青春と彼と
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高校3年生、卒業式が間近に控えている。
みんな、高校生活最後の思い出として友達と遊びに行ったり、卒業旅行を計画したりと「最後」の思い出を作りたがる。
最後に楽しい思い出を、なんて、幸せな思い出ばかり作ろうとする。でもその一方で何かを終わらせたり、思い出を精算する人だっているはずだ。
私もその1人だと思う。私は彼、赤木しげると性的関係にある。簡単に言って仕舞えばセックスフレンドだ。私たちは、会えばするけれど、別につきあっているわけじゃない。
彼は目立つわけではないけれど、端正な容姿の為女子から非常に人気がある。でも、私はその女子の一部ではない。なぜ彼と私がそんな関係に至ったというと、彼がたまたま私の秘密を知ってしまったからだ。
彼とたまたま日直当番になり、放課後の赤く染められた教室で日誌を書いていた。
私は自分の書く項目を終わらせて彼に記入を促す。彼は静かに受け取り、『赤木しげる』と日誌当番の項目に彼が記入する。
染められた教室には私たち2人しかいない。私は彼を待っているフリをして、彼の顔が夕日の赤に染まっている様子を眺めていた。
「……終わったよ」
「じゃあ職員室行こっか」
私は席から立ち上がってドアに向かう。
「苗字さん」
後ろから赤木くんが声をかけた。
「これ。」
彼が私の目の前に何かを突きつける、嗚呼これは。
「……今日掃除の時、アンタの机を運んでる時にこの本が落ちたんだ。」
その本は私が学校の引き出しに隠していたものである。ブックカバーをつけていたのだが、ご丁寧に外された状態にされている。まさか、人にバレるなんて……
「ふーん。こういうのが好きなの」
赤木くんが手にしていた本は、官能小説だ。
表紙には1人の女の人の洋服がはだけて、屈辱的なポーズを取らされている。
「……うん、そうなの。」
言い逃れは出来まいと思い、素直に認める。
あーあ。学校にたまたま、持ってきたのは失敗だった。ブックカバーついてるからバレないだろうと思った自分を殴りたい。
「俺と、やってみる?」
端正な顔立ちが陽に当たった扇情的な姿に、私は拒否することができなかった。呑気に彼の家までついていき、私たちは一線を超えた。
だからって告白されたわけでも、したわけでもない。この一回きりで終わってしまうと思った。彼にはそんな、儚さがあった。でも、この関係は続いた。関係は不定期で、毎日のように続く事もあれば、2日、3日を跨ぐこともあった。あと、彼は学校に来ない日も度々多くて、いつも胸を焦がしていた。……いつだって私が彼からの動きを待っていた。
休み時間とか、教科書をロッカーに取りに行く隙を狙って、彼が私の机の端を叩く。これが合図。
いつしか彼が私の机の近くを通るたびに、ノックを渇望するようにもなっていた。それを彼が分かっていたようで、イきそうな時に、彼から「ノック、待ってたでしょ」って図星を突かれた時には激しく興奮した。私は彼に一途に想い続けてた。彼はどうだったんだろう。そんな話は、した事がない。したかったな。でも、もう無理だろうな。
『卒業まであと1日』
そう書かれた黒板を尻目に、1人教室で溜息をつく。私と彼の関係は、この学校があったから続いてた。私たちを繋ぎ止める唯一の存在だったんだ。彼の事は何も知らない。ただの、同じ学校の同級生。当たり前に彼の進路なんて、聞いてない。本人から聞いてはないが、提出する際に覗き見した学習進路表には『就職』って書いてあったから、多分就職するみたい。どこかは知らないけれど。
彼の事、もっと知りたかった。知ってたら、関係を繋ぎ止める何かが得られた? 私が若すぎて、最善の選択が出来ていなかったと思う。
この制服を着るのも、明日で最後。式典がメインだから、机なんてほぼ使わないだろう。それに、彼って卒業式なんて参加しなそうだし。
ヤケクソになって黒板の端に、『馬鹿』って書いた。馬鹿って、漢字では馬と鹿なの、不思議。
馬鹿って書いたはいいけど、本気になった私が馬鹿なのか、はたまた彼なのか。それとも両方?
そんな風に黄昏てたら、教室のドアが開いた。
大変、こんな落書きしてるのバレたら……
「馬鹿……ねえ」
彼だ。見慣れた白髪を携えながら、私の文字を覗き込む。悔しい、彼の事なんて……嫌いになろうと思ってた。なのに、今、現れてくれて、心底安心した。私に彼が必要なんだって、心から感じてしまった。いやだ。馬鹿だ、私。
「誰のこと」
「私……かな」
彼の瞳を見てると、なんだか思い出が錯綜して辛い。でも、そんな姿見せるのは悔しいからそっぽを向いて急いで涙を拭いた。
「俺も」
「赤木くんも?」
書いてる時に彼も当てはまるんじゃないかなって思ったけど、それは、気持ちの行き場がなくて、ただ彼にぶつけようとしただけだ。所謂、八つ当たり。私が勝手に感傷に浸ってただけで、彼は関係ない。
「俺も、馬鹿だね」
「どうして?」
「……後に引けなくなったから」
後に?……と疑問を持ったところで彼に強引に唇を奪われる、壁に体を押し付けられ、逃がさない様にされた。私の足の間に、彼の片足を入れられた。身動きが取れない状況に、疼いてしまう。
彼は私の口内を長い間貪り、彼がやっと口を話した。
「初めは、こんなにのめり込むと思わなかった……けど、名前と逢うたびに、名前の魅力に取り憑かれていった……」
彼が魅惑的に私の唇を舐める。彼も息絶え絶えで、苦しそう。それは、呼吸が苦しかったからなのか、私と同じ気持ちだったからなのか。
「卒業してからも、ずっと一緒に居てよ。」
そう言って彼が強く抱擁する。
嘘、私に関心があるんじゃなくて、体だと思っていた。彼の心が私に向けてあると知って、涙が溢れでた。
「居る、ずっと一緒に……」
体が繋がった先に、心が繋がった。
繋がった心は、きっと未来にも繋がっていくだろう。その未来に、私と彼が笑いあってるといいな。
以下おまけ
ーー
「フフ、今日から俺のもの」
嬉しそうに彼が私の頭を撫でる。髪がぐしゃぐしゃになるけど、そんな事はどうでもいい。幸せなんだもん。
「あ、消さなきゃ」
黒板に書いた文字を消そうと黒板消しを持つ、するとアカギが声をかけた。
「いいんじゃない、そのままで」
「え、でも」
「どんな長い言葉より、シンプルに訴えが通じるでしょ」
「でも、あんまり良くない言葉だし」
そう言って私が2文字を消す。すると彼が残念そうに声を上げる。
「俺たちの思い出……」
「赤木くんって、そういうの気にするんだ」
彼の意外な一面が見れて思わず吹き出してしまう。文字を消すと、黒板には『卒業まであと1日』と書かれた文字と、デコレーションのみが残された。明日は卒業かあ……
「明日、2人で逃げ出すのもいいかもね。」
「え、卒業式を!?」
「俺は今日、名前に会えたから参加する必要がなくなったし。」
「そうかもしれないけど」
「結婚式に逃げ出すカップルみたいで、面白いじゃない。」
「ふふ、いいね、それ。」
翌日、出欠確認を教室でとって、体育館へ向かう隙に私たちは下校した。 先生にも、友達にも、誰にも話してない。だから、きっと、卒業証書授与の時にみんな気づくんだろうなあ。あ、隣の席の人には予めわかるか。
2人逃げる様に走ってると、息が上がって苦しい。ああ、卒業なんだなあって寂しさもこみ上げる。
でもなんだか青春の終わりじゃなくて始まりみたい。
「赤木くん」
「なに」
「赤木くんじゃなくて、しげるって呼んでもいい?」
彼との関係も始まったばかりだから、積み上げていきたい。高校が卒業しても、これからずっと。
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