ハンター試験
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ザザァ……、ザザァ…
少しだけベタッとした爽やかな海風が私の横髪を揺らす。
船は好き。荒波は嫌いだけどこうやって穏やかな波の上に佇むのは大好き。これからしないといけないことが全部、吹っ飛ぶ気がして。
そう、私、ルルはただいまハンター試験会場へ向かっている途中。別にハンターっていう職業に憧れてる訳じゃない。超人的な能力を持ってるわけでもないし。
…けど。
一昨日、小さい頃住んでいたくじら島の、ミトさんから一通の手紙が来た。
“久しぶり、ルルちゃん。元気にしているかしら?
私もおばあちゃんもゴンも元気に暮らしています。
ルルちゃんも早い事にもう12歳になるのね。ゴンは先日、沼の主を釣り上げてハンター試験を受けに行くことになったの。
そこで、ルルちゃんにひとつ頼み事があるんだけど、
どうかゴンと一緒にハンター試験、受けて欲しいの。受かってハンターになれなんて言ってないわ。
ただ、ただね。ルルちゃんも知っての通りあの子は無茶をする子だから心配なの。
だからルルちゃんもゴンの見張り役と言ったら聞こえが悪いけど、ついて行ってあげて欲しいの。
無理強いはしないわ、貴方の気持ち次第でいいの。気持ちが決まったらお返事をください。
偶にはまた遊びに来てね?
ミトより”
私は3歳から8歳の間、親の仕事の関係でくじら島に住んでいた。でもそこは子供なんて全然いなくて、私と同い年の子はこの手紙に書いてあるゴンだけ。しかも男の子。
だけど小さい頃なんて性別は関係無しに私たち2人はすぅっごく仲良くなった。野生児だったゴンの影響で私も山の山菜は食べれるものとそうでないものの違いがわかるようになったし、動物と少しだけど話せるようになった。
それにゴンの育ての親、ミトおばさんにもお世話になった。何度もゴンの家に泊まって何回もご飯をご馳走になった。ずっとくじら島で暮らせたら本当に幸せだなって思ったくらい。
でも8歳になりたての頃、また親の都合で別の島に移ることになった。こんなに長く滞在した島はここが初めてだったから、ううん、ゴンと離れるのが寂しかったからその知らせを聞いた日は2人してわんわん泣き喚いた。
出立の日、ゴンは私に手作りのミサンガって言うものをくれた。きっとミトさんに教えて貰ったんだろうなぁって思うほどぐちゃぐちゃな模様で何かわからなかったけど、私はそれを大事に大事に握ってさよならをした。
またいつか、絶対に会おうねって約束を交わして。
あれから4年。私の手首にはあの日ゴンから貰ったなんの模様かわかんないミサンガが今でも結び付けられている。あとから調べたけどコレは切れるまで付けておかないといけないみたい。4年経った今でも切れないミサンガなんて、きっとゴンの思いが強かったんだなって思う。
…なんて、船の上、昔のことを思い出してホンワカしてるけどふっっつーに怒ってますから。
昨日の夜ミトさんには“任せて”と一言書いた手紙を送り付け、ゴンの後を追う決心をした。
私がくじら島を出てから1年くらいは手紙のやり取りをしていたのに、あいつったら急にぱったりと手紙をよこさなくなって…私がどんだけ心配したと思ってんのよ…!!!
それに加えて何、私に一言も告げずにハンター試験って…一緒に受けようくらい言ってくれれば良かったじゃない!
ルル、怒りのボルテージは真っ直ぐ上り詰めてます。取り敢えず会ったらげんこつ食らわせておく。
「……はぁ、」
怒りとともに私の心には不安がぽつりぽつりと波紋のように広がっていた。ゴンは私の事、覚えてるんだろうか。あの約束、ちゃんと覚えてるんだろうか。…もしかしたら、このミサンガをくれたこと自体忘れてたりして。
そんな不安がぐるぐると頭を支配して酔いそう。それに、もう1つ。
別れたのが8歳。あれから4年。男女の差なんてハッキリしてきている時期でもあって。…ゴンと別れてからまともに同い年の男の子となんて話したことない。私よりおっきくなってるんだろう、そしたらどうやって接すればいいの?
昔のまま、身長も変わらずに居てくれたらそれだけありがたいことは無いのになぁ。
そう思い、空を見上げたら憎たらしいくらい雲ひとつなく太陽が笑っていた。昔のゴンみたいに。
「………、ここ?」
ぽと、私が漏らした声は足元に落ちて道行く人に踏みつけられながら消えた。
ハンター試験に行く私を過保護な両親は心配して今年のハンター試験のことを隅々まで調べまくり託してくれたメモを握り、もう一度それと目の前の定食屋を交互に見る。…確かに、書いてある。ハンター試験会場は、ここだって。この美味しそうな定食屋さんだって。
…怪しい、どうみたって怪しい。だってお昼休憩中のサラリーマンだってここに足を踏み入れてるんだよ?ここが試験会場なはず無いよね…?…だけど母さんと父さんが私に嘘をつくはずないし、もしついてたらどんだけ死んで欲しいんだよ。
訝しげに定食屋を見詰めつつ足を踏み入れる。「いらっしゃいませー!」なんて元気な声と共にふんわりと鼻を掠めていくお肉のいい匂い。あ、炊きたてのご飯の匂いも。のほほんとだらしなく頬を緩めていると厨房からおっちゃんが声をかけてきた。
「お客さん、御注文は?」
「え?」
急にかけられた声に我に返る。あ、そっか。ここに来たら確か言わなきゃいけない言葉が……、あれ?
「あれ、あれ?」
さっきまで手握っていたはずのメモがない。ご飯の匂いに気を取られてどっかに落としたのかも。
急いで当たりを見回しても掌に収まる位のメモ用紙、そんなもの見つけれっこなかった。
「注文は?」
タダでさえ焦っているのに更におっちゃんの苛立った声が追い打ちをかけてきた。うわわ、お昼時で混んでるのに私みたいなの絶対邪魔だ…!めっちゃ怒ってるでしょ…!!
ここはもうゴンを諦めて家に帰るしか、てかゴンを諦めるって何まるで私が好きみたいじゃん違う、ゴンを追いかけるのを辞めることであって決して好きとかじゃ…!!
「ステーキ定食、2つ」
…あ、石鹸のいい匂い。
ご飯の匂いと混じって鼻を掠めたのは洗剤か柔軟剤かしらないけど、爽やかな石鹸の匂いだった。
にゅ、と顔の横から手が伸びておっちゃんに向けてピースしてる。その腕を辿っていけば私より少し高い位置に銀色のふわふわな髪の毛が目に入った。脇にはスケートボードが抱えられて、整った横顔がある。
「……焼き方は?」
「弱火でじっくり」
「…奥へ入んな」
くい、とおっちゃんが店の奥の扉を顎でさした。その光景をただ立ち尽くして見ているとさっきの銀髪少年が私の顔を見てくる。…イケメンが、私を見てる。そんな思考に辿り着けば途端に頬は熱を集めて赤く染まるのがわかった。見られまいと急いで頬を掌で覆ったところで声が掛けられた。
「行かねーの?せっかく頼んでやったのに」
「は、?」
「試験会場。え、もしかして受験者じゃねぇ?」
…試験、会場。…そうだ私、ハンター試験受けにこの定食屋に来たんだった。そうだそうだ。…じゃあこの人、もしかして助けてくれたの、かな?
未だに私を見る彼の顔を恐る恐る見つめ返す、けど顔面の輝きに負けてすぐ下を向いてしまった。
「う、受け、ます」
「そ、ならよかった。じゃあ行こーぜ」
そう彼は残して私の数歩前を歩いていった。
拝啓、父さん母さん。
2人に貰ったメモはどこかに落としてしまったけど、イケメンとの出会いを拾ってしまいました。
(超イケメンすぎて心臓バクバクなんだけど…!!)
(同い年にしちゃ、…発育良すぎねーか)