君はかわいいエトランゼ
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マグロ丼に醤油を回しかける。最初は少な目に掛けて、マグロの味を堪能するのがポイントだ。宝石みたいなんて、馬鹿なことを本気で考えながら一口…おいしい、めっちゃおいしい。
マグロ丼なんてご飯に刺身をのせるだけな訳で、だからつまり、どこの店で食べても、いっそ自分で作っても味なんかそう変わるもんじゃない、と、思ってたんだけど。何で彼の作るものはこんな美味しいんだろう、
「おいしい?」
我に返ってみたら、野良猫に餌をやるマリア様みたいな顔で、サンジさんが私を見ていて。今更だけど妙に照れくさくなってきたので、にこにこと嬉しそうに笑う彼から目を反らして、お吸い物を一口。…おいしい、めっちゃくちゃおいしい。
「…めちゃくちゃおいしい、です。」
「そりゃ良かった。」
「あ、あの。」
「ん?」
目が合ってしまわないように、マグロ丼をひたすら見つめながら平静を装って言葉を続ける。どうしたって意識してしまうけれど、それを悟られちゃったら死ぬほど恥ずかしい、
「パティさんとカルネさんと、お知り合いなんですか?」
「うん、昔、同じ店で修行しててさ、たまに店手伝わされんの。」
「あ、ああ、なるほど…」
「いつもは面倒臭ぇだけなんだけど、こないだは君に会えたからラッキーだった。」
私もです。内心そんなことを考えているうちにじわじわと顔が熱くなっていく。こういうのなんて言うんだっけ、慣用句?いや、お世辞、じゃなくて。とにかく、サンジさんからすればこれといって深い意味のある言葉じゃない、ん、だから、つまりそれを言われて私がこんなに狼狽える必要もないわけで、
「……名前ちゃん、」
「は、はいっ。」
いつもは大盛りなんて頼んでないんですあの日は偶然なんです、なんて言い訳しようかと思ったけど馬鹿みたいだから止めておいた。茶碗蒸しをひたすら見つめる。かまぼこと三葉ののってる、ぷるぷるの、つまり、私はサンジさんの方なんかちっとも、これっぽっちも意識してない、
「……マグロ丼、好き?」
「…大好きです、」
因みにあなたのことはマグロ丼より好きです、なんちゃって。あ、まあマグロ丼も大分捨てがたいんですけど、気を紛らわせるためにそんなことを考えながら、サンジさんの少し歯切れの悪い口調に顔をあげる。
「…そっか、そりゃ、よかった。」
「……」
居心地が、悪そうだな。そう感じるのは例えば今みたいな時だ。何かを言いかけたみたいな、歯切れの悪い言葉。私が視線を会わせる前にサンジさんは一瞬だけ目を反らして、それからにっこりといつもの調子で微笑む。デザートはクリームあんみつだから、その言葉に気を取られながら、茶碗蒸しに夢中の振りをして、私はこっそりと彼に視線を注ぐ。
やっぱり、違うような気がする。
他の女の子に接するときのなれた感じではなくて、何となくやり辛そうな雰囲気、というか。
お吸い物を飲みながら、背もたれの高い椅子の上でもぞもぞと座り直す。テーブルの上のマグロ丼は、私と同じくらいにこの店に馴染めていなくて、どう考えても居心地が悪いことには変わりないんだけど。
私のいるこの空間で、サンジさんは私ほどではないにしろ居心地が悪そうな佇まいなのはなんでなんだろう。
…私は、彼にとって、そんなに異質な存在なんだろうか?