君はかわいいエトランゼ
名前変換
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頬を冷ましながらとろとろと駅への道を歩き出す。無理めな恋(なんちゃって)、週一回話せるだけでも満足しなきゃいけないけど。惜しい事したなぁ。さっき、せっかく会えたのに。
「名前ちゃん」
ひっそりとため息をついてから、また駅へ進めようとした足をピタリと止める。何か店長さんみたいな人が私の名前を呼んだような気が、
「あー、その、さ。」
やっぱり空耳じゃなかった。
振り向いた先にいた店長さんに、心臓が跳ね上がった。ゆっくりと私に近づきながら、店長さんは少し言い辛そうにがしがしと頭を掻く。いつも私相手に饒舌な店長さんが、少し迷ったように口を開く、のが珍しくて、きょとんとした顔をしてしまう。
「えーと、……良かったら、送るよ。こんな時間に女の子一人じゃ危ねェし。」
「…え、…いいんですか?」
「…あ、いや、別にやましい事とかは一切考えてねェから、」
「…やましい事って……ははっ、じゃあお願いします。」
いつになく慌ててそう付け加える店長さんがなんか可愛くて、少し笑ってしまう。何とも色気のない笑い声を上げた私に、店長さんがいつもの調子に戻って仰せのままに、なんて言ってくれて。声のトーンもいつも通りなのに、その顔が少し赤くなっているような気がして、私はまた笑ってしまう。
「ちょ、名前ちゃんなんでそんな笑うの」
「え、だってなんか今日、店長さん可愛くないですか?」
私の言葉に困ったような顔をする店長さんが面白くて、まだ火曜日じゃないのに店長さんと話せるのが嬉しくて仕方がなくて。そういえば店の外で話すのは初めてかもな、そう思ったら浮かれて足取りも軽くなる。
駅までの長いようで短い距離を、それでも極力ゆっくり進む。店長さんと話しながら、浮かれた頭は時間よ止まれ、なんて馬鹿な事を考えていた。
「うわっ、」
「っと、危ねェ。意外とそそっかしいね名前ちゃん」
「お、恐れ入ります…」
駅まで後五分の距離って所。転びそうになるのを、引っ張ってくれた、のは、いいんだけど。店長さんは、いつの間にかいつもの余裕綽々な雰囲気を取り戻して私に微笑む。
「て、店長さん、て、手、」
さっきまで店長さんをからかっていた私は、じわりじわり熱くなっていく顔を彼にからかわれる。なんか今日名前ちゃん可愛くないですか?なんて、少し前の私の口調を真似て。
「て、手、あの、」
「手がどうかした?」
「手を、離したりは、しないのかな、なんちゃって、」
大きくてきれいな手が、私の手に指を絡める。嬉しさよりも恥ずかしさが勝って、目を白黒させながら、でも足は止まらずに駅へと向かう。
「んー、名前呼んでくれたら離すかもなぁ、」
「ええー…」
駅まで後少しの所。その言葉に、更に顔が熱くなる。名前を呼ばなかったら、ずっと手を繋いでいてくれるんですか?なんて聞くわけにもいかない私は、頭の中で目一杯に叫んだ。時間よ、止まれ。
最初は、見つめてるだけで良かった。さっきまでは、話ができるだけで良かった。どんどん欲張りになっていく自分が馬鹿みたいで、熱い顔を俯かせる。今は、もう少し長く手を繋いでいたい、なんて。当たり前だけど、願った所で時間は止まらない。
「あーあ、着いちまった。」
駅前で足が止まる。するりとぬけだそうとする手を捕まえれば、店長さんは少し目を丸くして私を見る。フォーリンラブ、なんちゃって、なんて。さっきまではそれで完結できていた恋心は、店長さんと話す度にどんどん大きくなっていく。
もう無理だ、『なんちゃって』なんかに納めきれない。店長さんの目の中に映り込んだ私が、口を開いた。
「さ、サンジさん、また火曜日に。」
ぱっと手を離して、振り返らずに。私の微妙な意識の変化なんかには気づかない、店長さんが呟くのが聞こえた。
「そそっかしいなぁ名前ちゃん、」
奈落の底までフォーリンラブ。火曜日は、どんな顔をして彼に会いに行けばいいんだろう。