疫病神と踊る医者
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6時半にアラームがなる。5分後になんとか起き出して7時すぎには支度を終える。7時半には家を出て、駅へ急ぐ。
いつもの公園を突っ切ろうとしてなんかおかしいな、と思った。
よく見ると、公園で一番大きい桜の木に首吊り死体がぶら下がっている。まぁよくあることだ。いつもなら警察に電話をするところだけど今日は時間がないのでスルーする事にする。もう少ししたら公園の掃除係が見つけてくれますからね、大丈夫ですよ。なんて心の中でご遺体に語りかけながら駅への道を急ぐ。
……空き缶が転がっている。踏んで転ばないようにしなければ…うわっ!
靴のストラップが取れて結局転んでしまった。
ストッキングが泥だらけになったけど…時計を確認する。7時40分。大丈夫、会社で履き替えよう。
駅に到着すると、やたら人だかりができていた。人身事故で運休、か。よくあることだ。振替輸送のバスで会社に向かう。
座席に座って、うとうとしかけた所でバスが急停止する。すぐ前の車が玉突き事故をおこしたらしい。…ここから会社までは歩いて10分くらいかな…。
バスを降りて、ぼんやり道を歩く。いつもの道が工事中で、会社まで20分かかる道しか使えないみたいだ。時刻は8時30分。始業時刻まではあと1時間あるから大丈夫。なんて思ってたら、目の前に植木鉢が落ちてきて、割れる。マンションの七階のベランダから女の人がなにやら謝っている。
あたったら確実に死んでたんだけど…よくあることだ。
目の前を黒猫が横切るのも、いつも通りだ。
なぜなら、きょうは仏滅の13日の金曜日なのだから。
The Sergeon,dances with petrel
小さい頃からよく駅前の占い師に声をかけられる。大抵はあなた死相がでてるわよ、とか、このままだとご先祖様の祟りで死ぬわよ、とかそんな感じなんだけど。そういえば一回だけあなた疫病神がついてるわよ、と言われたのにはどきっとしたなぁ。多分、あたってるから。そう、私には、小さい頃から疫病神っぽいものがついている。
小さくてスライム(ドラ○エのあいつ)みたいな姿のそれは、今日も鞄の中から大きな目で私を見上げている。
何でこれが疫病神なのかっていうと、これが見える人だけが私の近くで次々と不運に見舞われているからだ。
例えば、目の前で交通事故が起こったり、頻繁にタンスに小指の角をぶつけたり、理由もなく改札で引っかかったり。それも毎日、私と一緒にいるときだけ。
おかげで彼氏ができてもすぐに別れるし、友達にもかなり気を使う。初対面のひとには、相手が見える人かどうかわからないから、視線を探ったりして挙動不審になる。あのー、私の肩のとこに、スライムみたいなの、みえます?こんなこと聞いたら完璧に電波さんだ。
なんて考えながら会社のエントランスに入ったら、何故か警報が鳴り止まないので警備員が私に近寄ってくる。鞄の中には、特に不審なものは入っていない。警備員と一緒に首を傾げながら、鞄にいるそれにちらりと目を向けた。
それは、私と同じ角度で首を傾げるポーズをとっている。
……疫病神は、今日も絶好調だ。
*
午後10時。いつもの公園を突っ切って、ブランコに座る。ブランコをこぎながら、置いた鞄の中から、こっちを見つめている疫病神に話しかける。
「今日は、気合い入ってたね。13日の金曜日だもんね。」
いつもの公園、もとい、ミズナキドリ公園は私の好きな場所だ…まぁ、たまに桜の木に遺体がぶら下がってたりするけど。
週末の仕事帰りには、ここで思い切りブランコをこぐのがストレス解消というか…確かに、深夜にブランコをこぐ大人はかなり怪しいけど、誰にだってストレス解消は必要だ。
とか考えながら疫病神に話しかける。
「なんかいやな予感してたんだよね、早起きしたの正解だったよ。まぁ、もう週末だからかまわないんだけど、」
「でけぇ独り言。」
「うん、でかい独り言だよね…って、え?」
疫病神が私の背後をじっと見ている。
これが返事をするはずないから、つまり、つまり、
ぎこちない動きで振り返ると、背後にいたのは背の高い男の人だった……穴があったら入りたい!
「いっ、いや、あの、…はい、恐縮です…」
男の人は、ちらりと私をみてくすくす笑いながら歩いていってしまった。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
ここはめったに人がこないから、油断してた。完璧に。ああ、私のばか…!
自分をせめながら、そして熱くなった顔を冷ましながら、全力で自宅へ走る。
あの人、完璧に私のこと不審者だと思っただろうな、もう二度と会わないだろうけど凄い恥ずかしいな…………うわぁっ!
気がついたらマンションの階段の一番下にいた。どうやら、階段を踏み外してしまったみたいだ。
立ち上がろうとしたら、右足が痛くて動かない。これは、捻挫かもしれない。…あーあ、病院いかなきゃなぁ…
月明かりに照らされた階段の上の方から、疫病神が私のことを不思議そうに見ている。
…ああ、いつも通りの週末だ…
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