君はかわいいエトランゼ
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チーズケーキが食べたくなって、とか、どうだろう。上司の愚痴に付き合わされてお酒のんで、ちょっと酔ったらチーズケーキが食べたくなって、それで。……苦しいかな。いや、サンジさんは私のことなんて気にもとめてないだろうから多分大丈夫だ。お久しぶりです、とか言ってみたらあっさり返してくれる気がする。久しぶり。なんて。で、私はさっきの台詞を言うんだ。「チーズケーキが食べたくなって」。うん。さりげない。さりげないし何の含みもない。全く、全然、気まずくなんかない。
あのカフェの近くの公園で考え込んで5分。追い詰められた顔でブランコをこぐ私は、もしかしたら不審者みたいに見えるかもしれない。
会ってどうするんだろうとか、そもそも私は何をどうしたいんだろうとか。段々わからなくなってきた疑問を頭の中で繰り返しながら立ち上がってまた座り込む。さっきからこの調子で、公園からカフェの間の道を行ったり来たりしてるんだから本当に不審者みたいだ。まだ何をした訳でもないのに勝手に暴れだす心臓を押さえた。…ああもう、本当に馬鹿みたい。
*
「…ほらな、俺の作ったやつのがうまいだろ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…何とか言えよ」
…俺は、一体、何をしてるんだろう?素朴な疑問が頭のなかを回りだす。金曜日の午後10時。場所は、3ヶ月くらい前に名前ちゃんと入った喫茶店だ。ご丁寧なことに座席まで同じ。テーブルの上にはあのときと同じチーズケーキと紅茶。そういえばあの晩も月が綺麗だったっけ。周りはカップルだらけで、それもあのときと同じ。何から何まであのときと同じなのに、俺の向かいにいるのは腹立たしい仏頂面をぶら下げた憎々しい腐れ縁の男だ。何でこんな事になってるんだかは、実のところ俺にも分からない。 …本当に、何でいま俺はこんな奴と一緒にこんなところでティータイムなんてしてるんだっけ?考え込みすぎて訳がわからなくなってきたタイミングで奴が一言。
「……うっぜ」
「あ?」
うざいのはてめぇだこの緑虫がとかなんとか返そうとして我に返る。俺が鬱陶しいだか馬鹿馬鹿しいだか、そんな罵詈雑言に付き合ってる場合じゃない。質問に答えるまで何度だって聞いてやる。頭のすみに彼女の事をちらつかせながら、とりあえず紅茶を啜ってみる。…安い茶葉使ってんなぁ。
「てめぇが鬱陶しいっつったんだよ」
「…ああハイハイわかったわかった、いいから質問に答えろ緑虫」
「………」
「俺のがうまいだろ?」
「………」
「うまいよな」
「………」
………いらっ。
猛烈に目の前のクソ野郎を蹴り倒したくなる。ああそうだよなてめぇにゃチーズケーキの味なんて解るわけねえよな新核生物、と、言いかけてやめる。そもそもそんな新核生物をこんな喫茶店に引っ張ってきたのは俺なんだ。最悪のタイミングで、店内のBGMが変わった。あのとき彼女と見た、ベタ甘ラブストーリーのテーマソング。「…中学生日記」とかなんとか口走る忌々しい声は聞かなかったことにする。
「うるせえいいから黙って質問に答えろ。俺のが旨いだろ?」
「……」
「何とか言えよマリモマン」
「…お前黙れっつったじゃねえかぐる眉」
「………」
あのときと同じ喫茶店、りにはカップル、BGMはあのときの映画のテーマソング。口説くのにはおあつらえ向きのシチュエーションだ。なのに、俺の前には仏頂面したマリモが鬱陶しくにやついている。
わざとらしくため息を吐いてみたらマリモがぼそりと呟く。「何やってんだお前。アホか」
相変わらず名前ちゃんの事を頭にちらつかせながら、俺も全く同じ事を考えていた。
…あー、ほんとなにやってんだおれは。
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