疫病神と踊る医者
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いない。
疫病神が、どこにもいない。
慌てながら枕をひっくり返す。やっぱり、いない。風呂場も台所も洗濯機の中も鞄の中も机の中も探したけれど見つからない。まだまだ探せばいいんだろうか。それより僕と踊りませんか…あれ、ちょっとちがう?
そんなことを考えながら、また鞄をひっくり返す。もちろん、いない。
家のどこにも、疫病神がいない。
嫌なドキドキが止まらない。今日私が出かけたのは、あの病院だけだ。
……と、言うことは……病院に、忘れてきた?
気がついた時には病院へ早歩きしていた。松葉杖をつきながら全速力。
私だって、疫病神がいなくなればいいって思わない事はない。この不幸体質が改善されるんならこんな嬉しい事はないのだ。だけど、さすがに、病院はまずい。
医療ミスとかが多発したら目も当てられない。
もしかしたら、もう、大変な事になってたりして…!
そう思うとさらに気持ちが焦る、割には、走れないのがもどかしくて更に焦る。
ああもう、急げ、急げ、急げ、いそ、
ガツン。
いった…!
角を曲がったところで誰かとぶつかった。謝るのもそこそこに、私は立ち上がる。さっき治療した足がまた痛み出したけど、そんなの構ってられな、って、
「あ!」
目に入ったのは、散乱した誰かの鞄、の、中から顔を覗かせる疫病神だった。よ、よよよ、良かった…!いた…!
「おい。」
疫病神に手を伸して、なんとか捕まえようと格闘する。あーもう、なんでこんなすばしっこいのよ…!
「帰ろう!疫病神!流石に病院はまずいよ!」
「おい」
疫病神を追いかけながら、必死で説得する。
鞄の中を入ったり出たり、人の肩に乗っかった、り……
「お前は人にぶつかっておいて無視すんのか、苗字名前。」
今の今まで忘れていた人の存在を思い出した。
しまった、どうしよう、謝ろう、私もしかしなくても頭おかしい人みたい、恥ずかしい、ていうか、なんで名前、
色々な考えが頭をぐるぐる回る。
「あ、す、すみません!私ったら取り乱してつい変な事を、」
言いながらさり気なく手を伸ばした疫病神が、目の前の誰かに取り上げられる。それを目線で追って、初めてぶつかった人の顔を確認した。
……ああ、やっぱり、ついてない。
混乱と恥ずかしさで耳鳴りがする。もうほんと、どんな顔していいか分からない。私がぶつかったのは、さっき病院の診察室で話した外科医だった。
*
「あ、す、すみません、あの、本当にすみません…!」
ひょい。またさり気なく疫病神に手を伸ばす、と、さり気なくかわされる。
「私、ちょっと取り乱してしまって変な事を、」
ひょい。またさり気なくかわされる。また手を伸ばす。かわされる。
手を伸ばす。
かわされる。
…勘違いかと思ったけど、間違いない。
この人、疫病神が見えてるんだ。
さりげなさをかなぐり捨てて正面から疫病神に手を伸ばす。届かない位置に持って行かれる。
「あの、…」
手を伸ばす。届かない。また手を伸ばす。届かない。そんなやりとりを数回繰り返して、私は音を上げた。もういいや、もともと変な奴だと思われてるんだし。さり気なく疫病神を回収する作戦は諦めよう。
えーと、なんて言ったら返してくれるかな…あなた、不幸になりますよ、とか?
「あ、あの、そいつは、」
「この妙な生き物が、何か?」
「あ、えーと、わ、私のペットなんです」
「………こいつ、ワシントン条約に違反してんじゃないのか」
「……ですよね…」
ペットは、苦しいな。どっからどう見てもUMAだし。いや、考えるべきはそこじゃないんだけど。
「…あの、やっぱり、見えてますよね、それ。」
「見えてちゃ悪いのか」
「え、…えーと…」
悪いんです。まずいんです。特に、あなたはお医者さんだから。なんて言っていいかわからなくて、また言葉に詰まる。……しょうがない。言うか、正直に。
「……それ、疫病神なんです。私の…」
「…へェ。」
藍色の瞳が面白そうに私を見る。ああ…もうやだ。頭おかしい人だと思われてるんだ…。血が逆流してるような感覚。恥ずかしさで頭がぐわんぐわんした。
ああもう、ほんとに、ついてない。