相手は私の彼氏、宇海零。学校中の生徒が知っている名前だ。
誰もが憧れる、殿上人の存在である彼の寵愛を、私はずっと受けている。どんな寵愛かって? 例をあげるのであれば、私たちはお互い高校生でありながらも、同居している。これは彼が私をずっと側に置きたいっていう理由があったからだ。頭の切れる彼に乗せられて、両親は快諾した。
「おはよう、零」
彼は私のほっぺに軽くキスをして、食卓へと促す。朝が弱い私のために、毎朝彼が準備してくれるのだ。私の授業の準備の事とか宿題とかそういったことも彼は気にかけてくれるし、まさに至れり尽くせり。
私好みの半熟の目玉焼きにお箸を通す、すると、ゆっくりと黄身が白身に流れていく。
「名前、好きだったでしょ、半熟」
「そうそう、よく覚えててくれたよね、零。」
「そりゃあずっと一緒にいるしね……」
不敵な笑みを浮かべながら零が微笑む。
「でも、クラスは違うからねぇ」
彼は特進クラスでその中でもズバ抜けてる。一方私は、普通科だ。学校の大半はクラスで過ごすから、そんな中、零が居ないのは寂しい。
「……そういえば名前、告白されてたしね」
零がゆっくりとお箸を置く。手を組んで、何か考えているようだ。
「でも断ったってば」
「そうだとしても、俺以外に名前の魅力とか、クラスでの名前を見たりしてるんだよ! そいつ。」
零の逆鱗に触れてしまった。彼は人一倍独占欲が強く、私が他の男子と交流があるとか、彼の知らない姿とかに執着する。
「わ、わたしのことを好きになる人なんて珍しいよ……! 今度現れないよ、きっと。 零だけに一途だもん、私は。」
「……名前がどんな人か分かれば、きっと好きになるよ」
零は遠い目をしながら何か考え事をしているようだった。その後、学校に向かう道中や、帰り道もも話しかけても上の空のようだった。
まだ怒ってるのかな……。こんな気持ちの中一緒に帰るのは気まずいし、機嫌を直してもらいたいな。そんな中、後ろから声をかけられた。
「苗字さん、バイバイ」
「あ、バイバイ……」
この間告白して来た男の子だ……! 断ったのに、まだ声をかけてくるなんて! どうしよう、彼の事を零も知ってるし……。
恐ろしいがゆっくりと零の方を見ると、私が思ったように、かなり苛立ちを感じてるようだ。
彼は私の手を急いで引いて、家へとすぐさま向かった。家へ着くと、バタンと大きな音を立てて、零がドアを閉めた。
私はドアの方へ押しやられ、零が私に向き合うように対面した。かなり怒ってるみたい……
「ねえ、なんで返事したの?」
「へ、へんじ?」
「とぼけないでよ。あの男の言うことなんて無視すれば良かったのに」
ああ、さっきバイバイって返事しちゃった。
それがかなり気に食わなかったみたい。
「あいつ、俺から名前を奪う気だ」
「そんな事ないって! ただクラスメイトだから声をかけてくれただけだと思うよ」
「振られた相手にまだ構うなんて、まだ名前の事が好きに決まってる……あいつがその覚悟なら、こっちもそれ相応の対応をする」
何を目論んでるのかな……? 悪い方向な気がする……彼を説得しようとしたけど、突然彼がハンカチで私の口元を塞いだ。ふんわりと香る匂いを嗅いだら猛烈に眠気が襲って、私は彼に倒れこんだ。
ーー
「う……」
眼が覚めると、ベットの上に寝かされていた。いつもなら隣に零が寝てるけど、彼の姿は見当たらない。どこに行っちゃったの? カーテン越しに窓に目をやると、外はまだ暗闇で、今はまだ夜中なんだと気づいた。彼はどこにいるんだろう。そんな疑問を感じながら私はゆっくりと立ち上がろうとする。すると、足元からジャラリと金属音がした。何……? 急いでかかっていた掛け布団をはがすと、私の両足首は鎖で繋がれていた。長い長い鎖の先にはベッドの足にガッチリと固定されていた。
「え、どういうこと!?」
何が起こっているのか私はよく理解できず、声を上げる。
「起きた? 名前」
「っ、ぜろ! 」
彼がドアを開けて、私の元へやって来た。
「これ、外して!」
「ダメだよ。」
「学校に行けないじゃない!」
「行く必要ないよ。俺が勉強、教えてあげられるし。」
足を動かして鎖を弛ませ、外そうと試みるけど、だめだ。そんな簡単に行くわけないか。
「ふふ、安心してよ。この家を歩けるぐらいの長さに設定してるから。」
「……!! つまり外に出られないって事だよね?」
「簡単に言えばそうなるね。」
「ど、どうしてこんな事するの」
「だって、外に出たら皆んな名前の魅力に気がついちゃうだろ」
「そんなこと、」
「そんな謙虚な所だって、魅力の1つなんだよ、名前。今回だって、あの男……しつこく名前にちょっかいだして……!!」
「お、落ち着いてよ零、私は零だけを愛してるよ」
「俺も名前だけ愛してるよ。だからこそ、他の奴らになんて渡さない。絶対ね。」
零がゆっくり私に近づき、手で視界を塞いだ。私の視界は真っ暗になって、猛烈な眠気に襲われてしまい、再び眠ってしまった。
ーー
再び眼を覚ますと、カーテン越しからもわかるように、日差しが出ている。朝だ。もしかしたら、と目を足にやると、現状は変わらず、鎖で繋がれたままだった。
(夢じゃないか)
リビングに向かうと零が朝食の準備を終えたところのようで、美味しそうな匂いでいっぱいだった。そうだ、昨日は帰宅してからずっと寝てたから何も食べてない。
「おはよ、名前」
「……おはよう、零。」
「俺は食べたらすぐ行くけど、名前は気にせずゆっくり食べててね。学校終わったらすぐ帰ってくるから。」
ニコリと彼が微笑む。優しい事を言ってるけど、要はずっとこの家に居て、という事か。
「……私も行きたい」
「え?」
「……学校」
ダメは元々だけど、ぽそりと呟いてみた。
「……名前には分からせる必要があるのかな。」
零が口角を上げて微笑む。笑顔だけど、分かる。すごく怒っている。私の座っている席の後ろに立ち、彼が私の耳元へと囁く。
「あの男、どうなるか分からないよ?」
「!!」
あの男って、私に告白してきた子の事だよね!?
それに、どうなるか分からないって……!!
「それって、ど、どういう意味?」
「そのままの意味だよ。ただ、名前がこのお家にいれば大丈夫ってだけ。」
今の零は何をするか全く見当がつかない。怖い!
私は大人しく、彼が学校へ向かう様子を見送りするだけしか出来なかった。
(ど、どうしよう……このまま学校に行けないのかな?)
勉強は零が教えてくれるとは言え、出席日数は?
卒業できるの? とにかく、このままずっと外に出れないなんて困る。零を説得しなきゃ。その為には何かしらこっちも対策をしなきゃ……。
何か解決のヒントになりそうなものがないかと家の中を散策する。解決のために一体何が必要なんだろう……零の弱みを握ればいいのかな? そもそもそんなものあるのかな…。
引き出しや本棚を開けてみるけど、難しいそうな参考書が現れるだけで、これと言った収穫はない。探すだけ無駄なのかな……。
鎖に繋がれてぎこちなく2階の廊下を歩く。
「あっ」
油断していたら、鎖が絡まって横転してしまった。なんだか踏んだり蹴ったりだ。
立ち上がるために壁に手を添えると、添えていた箇所が動き、回転扉のように開いた。
(こんな特殊な細工があったの!?)
今まで全く気がつかなかった、こんな箇所に何が隠されてるんだろう? 同居人であるわたしも知らないなんて、絶対誰にも見せられないものがあるって事だよね……
中に足を踏み入れると、真っ暗な空間だった。
どこに電気のスイッチがあるかな……これかな。
スイッチを入れたと同時に私は唖然とした。
壁一面に私の写真が貼られている。零とのツーショットもなくて、ただ私だけ。
それも笑ってたり、悲しんでたり、多岐に渡った表情をしている。彼は私の全てを愛してるのかな。本棚を発見し、中を開くと『20XX年 A月』と私のアルバムまで綺麗に管理されていた。
違う物に手を伸ばすと、私が零に渡した手紙が1つ1つ綺麗にファイリングされていた。
「見たね?」
後ろを振り向くと零がドアの前にいた。
うそ、なんで……?
「が、がっこうは……?」
「名前が良い子にしてるか確認しにきたんだよ。……この部屋が発見されちゃうとはねえ。」
零が私の目の前に向かい、そのまま壁際へと私を押しやる。
「怖い? 俺のこと」
怖くない、と言えば嘘になる。けれど、同時に彼にこんなにも愛されてるんだって自惚れてた自分もいた。私も、彼も、お互い狂ってるんだろう。
「零、私だけを見ててね」
こんなにも愛されてるなら、もう十分。彼以外要らないや。監禁も、彼なりの愛なんだって受け入れよう。
「うん、ずーっとずっと名前だけ愛するよ……これからも、永遠にね……」
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