零くんとアオハル
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その後 宇海君と雑談をし、(私はキャパオーバーで相槌を打つことしか出来なかった。)彼と私のクラスの前で別れたのを朧げながら覚えている。
教室に入った瞬間、空間が一瞬止まったように感じた。みんなが一斉に私を見ている……
「宇海と付き合ってるの?」
開口一番にクラスの男子が聞いた。
付き合ってる、といっていいの……かな
今はお試し期間の曖昧な立ち位置だ。
それに、クラスの女子に宇海君に確実に好意を抱いてる子はいるはずだ。みんなから好かれてる、それぐらいの人なんだよ、宇海君は……
「付き合ってるよ!」
自分の嫌な面と直面してしまう すんでの所で日が射した。
宇海君だ。
「昨日から付き合い始めたんだ。だから惚気なんてまだ無いし、あんまりからかわないでくれると嬉しいな!」
他クラスなのにわざわざ普通科まで来てくれた。
この困った状況を打破してくれた。
それに、付き合ってる事実が判明した後に、質問責めに合うかもしれない。そんな私を危惧し、助け舟まで出してくれた。
「あ、苗字さん、今日お昼一緒に食べようね!」
バイバーイと軽く手を振りながら帰って行く姿はまさに私の救世主だった。
宇海君と入れ替わるように、先生が教室に入ってホームルームが始まった。
宇海君の助け舟のおかげもあり、しつこく詮索する人は居なかった。
「苗字さんー!」
昼休みになると同時に宇海君の元気な声が響いた。私に向かって手を振っている。でも私は恥ずかしくて返せなかったが、代わりに軽く会釈をした。
俺のオススメの場所があるよ、そういって宇海君に連れられた。
特別に俺だけに許可が降りてるんだ、って宇海君は悪い笑顔で屋上の鍵を開けた。
私たちは 隣り合って横並びに座り、私は膝の上にお弁当を置き、開いた。
色とりどりのおかずは視覚からも美味しいと感じる。
「休み時間、大丈夫だった?」
「ありがとう、宇海君のおかげで何も言われなかったの」
「良かった!俺が突然こんなことを言い出したから 苗字さんに迷惑かけたらほんと申し訳ないなって思ってたから!」
「……あのさ、宇海君は、殿上人で、すごく優しくて、私よりももーっともっと良い人なんて選び放題なんだよ」
「私なんて、地味だし、顔もとびきり可愛いわけじゃないし、胸だって……」
自分で羅列しても悲しくなってくる。
自分に自信が持てない、これが私の悪いところだ。
「あのさ」
宇海君は真っ直ぐした瞳で私を見る。
「苗字さんは、俺の好きな人なんだ。いろんな人が居た中で柏木さんを選んだんだ。苗字さんは自分の事をマイナスに言うけど、俺は苗字さんのいいところもいっぱい知ってる。」
まあそんな謙虚なところも好きだけどね
そう呟く宇海君
「それに」
「俺のこと殿上人とか、良い人とか良い言葉を並べてくれるけど俺って存外悪いやつだよ?」
「え?」
「クラスのみんなの前で付き合ってるって宣言したり、昼休みに苗字さんのクラスに行った時も、みんなにわかる声量で苗字さんを呼んだんだ。それって苗字さんを独り占めしたいからなんだよ。俺も全部完璧じゃないんだ。悪い面とか良い面とかいろんな面を持ってる。けど、それが悪いわけじゃなくて、その面を含めて俺なんだ。」
「俺は、いろんな面を持ってる苗字さん、全部ひっくるめて好きだよ。」
伝わったかな?誤魔化す様にヘラっと宇海君が笑う。私の嫌だと思ってた面はいとも簡単に溶かされた。いろんな面を持っているけど、それを含めて私を好き……
「うん、宇海君の言いたいこと、心から伝わったよ。」
「本当?良かったよ。苗字さん、自分で地味っていってたけど、それは控えめで謙虚ってことだと思うんだ。そういうところ、すごく好きだよ。顔もすごく、可愛いと思う。」
宇海君は私が嫌だと思ってた点を全てプラスにしてくれる。私の心がどんどん彼によって 呪縛から解き放されている様に感じた。
私は、私のままでいいのかも。
そんな風に感じた。
「あ、あと胸はこれから成長するんじゃないかな?」
唐揚げをほうばりながらの宇海君が答える。
あ!胸のことを話してしまっていた……!
我に帰り顔に熱が集まるのを感じた。
「やだ、宇海君……ばか」
「苗字さんが言ったんじゃないか」
ニンマリと笑いながら私を見つける彼は、やっぱり上手だ。
「あ、予鈴」
私たち2人の間に鳴り響く音。シンデレラの12時のチャイムみたいに終わりを告げていた。
「じゃあ、教室に戻ろうか。」
宇海君がお弁当箱を綺麗に閉まって、すくっと立ちあがった。
私も立ち上がろうとしたら宇海君が手を差し出した。
「捕まって。」
柔らかく笑う彼の表情にドキリと心臓が跳ねた。心臓の音聞こえちゃうんじゃかいかなって思うぐらい心臓が高鳴っていく。
「ありがとう……」
彼の手の上に自分の手を重ねた。大きくてゴツゴツして、それでいて熱い。男の子の掌だ。
この行動は親切心ももちろんあったけれど、下心のある強かさだったと気付くのは後のお話である。