君はかわいいエトランゼ
名前変換
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ぺらぺら。
「わっ、和食、大好きなんですあのほら、やっぱり心の故郷は母親の味噌汁って言うか」
「あ、いや私の母は味噌汁ってそんな得意じゃなかったんですけど、私は味噌汁大好きで、何て言うかさ、さ、……店長さん。が、作ったのが好きと言いますか」
ぺらぺらぺら。
「店長さんは、本当になんでも作れるんですね、マグロ丼なんてこのお店で食べられると思いませんでした。…あ、あの、三年間毎日マグロの件ですが、あれは別に偏食とか言うわけではなくて」
ぺーらぺらぺら。
「ただほら、マグロが好きだったというか、叩きとかユッケとかヅゲとか色んなバリエーションがあっていくら食べても飽きが来なくって、…さ、最近、温泉卵とマグロの叩きのくみあわせの素晴らしさに気づいたんですけれど、も」
……あ、あれ?私は一体、何を喋っているんだろう。混乱してる頭とはまるで別の生き物みたいに、自分でもビックリするくらいに口がよく回る。これから時間ある?なんて誘いかたがデートみたいだなんて、自意識過剰にも程がある事を考えてしまったら、異常に緊張してしまって自分でも何を話してるのか分からなくなってしまった。
彼(どうしても名前が呼べない、何かもう呼べない)の事を、正面から見るのが恥ずかしすぎてとりあえず首の辺りを見つめながら、やっぱり口だけが別の生き物みたいにぺらぺら、ぺらぺらと動き続ける。
「安いビンチョウマグロは邪道とか言うひともいるんですけど、私は百円寿司のビントロも大好きで、やっぱりピンからキリまで幅広い値段で食べられるところがマグロの魅力と言います、か、……」
やばい、そろそろ話すこともなくなってきた。慌てながら次の話題を捻り出そうとした、ら、目の前の彼が微かに笑いを噛み殺してることに気がついて、恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。…何で、私はマグロの魅力についてこんなに語ってるんだろう。色気もへったくれも無さすぎる。
「…あ、えーと、それでですね、マグロが」
いや他にも話題はあるだろう。私は馬鹿なんだろうか。内心で自分に突っ込みを入れながら、それとなくサンジさんの顔を見上げて、また言葉に詰まってしまう。
「マグロが?」
「あ、あはは、いや、なんかすみません、何でもないんです。とにかく、私は別にマグロばかり食べてるわけではないと言いますか」
「マグロばっか食ってる君も可愛いと思うけどなぁ」
「いっ、いやいやいやご冗談を」
「いや、冗談じゃなくて本気で」
「…は、はは、これは異な事を」
「そんな時代劇みたいな事言わないでよ、」
ああ、なんかほんと、前にもこんなことがあったような気がする。可愛いとか、冗談でも勘違いしそうになるからやめた方がいいですよ、とかなんとか。そんな感じの事を言えたら良かった、んだけど。
彼が、真剣な目で私を見ているような気がして、自意識過剰だとかそんなことを考える前に舌がとまってしまった。ついでに呼吸も止まったような気がする。
「なぁ、名前ちゃん。」
「……!」
…何だろう、この間は。そんな風に妙に色っぽい声で、名前を呼ばれると、こちらとしてはどうしていいんだかわからなくなってしまうのですが。さっきまでお店にいた、あのお姉さんなら茶化したりだってできてしまうんだろう。この人は誰にたいしてだってこんな感じなんだから別に私が慌てふためく必要なんて全くないのに、何でこうもぎこちなくなってしまうんだろう。
目があったら今度は逸らせなくて息が止まるなんて、まるで蛇に睨まれた蛙、またはメデューサと人間。そんな例えが頭をよぎってしまって内心落ち込んだ。もう少し色気のある例えはできないものか。多分、こんなんだからこの店に馴染めないんだ。