13日の金曜日
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食卓に着くと、もう既に料理は並んでいた。
お屋敷の外観にそぐわない様に、フルコールの料理がいくつか並んでいた。
以前、先生から個別でフルコールのマナーを学んでいた甲斐があったなあ……。
「あれ、名前元の服に着替えちゃったの?」
宇海さんがナイフでメインディッシュであろうお肉を切り込みながらいう。
「ああ……あまりにも綺麗だったから、汚したら悪いかなあ……と思いまして……」
「いいんだよ、気にしなくて。ぜーんぶ名前の為のものだからね」
「でも、恐縮です……」
しばらくすると宇海さんは自分の過去について話してくれた。
以前大きな勝負に参加して、その時に勝った多額のお金があるんだそう。その勝負に伴って彼の知人が昏睡状態になってしまったらしく、自責の念から1人で閉じ困る為に、このお屋敷を購入したらしい。今は勝負する気持ちも失せてしまったらしく、昏睡状態の彼へのお見舞いと、自分の心を癒す為に日々過ごしているらしい。
「……あの、宇海さんってなぜ私を引き取ってくれたんですか……?」
そうすると宇海さんはニッコリと私に微笑んだ。
「名前は居てくれないと困るんだよ。」
「私が……?」
「ただ居てくれるだけでいいんだ、名前が。さっきも話した通り、自責の念とか、勝負に疲れたり、俺もう、うんざりなんだ。ただ、寄り添ってくれる相手が欲しいんだよ。」
そうだよね、きっと宇海さんは自分が友人を昏睡状態にしてしまったって後悔してるんだろう。
1人でずっと考えてたら息がつまるし、誰かに寄り添ってもらいたいって思うのも無理はない。
施設でカウンセリングの様な物も少し学んだから、彼に寄り添えるかもしれない。
「私、お手伝いしますよ」
「……本当に? ありがとう、名前」
宇海さんは私に微笑んでくれた。彼の笑顔はなんだかまだ影があるように感じる。それが拭えたらいいな。
ーー
翌朝、眼が覚めて、バルコニーへと向かう。
施設には当たり前にバルコニーなんてなかったからすごく新鮮だ。今日は天気がいいから、空気が美味しく感じる。鳥のさえずりも聞こえていい気持ちだ。
「あれ」
地上に目をやるとそこにはガーデンが広がっていた。そこに宇海さんが立っている。水やりをしているのかな?
気になった私は階段を下り、彼の元へと向かった。
「宇海さん」
「名前」
「おはようございます、いいお天気ですね」
「そうだね。よく眠れた?」
「ふかふかのベッドでよく眠れました、あ!」
「?」
「お花、ぜーんぶマーガレットですね」
ガーデンは一面、白い儚いマーガレットで埋め尽くされていた。
「私、マーガレットが一番好きなんです。小さくて、でも一生懸命根付いていて。」
施設でも数本生えていて、毎年生えるのをとても楽しみにしていた。とても素敵なお花だから、以前先生にプレゼントしたこともあったなあ……。あの頃が懐かしい。
「やっぱり? 喜んでくれてよかったよ。さ、もう朝食を取ろうか。」
朝食を取った後、私は暇になってしまった。
洗濯物とか家事とか何かする事はないかと聞いたけど、たまに家政婦を呼んでるから必要はないと言われてしまった。ならお屋敷に詳しくないから探索でもしようかな。
部屋の説明を受けたけど、どのドアがどの部屋かがまだ曖昧なんだよね。ここはなんの部屋だっけ……
ガチャリとドアを開けると、そこには大きな本棚と、大きな机と座り心地の良さそうな椅子があった。ここは書斎か!
施設にいた頃は外出許可を取るのが厳しかったから、本ばかり読んでたんだよね。
何か本でも借りて、寝る前に読もうかなあ。
本棚を眺める。一番大きくて古い本棚は一面、西洋文学、日本文学と多岐に渡っていた。古いものが多いかも。その隣に真新しくて綺麗な本棚があった。なんだろう、古い本棚は昔からこのお屋敷にあったんだろうけど、この本棚はやけに新しい。本が入りきらないから、後から買ったのかな?
本の陳列を眺めてみると、私が呼んだことがある書籍であふれていた。これも、これも読んだことがある……というか、この本棚にある本、全部。
あれ……一番最後に置いてある本、最後に施設で読んだ本だ。あれ……?
その一個手前の本をみると、最後に借りた丁度一つ前の本だ。
……もしかして、私が借りた本の全て……?
どういう事なんだろう。でも、施設に置いてある本はとても有名な作品ばかりだから、誰が持ってたって不思議じゃないか。
でも、なんで私が借りた順番まで一緒なんだろう? こんな偶然って、あるのかな……。
コンコン、と外からノックの音が聞こえて振り返ると宇海さんがいた。
「ここに居たんだね」
「は、はい、お部屋のことを知りたくて」
本棚のこと宇海さんに聞くなんて変だよね……
なんて言えばいいかわからないし。
「その本棚、気に入ってくれた?」
「え?」
「名前が好きな本でしょ?」
「は、はい……」
「ふふ、名前が好きな本を揃えたんだよ。これからも好きな本があれば言ってね。俺、名前の為に尽くすから。」
そう言って宇海さんが最後の一冊の本を手に取り、パラパラとめくる。そして、とあるページで手を止めて私に開いて見せてくる。
「はい、ここまでしか施設で読めてないよね?」
見せられたページは私が施設で読んだ途中までのところだった。