13日の金曜日
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「わあ、すごいいい天気」
澄んだブルーの色の下に、私は深く深呼吸をする。これなら桜も咲いてそうだなあ。
……零くんとお花見できたら、どんなに素敵だろう。彼の奥底に眠っている心の闇を取り除けるきっかけになるかもしれない。
「零くん」
「どうかした?」
零くんは革のカバーのついた書籍を読んでる途中だったが、私が声をかけた関係で片手で閉じた。その様子ですら、映画のワンシーンのように決まっていた。
「なんの本を読んでいたんですか?」
「なんてことないよ。で、どうかした?」
「ええと、お天気もいいし、お外にお出かけなんてどうかなって……」
「外?」
てっきり喜んでくれると思った。ほんと一瞬だけど、すこし顔を歪めたのを私は見逃さなかった。
「嫌ですか……? お花見、素敵だなって……」
「ううん、名前と行けたらどんなに楽しいんだろうね」
すぐいつもの柔和な表情へと戻ったので私は安心して胸を撫で下ろす。
「でも行けないな。」
突然冷酷な声のトーンで零くんが言い張ったので私は驚いた。
「だめだよ」
「き、気分転換になるんじゃないかなって、思ったんですけど……」
零くんのお屋敷に来てから私はまだ一度もこの広い広い庭の先に行ったことがない。
零くんの気分転換、といいつつ自身もまた外へ出たい気持ちがあったのだ。
「名前がまたどこかに行っちゃったら困るから」
「また……?」
零くんとはこの間初めて会ったばかりのはずだ。またって、どういうこと?
「俺と一緒だとつまらない?」
「そ、そういうわけじゃ」
明らかにしょんぼりする零くんの様子に居た堪れなくなる。
昏睡状態の友人を差し置いてお出かけしようって提案は、あんまり配慮ができていなかったかも。
「すみません、読書でもしてゆっくり過ごしましょう」
そういうと零くんはゆっくりと微笑んだ。
……その笑顔は安堵しているようでもあった。
私は自身の読書の本を取りに行く為に書斎へと向かった。真新しい本棚に並んでいる本は、なっぱり私が施設で借りていた順番だった。
(最後から見て2冊は同じ順番だと思ってたけど、やっぱり、全部、同じだ……)
貸出履歴か何かを確認して、借りた順番に本を詰めてくれたのだろうか。そんな手間を、どうしてだろう?
私は一番最後に入っていた本を手に取り、零くんの元へと戻った。
書斎の違和感は、書斎に置いてきたままーー。
ーーーーーー
「あれ、無いなあ……」
寝る支度を済ませ、日記を書こうとペンを持ったが、肝心の日記見当たらない。
昨日気分転換にと、外で書いたんだよね。
置きっぱなしにしちゃったかなあ。こんな時間だから、あんまりお外には出たく無い。
分厚くて、書きやすいサイズだったからお気に入りだったのに。
もしかしたら、零くんが発見して、回収してる気がする。多分寝ていると思うから、明日聞こうかな。
うーん、施設の先生が毎日日記に取り組みなさいって言ってきて、最早書くことが習慣になっちゃってる……だから、今日の日記はなるべく今日のうちに取り組みたい……
(……!)
閃いた。サイズ感と分厚さから、ぱっと見は書籍の様に見える。もしかしたら、本だと勘違いして書斎に置いてくれてるかも?
書斎を確認してみるのもいいかもしれない。
私はひんやりとした廊下を通り抜け、書斎へと向かった。
ーーー
「やっぱり無いかなあ……」
古い本棚を見ても無さそう。
明日零くんに聞いてみるしか無いかなあ……。
出る前に、書斎をぐるりと一周してみる。
「あっ、これ……」
書斎の机の上に、今日零くんが読んでいたであろう書籍が置いてあった。
革のカバーがついてる本で、読んでいる様子がとても様になっていた。
彼は何の本を読んでいるんだろう?
気になった私は、興味本位でページを捲る。
と、同時に戦慄した。
「なに……これ……」
革のカバーがついているが、それは紛れもなく私の日記だった。零くんが昼間に読んでたのも、私の日記だったの?
私は嫌な予感がして、書斎をぐるぐると回る。
いくつかある古い本棚の、1つの脇をゆっくりと押すと、それに合わせて横に本棚がスライドし、後ろにまた別の本棚が現れた。
そこには今まで私が書いてきた日記がびっしりと詰まっていた。
「back number XX」
綺麗に一つずつラベリングされている。
どうして、零くんが私の日記を持ってるの?
毎年、施設の先生に回収されていた物なのに……
もしかして、先生があんなにも日記を書けって指摘してきたのは、この為……?
私は徐々に現れてきた彼の様子に、ただ震えるしかできなかった。