君はかわいいエトランゼ
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「……俺は馬鹿なんじゃねぇかと思う…」
「…おお、悪いが否定できねェ」
魚の骨に沿って包丁を入れていく。骨に残った脂も残さないように、丁寧に削ぎ落とす。自分の行動に自分でも若干落ち込みながら、それでも手は止めないでひたすら仕入れてきた魚の下処理を進める。
「…いや、だって三年間毎日マグロって、どんだけマグロ好きなんだよ、ああもう…!」
「…お前の店、洋食屋じゃねぇのかよ。」
マグロ丼があればいいとか、そんな問題じゃねぇ事くらいわかるけど。三年前間、毎日。この店はオフィス街からは遠いし、毎日昼時に通える距離じゃねぇ事もわかるけど。確かに、彼女はカルパッチョも好物だったっけ。そう思ったらなんかこう、居ても立ってもいられない気になって、
「…で、マグロ仕入れに行ったのかよ、築地まで。」
「…うっせぇよ放っとけよ長っ鼻…」
呆れた顔つきで俺を見て、ウソップが言った。いつもみたいに口説きゃいいじゃねぇか。…それができれば苦労はないんだけど。
「…だって来てくんなくなるかもしれねぇもん…」
「サンジお前、意外と面倒臭ェよな…」
時刻は11時30分。あの子が店に来るまで、あと一時間半。客足が途絶えた隙に早く全部済ませないと、そんなことを考えながらマグロの処理を終わらせた。あとは茶碗蒸しと澄まし汁と、
………カランカラン。
店に響いたベルの音に顔をあげる。
「サンジさん、お久しぶり。」
「あァはるかちゅわん久しぶり、来てくれてクソ嬉しいよ。変わらず可愛いね、」
「あはは、やだぁ、相変わらず気障、」
「思ったことを言ってるだけさ、プリンセス、」
呆れた顔つきでウソップが俺を見ている。ぼそりと一言、だからなんでそれができねぇんだって。…だから、これができたら苦労はないんだけど。…あの子はこうやって軽く口説いて良いような子じゃねぇんだよ。
*
1時間後。久しぶりに店に来てくれたレディを見送って、茶碗蒸しを作る。蒲鉾とえのき、鶏肉に海老に、…銀杏は嫌がりそうだから抜いておこう。昨日のうちに手をかけて作っただし汁に卵を合わせて、あとは20分蒸すだけ、
…カランカラン。
「…あの、…今日のオススメ、マグロ丼って、……。」
響いたベルの音に顔をあげる、前に照れたような細い声で名前ちゃんが言う。マグロ丼、お願いします、サンジさん。
「大盛りにするかい、名前ちゃん?」
「お、………お願いします…」
からかうみたいな声で言ってやれば、面白い位に顔を赤くして。触れたら逃げてしまいそうな雰囲気。彼女はこの店のエトランゼだ。名前を呼んでくれるようになったのは最近の事だし、 少しは話してくれるようになったけど、居心地の悪そうな佇まいは相変わらずで。
涼しい顔して会話しながら、内心で必死で考えていた。
マグロ丼があればいいとか、そんな問題じゃねぇ事くらいわかる。わかってはいるんだけど。
週一回、火曜日にだけやってくる可愛いエトランゼ。
…君と、もっと近づくには、どうしたらいいんですかね。