君はかわいいエトランゼ
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「ヘイ、らっしゃい!」
こいつらの店は相変わらず騒々しい。上に、客も野郎ばかりでむさ苦しい事この上ない。厨房で魚の鱗を取りながら思った。何で店が定休日の木曜日をわざわざ潰して俺がこんなクソレストランを手伝っているのか、と、言うと。
「お、おおおおい、サンジどうしよう、あの子来たぞ、」
「うっせェカルネ、むさ苦しい顔近づけんじゃねェよ」
むさ苦しい野郎ばかりのこの定食屋の昼時に、週三日やってくるクソ可愛いレディがいるそうで。カルネがそのレディと仲良くなりたいそうで。それがどうした、俺には全く関係ねぇ。
そう思ったんだが、大食いなのに大層かわいらしいとしつこく毎晩電話(思い出すだけで気持ち悪い)されて、根負けした。要するに、レディの口説き方を教えろと。そういう事らしい。
「おおお前、そっから覗いてろよ声かけんなよ」
「………」
可哀想な位に緊張しながら注文を取りに行くカルネを目で追う。…しかし、こんなクソむさ苦しい定食屋に、かわいらしいレディなんて、
「いいいいらっしゃい、名前ちゃん茶を、」
「あ、ど、どうもすいませんカルネさん、ご丁寧にわざわざ」
……何か聞いたことある声が。
「いいいんだ、あ、ほら、注文は、」
「そうですね、えーと、マグロの叩き丼定食で。わさびとガリは抜きで、」
…まさかな。まさか。まさか名前ちゃんが、いる訳ない。思いながら厨房の扉から顔を出す。
「おう、いつも通りわさびとガリ抜きで、」
「はい。で、マグロもご飯もおおも、りで………」
「おう、いつも通りおおも、」
「いや、今日はたまたま!なんか知らないけどおなか減ってるので!大盛でお願いします。」
目が合った瞬間に、すげぇ勢いで目を反らされる。カルネがこっちを向いて、引っ込めとジェスチャーをするが無視して、厨房から彼女を見つめる。…何で、名前ちゃんが、ここに。
「き、今日は暑いなぁ名前ちゃん」
「あ、そ、そうですね、はは、本当にあはは」
…ここは、オフィス街の裏通りの定食屋だ。安い早い旨い(最後のは本当かどうか怪しいが)がモットー、客は野郎ばかりで、小洒落た店の多いこの界隈じゃ浮いているのか昼時でも割とすいてる。…何でも何もなかった、確かに名前ちゃんの好きそうな店だ。
「…おいパティ、あの子いつからここに来てんだ?」
「あァ、三年くれぇ前からかな、毎日マグロ丼ばっか食って飽きねぇのかな」
「ま、…毎日!?」
「てめ、うっせぇよチビナス!」
思わず大声を出した俺の口をパティのむさ苦しい手が塞ぐが、そんなことも気にならない位に動揺しながら考える。三年間、毎日、名前ちゃんが、この店に。俺の店には八ヶ月、しかも火曜日の午後にしか来てくれないってのに、このクソ極道コンビがやってる定食屋には、三年前、それも毎日、
「…手ェどかせクソ野郎。」
毎日、三年間。頭の中でぐるぐるとそれだけを考えながら、苛立ちをぶつけるようにマグロを微塵に叩いていく。あの子は嫌がるだろうからネギを少な目にして、代わりに海苔と水菜をトッピングして、味噌汁の代わりに澄まし汁。遠くの方で勝手にメニュー変えんなとか言う声が聞こえた。知るかボケ。
「おおお、おいサンジ、見たかあのほげぶっ!?」
「おう、とりあえず表出ろカルネ」
持ってけクソ野郎。パティに出来上がったマグロの叩き定食を押し付けて、厨房に戻ってきたカルネを店の裏口へ引っ張り出した。
「何だよてめぇいきなり、」
「うっせぇカルネこの野郎、気安く名前ちゃんなんて呼びやがって」
「はァ?、お前が名前聞き出せって、…ほげっ!?」
俺の店ではあんなに居心地悪そうにしてる名前ちゃんは、なぜかこの定食屋にはひどく馴染んでるように見えて。三年間、毎日。どうやらカルネがあの子の名前を知ったのは最近の事ではないらしい。しかも、彼女もあっさりと名前を呼んだ。…俺の名前を呼んでくれるようになったのは、つい最近だ。
蹴り倒したカルネの上に腰を下ろして、煙草を吸いながら考えた。……マグロの叩き定食、メニューに入れようかな…。