君はかわいいエトランゼ
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…チーズケーキなんて、口からでまかせだった。そこの角の喫茶店が深夜まで営業をしているのは知ってたけど、チーズケーキをおいてるかどうかなんて知るわけもない。雑誌云々なんてのはよくわからないまま口からこぼれ落ちていった真っ赤な嘘だし、月がどうこう、ってな下りはもう、何を言ってるかわからない位に慌てた私のうわ言だった訳で。
つまり、何もないのにサンジさんと遭遇できた事自体が信じられないのに、口からでまかせで入った喫茶店のメニューにチーズケーキが載っていたのなんて殆ど奇跡に近い。いつも彼が作ってくれるのよりも大分可愛らしい、こぢんまりとしたチーズケーキを目の前にして、冷や汗混じりに自画自賛する。私にしては上出来だ。
「あの、」
「…ん?」
「あ、えー……なんでもない、です」
…いつも、どんな会話をしてたんだっけ。必死で記憶を辿りながら、とりあえずチーズケーキを一口。…悪くない、ような気がするけど、緊張で味がわからない。でもやっぱりサンジさんが作ってくれるのの方が美味しい気がする。頭の片隅で考えて、視線が合わないように俯きながら店内を見回す。…げっ、カップルばっかり。背後でいちゃいちゃとやましい雰囲気を醸し出す彼らの、ねちゃねちゃした会話を背景にチーズケーキにフォークを入れる。
「あの、」
「…ん?」
「いや、あ、…えーと、美味しい、です、ね?」
「……そう?」
「なっ、なんかこう、てっぺんのマーマレードが効いてるっていうか、若干苦味のあるのが斬新って言うか」
…嘘八百。実は味なんて大してわからない。一度喋りだしてしまったら今度は止まらなくなって、口は勝手にぺらぺらと言葉を吐き出していく。うそ、嘘なんです本当は味なんてちっとも分かってなくて、でもってつまり私は、店長さん、じゃなかったサンジさんが作ってくれるのが世界で一番美味しいんじゃないかなんて思うんですけど、
…なんて。頭の中で考えている結論まで喋りきってしまうには、少なくともあと五分はかかるんじゃないかって勢いで訳のわからないことを捲し立てながら、妙に冷静に状況を観察する。…そういえば、前にもあったな、こんなこと。
「そっ、それで、えーと紅茶が」
「名前ちゃん」
そんな思考は、目の前の彼の、少しだけ不機嫌そうな声に遮られた。はい何でしょうすみません私ったら一人でぺらぺらと、とかなんとか言葉を返す前に。のばされた手が唇の横に触れる、感触、が、した。
「……!」
体温の低い、親指。ひきつった笑顔を浮かべたまま、思考停止状態で5秒ちょい。視線の先には、やっぱり少しだけ不機嫌そうな表情(…の、ような、気がした。気のせいかもしれない、というか、気のせいだったらいい)のサンジさん。事態を把握した私が、顔を赤くする寸前で手は引っ込められて、それから、
「…ああごめん、ジャムついてたから」
にっこり。いつもお客さんに向けるみたいな微笑みと何でもないみたいな声。いつも通り。思った瞬間に我に返って、無理矢理に笑いを絞り出した。
「…すみません、ありがとうございます」
いつも通りいつも通り、言い聞かせながら言葉を返した。サンジさんはやっぱりいつもみたいに柔らかく微笑んでくれる。…いつも通り。安心したようながっかりしたような、複雑な心境でチーズケーキを口に放り込む。…やっぱり、サンジさんが作ってくれるのの方が美味しい。