君はかわいいエトランゼ
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黒蜜、おいしいなぁ。頭の中でそれだけを反芻しながらひたすらスプーンを動かす。やっぱり日本人の、いや私の、心のふるさとはクリームあんみつだ。いや、さすがにそれは言い過ぎか、
店長さん、いやサンジさん、が、カウンターからこっちを見ている、と思うのは多分気のせいだろう。あんまり意識しないように、あんみつに集中するんだ、なんて自分に言い聞かせる。
「名前ちゃん、和食も好きなんだな、」
そうやって必死で目の前のあんみつをひたすら凝視していた私は、いきなりかけられた言葉に顔を上げた。…や、やばい、目が合った、
…こくり。無言で頷いたら、彼は少しだけ目を泳がせてからにっこり笑って、
「あいつらが言ってたんだ、3年間毎日マグロ丼ってさ、」
「あ、いやその、それはですね、」
…あ、あのおっさん…!何て事を暴露してくれてるんだ…!
毎日マグロ丼ってわけじゃなくて、一応マグロの叩き定食とヅケマグロ定食ととろろマグロ定食とただのマグロ定食をルーティーンしてるんですけど。と、弁解しようかと思ったけど止めておいた。全部マグロの刺身な事に代わりはないし、既に大盛頼む所まで見られてるわけだし、どっちにしろ色気がなさすぎる事に代わりはないわけで、じゃあ色気のあるメニューって何かと言われるとさっぱりわからないけど、
せめてたまにはサンマの塩焼き定食とか、肉じゃが定食とか、筑前煮定食とかも頼むんです、とかいっといた方が良いのかな、
「あー…その、さ。」
「さっ、サンマの、」
「…サンマ?」
「あ、いや、何でもないです。」
何でこう、タイミングが悪いんだろう。サンマの塩焼きとかも頼むんです、言おうとしたら同じタイミングでサンジさんが口を開いて。…まぁでも、サンマの塩焼きとかも頼むんです、なんて言わなくて良かった。冷静に考えてみたら言ったら赤っ恥じゃん、
「…テリーヌだろ、」
「テリーヌ?」
「パエリアに、アールグレイ、オムライス、アップルパイにラズベリームースにチーズケーキに、」
「?えーと、あの、何、」
「何って、君の好きな食べ物。あとマグロ丼と、あんみつだよな、」
ぐるぐるとそんな下らないことを考える私をよそにすらすらと言葉を並べる。私の好きな食べ物。前も思ったけど、そんな話はした覚えなかったんだけど。サンマ好きなの?ふいに質問されたので我に返ってはい、とだけ答えた。彼はふわりと笑う。うわ、やばい顔あつい。
ごまかすみたいにあんみつを掬って口に入れる。
サンジさんが、向かいの席にすとん、と座った。余裕綽々な表情で私を見る、ので、また居心地が悪くなって。心臓がうるさいのをごまかそうとあんみつをひたすら見つめる。
間の悪いことに、いや、良いことに?店には私と彼しかいなくなっていて。あんみつを一口。…おいしい、はず、なんだけど味がわからない。
「あっ、あんみつ、おいしいですよね、邪道かも知れないけど私はアイスのってる方が好みで、……あ、」
前にもこんなことあったなぁとか、頭のどこかで考えていた。あっさりとあんみつの器を取り上げて、にこにこと嬉しそうに笑いながら。からかうみたいな口調で言って私を見る。さっきから何なんだろう、
「これ、君の為に作ったんだ。」
きみ、黄身、…
君?ああ私の事か、私の為にあんみつ、
「和食好きだとかもあいつらから聞いてさ、…パティとかの方が君に詳しいってのもなんか癪なんだが。」
…マグロ丼に、蟹出汁の味噌汁に、煮物に、茶碗蒸しだろ。サンジさん、は、次々と私の好物を言い当てていく。…こうして聞いてると、まるで色気のないメニューだな。そんなことを考える混乱した頭はまるで使い物にならなくて、彼の言葉は更に頭を混乱させていく。
「食べ物に限った事じゃねぇんだけど、例えば君の好きな物が知りたいとか思ったりしちまってさ、」
なんか口説かれてるみたいだ。いやそんなことはないんだろうけどまるで、
顔が熱くなっていくのがわかった。サンジさんが、軽やかに笑う。私を見下ろして、
「つーわけで、これから時間ある?名前ちゃん。」
チーズケーキ奢るからさ。いつのまにか手の中に戻ってきたあんみつの器を両手で握りしめた。暇です時間あります、驚くほど有り余ってます。出した声は上ずってて格好悪いことになっていて。まるで口説かれてるみたいだ、とか思ってしまうのはきっと想像力過多なんだろう。例えばあの女の人だったら、冗談みたいに軽くあしらったりするのかも、
取り繕えないとか異質とか、色々理屈を考えてみても仕方がなくて、この状態が気紛れだとしても嬉しいことに変わりはないわけで、
混乱した頭で考えられるのはせいぜいこれだけだった。奈落のそこまでフォーリンラブ、とかなんとか。