君はかわいいエトランゼ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼女の事を知りたい。
例えば好きな小説、映画、メロディー、哲学言葉台詞、なんだっていい。俺とは違う景色を見ている、何から何まで俺とは異質な、君の事が知りたいんだ。
微かに微笑みながら本のページを捲る名前ちゃんを見ながら、俺はいつだってそんなことを考えていた。と、思う。うちみたいな店には来ないタイプだな、確か最初はそんな程度の印象だった。
名前ちゃんが、最初にうちの店に入って来た時。
店の一番端にあるテーブルに妙に背筋を伸ばした姿勢で座って、妙に畏まったような口調で注文をして。ぎこちない手つきで本のページを捲る背中は、入ったことを後悔してます、なんて語ってるみたいに見えた。そんな風に居心地の悪そうな仕草でいた癖に、前菜をテーブルにおいた瞬間に全て忘れてしまったみたいに目を輝かせて。それから、本当に幸せそうに、まるで宝石でも扱うみたいな手つきで料理を口に運んで、
…随分、美味そうに食べるな。とか、そんな程度の印象。居心地の悪さなんて、何回か通う内に忘れてく物、だと、思ってたんだけど。それ以来、火曜日の午後一時半きっかりに店に来てくれるようになった名前ちゃんは、いつだって居心地悪そうにそこに座っていた。畏まったような口調で注文をして、緊張しながら料理を待って、嬉しそうに、物凄く嬉しそうに俺の料理を食べていく。
それから、
あれはいつだっけ。あの子がこの店に通うようになってから一ヶ月目位の頃か。仕事帰りに何となく寄った近くの書店で彼女を見かけて。傍目にも楽しげに本だらけの店内を歩いて、ペラペラとページを眺めて穏やかに笑う。ああこの人はこんな風に笑ったりもするんだ。そんなことを思ってからは、店に来る度にあの子がどんな本を読んでるのか気になるようになった。
話しかけるのを躊躇うようになったのも多分それからだ。いつだって取り繕おうとするあの子の、秘密を見つけてしまったような密かな罪悪感。
本を読んでいる時の、妙に無防備な名前ちゃんをぼんやりと思い出す。背筋を正して居心地悪そうに、それでも本からは目を離さない。熱っぽい視線で文字を追っている真剣な顔。俺が料理を持って来た瞬間にしまっちまうから、いつだって一体何を読んでるのか分からなかったけど。
強引に切っ掛けを作って、少しは会話だって交わせるくらいにはなった。だけど相変わらず、彼女はどこか居心地が悪そうに俺を見るんだ。触れたら逃げてしまいそうな雰囲気なのに、ふとした瞬間に熱に浮かされたみたいな目を向けてくる、か ら、あの時のよく分からない罪悪感を思い出してどうしていいかわからなくなる。今だってそうだ、俺は微かに罪悪感を感じながら何とか取り繕って笑って、
少しだけ見開いた名前ちゃんの目の中に、妙にぎこちなく笑う俺が写り込んでいた。彼女の手から器を奪った、瞬間に少しだけ彼女が体を震わせたのが分かってさらにどうしたらいいんだか分からなくなる。
彼女の事が知りたい。居心地の悪さの理由とか、この罪悪感の正体とか。どうしたら、あの日見たみたいな顔で俺に笑ってくれるのか、とか。
「例えばさ。7ヶ月と2週間前から君の事知りたかった、って言ったらどうする?」
こんな風に本音を茶化すみたいな台詞で誤魔化して、言ってしまってから少しだけ後悔した。こんな事言ったら警戒されるかも知れないだろ、とか、馬鹿みたいだし本当にらしくねぇ。
結局は、気がついたら俺はその位に名前ちゃんにやられてたって事なんだろうけど。