午後に、コーヒーを一杯
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は大通りから外れた喫茶店で働く、ごく普通の女の子だ。個人経営ということもあり、お店もこじんまりとしており知る人ぞ知る隠れ喫茶。
ドリップ場の目の前にカウンター席がずらっと一列あり、入り口から離れた奥に2席だけという小ささだ。お客さんもあまり来ないという事もあり、私はコーヒーを淹れる作業、そして配膳なども兼任していた。
ここのアンティークな雰囲気も好きだし、コーヒーを淹れるのは楽しい。私はあと他に楽しみにしていることがあった。
コーヒーフィルターを折ったり、アイスコーヒーの仕込み。そしてお客さんへの配膳などをしているうちに時が刻々と過ぎ、お昼過ぎになった。
カラン、とドアについている鈴がなり、新規のお客さんがやって来た。
ーー来た
彼だ。
白髪の彼の来店が私の密かな楽しみだった。
彼の名は「アカギ」と言うらしい。
直接聞いたわけではないのだが、彼が知人と思われる人と来店した際にそう呼ばれていた。
最近は知人のと来店はなく、1人で来店している。
店の奥の席が彼の好みらしく、いつもそこに座っている。残念な事に、作業しているドリップ場からは観葉植物が邪魔をして彼の顔がよく見えない。しかし、配膳や仕込みの際に通りがかる時はチラリと彼の様子を伺うようにしていた。
「ご注文は?」
「……アメリカン1つ」
彼のことは気になるけど、こんな風な最低限の会話しかした事がない。彼と仲良くなりたいのに、店員から話しかけるのはおこがましいのでは、と思ってしまう。それに、なんて会話を切り出そうか分からないし……
コーヒーをドリップし終え、観葉植物を横目に彼の元へ運ぶ。
「お待たせ致しました。」
何か一言添えたいのに、ちっとも浮かばない。
彼はタバコを加えていた口元からタバコを取り、ありがとうと一言言った。
顔が赤くなりそうなのを必死に堪えながら私はドリップ場へと戻った。
もっとアカギさんのことが知りたい。そしたら彼と何か話すきっかけになると思うのに……
彼が去った後のコーヒーを片付けながら物思いに耽るのであった。
彼は不定期にお店にやってくる。連日来る日もあれば、2週間とか長い期間を空けてやって来る日もある。いつ来るかなんて全く読めない。
突然カランと音が鳴り、彼が来店した。
アカギさん、今日は久々に来店したなあ…
いつもの席に座る彼を遠目に見ながら感慨に耽る。
(あ、そんなことよりも早くオーダー取りに行かなきゃ)
急ぎ足で彼の元に向かうと、彼はオーダーを早く頼むために私を待っていたようだ。
「すみません、アメリカンでよろしいですか?」
「……まだ何も言ってないけど。」
「あっ!申し訳ありません!」
てっきりいつも頼むアメリカンだと思って早とちりしてしまった、他のものにする予定だったのかな! 申し訳ない……
「まあアメリカンだけど。」
「あ、やっぱり、いつも頼まれるからそうじゃないかなって」
「ふーん。あんた、オレの事覚えてるんだ。」
「あ……はい」
思わず赤面してしまう。それはいつも見ていますから、なんて答えられるはずもないし。
ニヤリと笑うアカギさんはすごく格好良くて、魅力的だ。
「あんたがいつも淹れてるんだろ、コーヒー。」
「……そ、そうです。」
思わずしどろもどろになってしまう返答、どうしよう変って思われてないかな。
「美味いよ。ありがとう。」
私はお礼を言って即座にドリップ場に戻り、頬の火照りを治るのを待っていた。
1/3ページ