むかしむかしのお話
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軽かった空気が、さっきの1件で重くなった。いず君の右手には私の手が、左手には焦げたノートが握られている。私はなるべくそのノートに目を向けないようにした。だって、悔しくなる、から。爆豪くんは元から苦手だったけど、もっと嫌いになった。
「僕ね、周りの人が言うことなんて気にしないって決めてたのに」
ぽつりと、いず君が口を開く。雄英へ行く、って、話だよね。
そう、いず君は無個性。今の現代においてはすごく珍しいんだって。逆に私はそれを聞いた時、すごいなぁって、思ったんだけど、いず君からしたら個性のある私の方が羨ましいって思うんだろうな。個性がないだけで、何であんなに、疎外されないといけないの?ずっとずっと、その答えは見つからないままなのは知ってるけど、でも、それがいず君だから私は、許せないのかもしれない。
「私、応援してるよ、いず君が雄英行くの」
「はは、ほんと?うたちゃんは優しいなぁ」
…優しいとかじゃ、ないよ。全然優しくなんて、ないの、私。貴方がいじめられてるのに、傍観者でいることしか出来ないの。ただ、立ち尽くしていることしか出来ないの。やめての一言でさえ、言えないの。…でもね、だけど、あなたが、大好きなの。
何だかいず君の顔を見れなくて俯いた。ごめんなさい、優しいなんて、言わせてしまって。何だか悲しくて、涙を落としそうになっていた時。
「Mサイズの…隠れミノ……」
「わっ、プッ!!」
何が、起きているのかわからなかった。
「大丈ー夫、身体を乗っ取るだけさ落ち着いて」
いず君の身体が見る見るうちに、緑色のヘドロに包まれていく。
「ん”ーっん”ーっ!!」
「苦しいのは約45秒…すぐ楽になるさ」
苦しそうに藻掻くいず君、汚らしい声を響かせる、ヘドロの、ヘドロの、
「敵…、?」
「ん?」
やっと状況を飲み込めた時、いず君の隣にいる私に気づいたヘドロの敵はこちらに目を向ける。
目を合わせるだけで、気持ちが悪い。ううん、そんな前に、いず君を助けないと…!いず君は敵を離そうと腕をつかもうとするけど、液体だからちゃぷちゃぷと飛沫を上げるだけで上手くいかない。怖い、怖い。足が震えるし、泣きそうになっていただろう、けど、いず君の手をしっかりと握って、こちらに引き寄せる。
ゴポッ、と上手いこと抜け出して私の方へ出てくるいず君。ほ、と一息つくの束の間、
「お前、良い個性……」
「は、ん、っぷぁ!!」
標的を変えて、ヘドロの敵は私に乗りかかってきた。ずぶずぶと沈む体に、ヘドロが流れ込んできて、苦しい。息ができない。辛うじて出ている手で個性を発動しようとするも、液体だから、泡沫にできない。
「んん”っ!!」
いず君は私がしたように手を掴んでくれるけど、こいつ、中々離してくれない。だんだんと意識が遠くなって、いず君の声も消え書けそうになった時。
「もう大丈夫だ、お嬢さん!」
どこかで、聞いたこたある声が遠くで響いた。
「私が来た!!」
そんな言葉がしたと思ったら、途端、ものすごい風が吹いた。瞬間気道をふさいでいたヘドロが出ていき、肺へ一気に空気が流れ込んできた。
「ぅ、げほっ、げほ、」
「うたちゃん!」
たってることも出来なくて、地面へ崩れ落ちるようにして腰を下ろした。直ぐにいず君は駆け付けてくれて背中をさすってくれる。まだ体内にヘドロが残っている気がして、気持ち悪い。このまま嘔吐してしまいそうだ。
「大丈夫かいお嬢さん」
あぁ、そうだ、助けてくれた人にお礼を言わないと……、
「「トあああああ!!?」」
いず君と二人、お礼を言うために顔を上げた、その時。見た事のある、顔があった。ぴょこんと金髪の触角みたいなものがあって、いつも口元にはにっこりと笑みを作っていて。知ってる、知ってる。いず君と2人で動画を見たことも、ある。あの、あの、笑顔で誰でも救っちゃうあの、
「元気そうでなによりだ!!」
いず君と彼の正体を知って、2人で飛び退いたところ、また声をかけられてしまった。そして目の前の彼が右手に握っている、ペットボトルの中にはさっきまでいず君と私を苦しめていたヘドロの敵が詰められていた。そしてちゃっかり、いず君のヒーロー分析ノートにサインが。私の自習ノートにも、サインが書かれてた。
「それでは今後とも……」
ぐぐぐ、と脚に力を込めて、あのプロヒーロー、いず君の最大の憧れ、オールマイトは言った。
「応援よろしくねーーーー!」
その言葉を最後に、彼は飛び立って行った。
私は腰を浮かせられないまま、飛んで行った空を見つめることしか出来なかった。
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