君はかわいいエトランゼ
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さっき口走ってしまった本音を少しだけ後悔しながら、なるべくいつもみたいな軽い調子を装って言葉を選ぶ。映画と築地と博物館、どれがいい?そう聞いてみたらやっぱり妙に緊張したみたいな調子で名前ちゃんは返した。
「映画、じゃ、だめですか。」
駄目じゃねぇよ大歓迎。こっちが言葉を返す前に、小さな声で付け加える。
「できれば店長さ、…サンジさん、が、見たい映画が見たいんですけど。……駄目、ですか」
彼女の事が知りたい。俺がそんな風に思ってる程度の半分位でも、名前ちゃんが同じような事を思っていればいい。それは単なる願望で、勿論実際は彼女の言葉は遠慮か気紛れ(まぁ多分遠慮だな)から来てるんだなんて事も想像できる。当たり前だ。名前ちゃんにとっての俺は、好みの料理を出す喫茶店の女好きの店主、くらいの認識でしかねぇ事なんて分かってる(ちなみに驚くほど信用はない。…あ、何か泣きたくなってきた)。分かっては、いる、けど、
「だ、…駄目じゃないです。 」
うわ、吃った。クッソ最悪だレディ相手に何やってんだよ格好悪ぃな、
そんな風に慌てる脳みそのもう半分で、他人事みたいな冷静な自分が考えていた。
…あーあ、そんな事言われたら、期待しそうになるんですけど。
*
「『電人HALの悲哀』、『目羅博士の不思議な実験』、…『ギャラリー』、」
人生の一大事みたいな、真剣な表情でポスターを見比べる名前ちゃんに忍び笑いを溢した。意外と色々上映してるんですねぇ、なんて感心したみたいに呟く彼女の視線を追っていく。
「…『電人H∧Lの悲哀』。名前ちゃん、SF好きだよね。」
「えっ、…まぁ、私は好きですけど…。店長さんは、」
「俺は君が好きなのならなんだって大好き。」
「……そっ、それは、無しの方向でお願いします。」
「ええー」
頑なに名前を呼んでくれない彼女と、適当な軽口で誤魔化しながら会話する俺と。目の前で髪の毛が揺れて、一瞬だけ甘い香りが鼻を掠めた。無防備な横顔。俺の視線には気づかない。
「あー、じゃあ、これにしねぇ?」
「…恋愛映画とか、お好き、ですか?」
「んー、まぁね。嫌?」
「あっ、…いや、じゃなくて、」
「…じゃなくて?」
頑なに、俺の方を見てくれない彼女と、何とかしてこっちを向かせたい俺と。妙に諧謔心を擽られる、困ったみたいな顔の名前ちゃん、の、視線を追った。少しだけ明後日の方を見たあと、ほんの一瞬だけ俺を捉えて。それから、
「あ、…あなたが好きなのなら、私も好きだと思います、」
「……えっ、」
「…な、なんちゃっ、て。」
ああもう本当にらしくねェ。
みるみる耳が熱くなってくるのを感じながら、じゃあチケット買ってくるから、とかなんとか言い訳をしたような気がする。窓口の係員には妙な目で見られたけど、とりあえず耳まで熱いこの惨状をあの子に見られなかったんだからまぁいい、って、本当に俺は馬鹿みたいだ。
*
『人目惚れにもレシピがあるのよ。』
歌うみたいな調子で、スクリーンの中の女優が喋る。熱っぽい視線でそれを見詰める名前ちゃんは、やっぱり俺の視線には気づいてないんだろう。
ポップコーンを摘まんだまま静止した細い指先を見ながらぼんやりと、手を繋いだ時の体温を思い出す。少しだけ人より体温が高い、指先。何時もはポニーテールにしてる髪の毛。何で今日は下ろしてるんだろう、なんて本格的に映画とは関係ない事を考え出す。
『材料は顔見知りの二人。お互いの好意を絡めてよく混ぜ合わせて一丁上がり。』
いきなり名前ちゃんがこっちを向く気配がして、慌てて視線を反らした。からかうみたいな調子で、スクリーンの中の女は言葉を続ける。
『気づいたときにはもう遅いの。さぁ、ボナペティ!』