君はかわいいエトランゼ
名前変換
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紺色が、彼女の白い肌によく映えていて。何かにすがるみたいにマフラーを握りしめてたあの仕草はきっと無意識だったんだろう。あのときの俺が口にするのも馬鹿馬鹿しいくらいの下らねぇ独占欲に駈られてたことなんて、きっと彼女は思いもよらない。雑踏に紛れてく彼女の後ろ姿を見ながら煙草をすいこんで、熱に浮かされたみたいな脳味噌は阿呆みたいに考えていた。…俺の事を思い出せばいいのに。
別に、またマフラーを返しに名前ちゃんが店に来てくれる、なんて、そんな姑息なことを考えたわけではない。例えばいつぞやか忘れた傘を取りに戻ってきた時みたいにして、イレギュラーな形であの子と遭遇できねぇかなんて、…まぁ正直少し、ほんの少しだけ期待してたことは認めざるを得ないが。
つまりなにかと言うと。
まずは名前を覚えてもらうところから、なんて思ったのもついこの間の事だってのに、もう俺は焦れてるんだ。こんな風にどっち付かずな関係を続ける間に、この子が誰かに掠め取られるんじゃねぇかとか、
…そんな事、考えた所で言えるわけねえ癖に。
あれから3週間。相変わらず彼女は火曜日の午後に店にやって来て食事をする。会話のぎこちなさだって相変わらずだ。いつも通り、食事して少しだけ会話をする。もう春も近いってのに俺のマフラーは彼女が持ったままだ。別に願掛けって訳でもねぇけど、あの子がマフラーを返そうとしない限りこの関係を続けていけそうだなんて考えたりして。
マフラーだとか、あの子からかりた文庫本だとか。そんなもん、彼女と俺の関係がこれからも続いていく保証にはならないって事だって、分かってはいるんだけど。
彼女のことが知りたい。時間がたつほどに馬鹿みたいに焦れていく癖に、結局の所俺は、下らないもので名前ちゃんを繋ぎ止めた気になってるだけだ。これ以上、あとにも先にもいける気がしない。これ以上距離を縮めようとしたら間違いなく逃げられる。漸く少しだけ、あの子の俺に対する警戒心が薄れてきたとこだってのに、
「………大丈夫だよ。あの手のタイプは強引に押せば意外といけるんだって」
金曜日の、午後11時30分。相も変わらずらしくない事をぐだぐだと愚痴る俺に、うんざりしているらしい長っ鼻は若干冷ややかな声で言う。いいよなぁお前はどうせカヤちゃんとイチャイチャパラダイスだろ、とかなんとか口に出そうとしてやめる。
「…何を根拠にいってるんだよそれ… 」
「お前が俺に言ったんだろうが、一昨年くらいに」
ウソップの面倒くさそうな声に促されて記憶を掘り返してみたが、全くといっていいほど何も思い出せない。俺そんなこと言ったっけ。こいつの言うことが本当だったとしたら、一昨年の俺は何も解っちゃいなかったんだろう。押せば意外といける所か、どう考えてもこれ以上押したら逃げられる。名前ちゃんが店に来てくれなくなったら、あっさり終わってしまう関係なんだ。下手に警戒心を持たせるようなことをしたら一巻の終わりだろうが馬鹿。
意外と酔いが回っている状態で、グラスの中身を飲み干す。口に出した声はまるでくだをまく酔っぱらいみたいな調子で自分のことながらげんなりした。カウンターに突っ伏してみたら、回りの喧騒がやけに心地いい。名前ちゃんは今ごろ何してるんだろう、殆ど無意識に考え出した俺に、ウソップが追い討ちをかける。
「あー、あと『ぼやぼやしてると取られる』とも言ってたよ」
「…………うっせえよ長っ鼻お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるか…」
「いやだから言ったのは俺じゃねぇお前だよサンジ」
だからつまり、一昨年の俺は何も解っちゃいなかったんだ。こうやってどっち付かずな関係を続けてる間に彼女が誰かにとられそうだなんて、そんなことくらい解ってる。解ってるけどじゃあこれ以上どうしろって言うんだよ。いつも通りに堂々巡りになる思考をそのまま口にすれば、律儀にいつも通りの言葉が返ってくる。
「…だからさぁ、いい加減言えよ。俺はもうお前の少女漫画みたいな愚痴に疲れた」
……だからさぁ、それができたら苦労はしねえんだよ。