君はかわいいエトランゼ
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「あ、名前ちゃん。もし、良かったら、なんだけど。」
「はい、何でしょう、」
「その本、読み終わったら貸してくんねぇ?一回ちゃんと読んでみたくてさ。」
「!は、はい、喜んで、あ、てゆーかもう読み終わったんで今貸しますよ」
「え、まじで?ありがとう。」
「いえいえ、感想、教えて下さいね。」
「あァ、じゃあ来週までに読んどくよ」
あの日以来毎週、店長さんにおすすめの本を貸して感想を聞くのが習慣になっていた。私が好きな本を店長さんが読んでくれるのが嬉しくて、その本を好きって言ってくれたらさらに嬉しくて。
仕事帰りの午後十時。あと4日したら店長さんと話せる、なんてへらへらしながら深夜営業の本屋に入った。
話してるだけで満足だ、そう自分に言い聞かせながら、店長さんの事を考えるだけで顔が緩む。フォーリンラブ、なんちゃって。本のタイトルを眺めながら店の中をふらふら歩いた。
そういえば、好きな雑誌の新刊がもう出たっけ。出版社別にひらがな順になっている本棚の分類に目を滑らせながら、目当てのものを探す。えーっと、『が』、だから、ここら辺かな…あ、あった。
意外と高いところにあるその本を取ろうと背伸びをして手を伸ばす。伸ばす。伸ばす……無様な背伸び姿は人に見せられるもんじゃない。
届きそうで絶妙に届かないな、やっぱり踏み台借りようかな、
「…あ、」
取ろうとしていた本が誰かの手で抜き取られて、私に差し出された。
「どうぞ、プリンセス。」
さっきまで、考えていた人の声。
「…!、ありがとうございます、」
…なんて、ベタなシチュエーションだ。なんて考えなかった。どうして店長さんがここに、とか思ったりもしない。
この本屋はあのカフェの近くだから、店長さんが店を閉めてから、ここに立ち寄っても別に不思議ではないし。というか、私がこの店に通う理由も、ここで店長さんを見かけたことがあるから、なんだけど。
いざ本当に遭遇してしまうと、何を言ったらいいのかわからない。反射的にお礼を言って本を受けとった後、思考が止まってしまった。どうしよう、何か言わなきゃ何か。
「あ、あの、」
「じゃあね名前ちゃん、会えて嬉しかった、また火曜日に。」
「あ、はい…」
結局、何か言う前にさっさとどこかに行ってしまった店長さん、の、後に残された私は、自分のとろさを呪った。わ、私のぐず…!
店長さんに遭遇したら何を言おうか頭の中をぱんぱんにしながら3ヶ月この書店に通っていたのに、本当に遭遇したら何も言えなかった、上に。
店長さんが取ってくれた雑誌の表紙に目を落とす。『世界の謎と不思議に挑戦する、超科学雑誌月刊ムウ』。今月号の特集はフリー○ーソンだ。読むの楽しみ…って、そうじゃなくて。
…み、見た、かな。雑誌の表紙。
色々な意味で熱くなってくる顔を俯かせてレジへ向かう。なんで、今日に限って、この雑誌。おしゃれファッション雑誌とか買っとけば良かったのに。全力で後悔しても、後の祭りにも程がある。油断してた、まさか本当に店長さんに会えるなんて思ってなかったんだ。だけど、やっぱり会えたのは嬉しい。
ぐるぐる考えながら会計を済ませて早足で出口へ向かう私を、レジの店員の無機質な声が追いかけた。
「アリガトーゴザイマシター」
まぁ、考えようによっては、これで良かったのかも。週一回の邂逅。それ以上を望んだら、きっと『なんちゃって』なんて言ってられなくて、どんどん欲張りになってしまうから。