午後に、コーヒーを一杯
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(……あ、今日も来てくれた)
最近アカギさんが来てくれる頻度が高い気がする。この間話せた日がキッカケに、なんて、私は勝手にした想像を頭を揺さぶって打ち消した。
でも、この間はたまたま話すきっかけになったけれど、あの日以来、私は話しかけることができなくなっていた。寡黙に煙草を吹かしている彼になんて声をかければ良いのやら。
配膳の際に目で追う事しかできない日々に戻っていた。そんな自分に飽き飽きする。
「名前ちゃん、今日はもう上がっていいよ。」
店長が後ろから声をかけてきた。
「え?良いんですか?」
「うん、もう仕込みも大体終わってるしねー、後は任せてよ。」
「ありがとうございます。では、お先に失礼します。」
制服から着替え、帰路を歩く。
何かアカギさんと話せるきっかけが欲しいな…
そう思って歩いているうちにキラリと輝く白髪が見えた。
あの見慣れた白髪はーー
後ろ姿だけど、あの背丈、そして見覚えのある白髪。間違いない、アカギさんだ。
(アカギさん、この道を使うんだ!)
私はこっそりと彼の後を追った。
(彼と何か話すきっかけが出来るかもしれない。)
しかし、彼を追っていると、どんどん歩みを進められ、距離が出来る。私も負けじと後を追うが、それに応じて歩みが早くなっている気がする。
(まさか、バレてる?)
気がついたら行き止まりの道に付いていた。
まずい、隠れないと! そう思ったのもつかの間、彼が振り返り、私を見つめた。
「へえ。あんたか。」
「……すみません。」
「随分と大胆じゃない。」
「いや、別にアカギさんのお家を知ろうとしたとかじゃなくて、ただ……」
「ただ、何。」
「アカギさんのこと知りたくて……」
「もう知ってるじゃない。」
「え?全く……」
「俺の名前。」
彼は煙草を口に咥え、火をつけた。
「あっ……!たまたまご友人がアカギさんって呼んでるところを聞いてしまって」
「まあ苗字ってこと、こっちも知ってるけどね。」
「えっ!何故それを!?」
「……ククッ、あんたの名札。付けてるの忘れたの?」
そういえば、喫茶店の制服に苗字と書かれた名札を付けている。よく気がついたな、アカギさん……
「オレのこと知りたいの。」
「……はい。」
「ふーん。その為に家を知ろうと、ねえ……」
「いや、そんなつもりじゃないです! 」
「寝込みでも襲おうとした?」
「ねっ……!」
顔が一気に真っ赤になった、なんて破廉恥なことを言うんだ!この人は!!
「ククッ……苗字、反応が面白いね。」
「からかわないでくださいっ……」
「俺のこと気になるんでしょ。」
「……はい……。」
アカギさんは煙草を加えながら、私の横を通り過ぎ、行き止まりの道を引き返していた。
「……喫茶店で話すぐらいならいいけど。」
「……え?」
「そのままの意味。」
アカギさんに話しかけてもいいってこと!?
「ありがとうございます!また来店して下さいね!」
アカギさんの後ろ姿を見ながら、私は嬉々と浮かれていた。
ーー
そしてアカギさんが来店する度に、私たちはお互いのことを話し合った。
「アカギさんって漢字はどう書くんですか?」
「赤いに樹木の木って書く」
「赤いに木で赤木……素敵ですね」
「苗字は」
「私の漢字は名札に書かれた通りですよ」
「苗字はわかるよ。下の名前。」
「えと……名前です」
「名前ね……良い名前じゃない。」
赤木さんに名前呼ばれちゃった……ちょっと頬が赤くなった。気づかれたくなくて、ことばを続ける。
「赤木さんの下の名前は?」
「……しげる。」
「……しげる、さん」
赤木しげる。彼の名前を初めて聞いたのに、苗字と名前がとてもしっくりくる。
「名前は、俺のこと気になるの。」
「え……!」
直球で聞いてきた……!この人、女慣れしてる……!
「……まあそうです……」
「ふーん。」
彼はまたアメリカンを一口、啜った。
「あの、赤木さんは恋人って……」
「居ないけど。」
モテそうなのに、というか絶対にモテる。
彼はそんな、女の人を惹きつける魅力がある。
「オレの恋人になりたいってわけ。」
「あっ、そんな……」
「オレのこと付けたり、名前、まあ随分と積極的じゃない」
そんなつもりじゃないと言おうと思ったが恥ずかしくて否定もできない。
ドンドン赤木さんのペースに飲まれてる気がする。
「ククッ……可愛いな、名前」
「え……!」
「嘘かも、な」
「どっちですか……!」
また彼の一言一言に翻弄されていく私であった。