君はかわいいエトランゼ
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高嶺の花、みたいな。あ、これは女の人に使う表現だっけ。立てば芍薬座れば牡丹…も、違うなぁ。
火曜日の午後。
カウンターの左隣、店の一番奥の席からぼんやりカフェの店長さんを眺める。イケメンシェフとか言ってテレビに取材されてもおかしくないくらい整った顔な彼は、店の奥で女の子とご歓談中だ。あ、あの子見たことあると思ったら、あの雑誌のモデルさんじゃん。
そんなことを考えながらチャーハン(おしゃれな言い方をすればピラフか?)を口に運ぶ。おいしい。めちゃくちゃ、おいしい。
なんかおしゃれな名前のついてるこのカフェは、それはそれは格好いい店長さん(しかも、女の子にやさしい)とめちゃくちゃおいしい料理のせいで大人気だ。こんな辺鄙な所にあるのに。
なんでもっと大通りに店、出さないのかなーなんて考えながら澄まし汁(コンソメ?)を口に運ぶ。おいしい。めっちゃおいしい。
この店に通う沢山の女の子と同じように、私も店長さんが大好きだ。ただ、先ほども見たとおり彼はモデル級美女からももってもて困っちゃうなわけで。てゆーか、別に困ってはなさそうだけど嬉しそうだけど。まぁ、それはいい。
とにかく、彼は高嶺の花、無理めな恋、みたいな奴なんだ。雑誌には無理めな恋を掴むなんて特集がよく組まれたりするけど、まぁ、そんな雑誌のモデルさんはあそこにいる美女なわけです。
…そりゃあさぁ、あんなに可愛かったら無理めな恋もたかがしれてるでしょうよ!せいぜい百均で三百円のを買うくらいの無理でしょうよ!
…なんかものすごい生活感溢れるたとえをしてしまった。こんなおしゃれなカフェの中で。
そんなこんな考えながらなんかゼリーみたいのを口に運ぶ。…おいしい。なんか知らんがめっちゃおいしい。
いつもなら、私が一人で料理とかしてる店長さんを見てられるんだけどなぁ…。ぼんやりと店長さんご歓談の様子を眺めながらサラダを口に運ぶ。…おいしい。眺めていたら店長さんと目があってしまった。ので、私はあなたなんて見てませんよ、あなたの向こうの壁を見てるんですよ、という演技で乗り切った。
妙に気恥ずかしいので、サラダに乗ってるクルトンをフォークで刺すのに集中する、ふりをする。
視線を感じなくなったので、またこっそり店長さんを眺める。…うん、格好いいなぁ。
仕事が休みの火曜日の午後。私がいつも座っているこの席からは、カウンターにいる店長さんがよく見える。
一度くらい名前で呼ばれてみたいとか、頭なでられたいとか、で、デートしてみたいとか、いや、デートって!微妙に話した事しかないのにいきなりデートって!…いや、違った。話が逸れた。とにかく、そんなようなことは思ってない。全然、全く、驚くほど、私はそんなことは思っていない。本当だってば(誰に言ってるんだ?)
私は、店長さんをながめるだけでも割と満足だ。
だって店長さんイケメンだし、ここのご飯おいしいし。いーんです私はそれだけで文字通りお腹いっぱい(本当だよ)。
いつもはデザートも食べて帰るところだけど、ぱいおつかいでーなでるもさん(古い)とのご歓談の邪魔をするのも悪いのでこの辺で帰ることにした。
なんか会話に割ってはいるのが嫌で、店長さんが一瞬厨房に入った隙にランチ代金 1500円(あれだけおいしくてこれは、安いとおもう)を置いてダッシュで逃げた、じゃなかった、店を出た。
…なんか食い逃げでもしてきた気分だ。
*
外は今にも雨の降りそうな曇り空だった。
ぼんやりと雑誌の無理めな恋特集について考えながら、私は駅へ向かって歩く。あの特集には何て書いてあったっけ。確か、ギャップを見せて男心ゲット!みたいな感じだったような。まぁ、どうでもいいんだけど。
そういえば、店長さんはいつも髪結んでる子が下ろしてるとギャップがいいとか言ってたような(決してでるもとの会話を盗み聞いた訳ではない)。
……あ、今のは偶然店長さんの事が頭をよぎっただけで、別に私が無理めな恋をどうこうしようとしているわけではない。
決して、イメチェンで店長さんの男心をうんぬんかんぬんしたいわけではない。たまには髪の毛下ろしてもいいかなとは思うけど。いつも結んでるし。いや、別にイメチェンとかギャップをどうこうってわけじゃ、……あ、雨。
備えあれば憂いなし、なんて自分の用意の良さに感心しながらかばんの中を探る。こんなこともあろうかと折り畳み傘を持って……きたはずなんだけど…あれ?
ぽつぽつと本降りになってくる雨に濡らされながら焦る。あれ…カフェに忘れてきたっけ…
今更取りに戻るのは気まずい気がする。しかも、中学生の時から愛用している私の折り畳み傘にはしっかり名前が書いてあるから、直接店長さんから手渡してもらうのはかなり恥ずかしい。
いや、でも、こっから家まで結構歩くし…
迷いながら結局、来た道を戻ってしまった。とろとろ歩いてたからびしょぬれだ。今更傘も必要ないしやっぱり帰ったほうがいいかな………あ。
カフェの手前で足がとまる。
そこには煙草を吸いながら私の傘を眺めてる店長さんがいた。めっちゃかっこいい…て、そうじゃなくて。こっそり傘とってこっそり戻ろうと思ってたのに、どどどどうしよう…!
店長さんは私に気づいて、ちょっとびっくりしたように目を丸くした。
「あ…あの、すいませんそれ私の傘なんです。さっき、忘れてしまって、…」…恥ずかしさのあまりに言葉が尻すぼみになる。ぶわっと顔が熱くなっていくのがわかった。店長さんの手にある私の傘は、なんたって名前入りだ。しかも当時のクラスと出席番号まで書いてある。
「うん、名前ちゃん、だよね?」
店長さんはするっと私に近寄ってきて楽しそうに笑う。…名前、知られてるし…やっぱり傘、見たんだ…死ぬほど恥ずかしい。あ、でも名前呼んでくれたからちょっと嬉しいような、でも三年B組11番苗字名前とかかれた傘の持ち主が私だなんて忘れてもらいたいような、いや、でもやっぱり名前は忘れないで欲しいような
「傘、返すからさ、これからちょっと時間ある?」
「…え?」
一人で思考をフルスロットルさせていたら思いがけないことを言われてしまった。時間はある。今日はお休みだし、
「びしょぬれだしさ、ちょっと乾かしてってよ。そんなんじゃ風邪ひいちまうし、」
いつものケーキもご馳走するからさ。
そういって、店長さんは私の濡れた頭をくしゃっとなでる。
「…っ!あ、ありがとうございます…」
返事がしどろもどろになってしまったのは、頭撫でられてときめいてしまったから、ではなくて、ケーキに目がくらんだせい。本気にしちゃいけない、この人にとってはなんてことない出来事なんだから。自分に言い聞かせようとするけど、やっぱ駄目だ。
私はにやけそうになる顔を必死で引き締めながら、店長さんの後を歩いた。
火曜日の午後。
カウンターの左隣、店の一番奥の席からぼんやりカフェの店長さんを眺める。イケメンシェフとか言ってテレビに取材されてもおかしくないくらい整った顔な彼は、店の奥で女の子とご歓談中だ。あ、あの子見たことあると思ったら、あの雑誌のモデルさんじゃん。
そんなことを考えながらチャーハン(おしゃれな言い方をすればピラフか?)を口に運ぶ。おいしい。めちゃくちゃ、おいしい。
なんかおしゃれな名前のついてるこのカフェは、それはそれは格好いい店長さん(しかも、女の子にやさしい)とめちゃくちゃおいしい料理のせいで大人気だ。こんな辺鄙な所にあるのに。
なんでもっと大通りに店、出さないのかなーなんて考えながら澄まし汁(コンソメ?)を口に運ぶ。おいしい。めっちゃおいしい。
この店に通う沢山の女の子と同じように、私も店長さんが大好きだ。ただ、先ほども見たとおり彼はモデル級美女からももってもて困っちゃうなわけで。てゆーか、別に困ってはなさそうだけど嬉しそうだけど。まぁ、それはいい。
とにかく、彼は高嶺の花、無理めな恋、みたいな奴なんだ。雑誌には無理めな恋を掴むなんて特集がよく組まれたりするけど、まぁ、そんな雑誌のモデルさんはあそこにいる美女なわけです。
…そりゃあさぁ、あんなに可愛かったら無理めな恋もたかがしれてるでしょうよ!せいぜい百均で三百円のを買うくらいの無理でしょうよ!
…なんかものすごい生活感溢れるたとえをしてしまった。こんなおしゃれなカフェの中で。
そんなこんな考えながらなんかゼリーみたいのを口に運ぶ。…おいしい。なんか知らんがめっちゃおいしい。
いつもなら、私が一人で料理とかしてる店長さんを見てられるんだけどなぁ…。ぼんやりと店長さんご歓談の様子を眺めながらサラダを口に運ぶ。…おいしい。眺めていたら店長さんと目があってしまった。ので、私はあなたなんて見てませんよ、あなたの向こうの壁を見てるんですよ、という演技で乗り切った。
妙に気恥ずかしいので、サラダに乗ってるクルトンをフォークで刺すのに集中する、ふりをする。
視線を感じなくなったので、またこっそり店長さんを眺める。…うん、格好いいなぁ。
仕事が休みの火曜日の午後。私がいつも座っているこの席からは、カウンターにいる店長さんがよく見える。
一度くらい名前で呼ばれてみたいとか、頭なでられたいとか、で、デートしてみたいとか、いや、デートって!微妙に話した事しかないのにいきなりデートって!…いや、違った。話が逸れた。とにかく、そんなようなことは思ってない。全然、全く、驚くほど、私はそんなことは思っていない。本当だってば(誰に言ってるんだ?)
私は、店長さんをながめるだけでも割と満足だ。
だって店長さんイケメンだし、ここのご飯おいしいし。いーんです私はそれだけで文字通りお腹いっぱい(本当だよ)。
いつもはデザートも食べて帰るところだけど、ぱいおつかいでーなでるもさん(古い)とのご歓談の邪魔をするのも悪いのでこの辺で帰ることにした。
なんか会話に割ってはいるのが嫌で、店長さんが一瞬厨房に入った隙にランチ代金 1500円(あれだけおいしくてこれは、安いとおもう)を置いてダッシュで逃げた、じゃなかった、店を出た。
…なんか食い逃げでもしてきた気分だ。
*
外は今にも雨の降りそうな曇り空だった。
ぼんやりと雑誌の無理めな恋特集について考えながら、私は駅へ向かって歩く。あの特集には何て書いてあったっけ。確か、ギャップを見せて男心ゲット!みたいな感じだったような。まぁ、どうでもいいんだけど。
そういえば、店長さんはいつも髪結んでる子が下ろしてるとギャップがいいとか言ってたような(決してでるもとの会話を盗み聞いた訳ではない)。
……あ、今のは偶然店長さんの事が頭をよぎっただけで、別に私が無理めな恋をどうこうしようとしているわけではない。
決して、イメチェンで店長さんの男心をうんぬんかんぬんしたいわけではない。たまには髪の毛下ろしてもいいかなとは思うけど。いつも結んでるし。いや、別にイメチェンとかギャップをどうこうってわけじゃ、……あ、雨。
備えあれば憂いなし、なんて自分の用意の良さに感心しながらかばんの中を探る。こんなこともあろうかと折り畳み傘を持って……きたはずなんだけど…あれ?
ぽつぽつと本降りになってくる雨に濡らされながら焦る。あれ…カフェに忘れてきたっけ…
今更取りに戻るのは気まずい気がする。しかも、中学生の時から愛用している私の折り畳み傘にはしっかり名前が書いてあるから、直接店長さんから手渡してもらうのはかなり恥ずかしい。
いや、でも、こっから家まで結構歩くし…
迷いながら結局、来た道を戻ってしまった。とろとろ歩いてたからびしょぬれだ。今更傘も必要ないしやっぱり帰ったほうがいいかな………あ。
カフェの手前で足がとまる。
そこには煙草を吸いながら私の傘を眺めてる店長さんがいた。めっちゃかっこいい…て、そうじゃなくて。こっそり傘とってこっそり戻ろうと思ってたのに、どどどどうしよう…!
店長さんは私に気づいて、ちょっとびっくりしたように目を丸くした。
「あ…あの、すいませんそれ私の傘なんです。さっき、忘れてしまって、…」…恥ずかしさのあまりに言葉が尻すぼみになる。ぶわっと顔が熱くなっていくのがわかった。店長さんの手にある私の傘は、なんたって名前入りだ。しかも当時のクラスと出席番号まで書いてある。
「うん、名前ちゃん、だよね?」
店長さんはするっと私に近寄ってきて楽しそうに笑う。…名前、知られてるし…やっぱり傘、見たんだ…死ぬほど恥ずかしい。あ、でも名前呼んでくれたからちょっと嬉しいような、でも三年B組11番苗字名前とかかれた傘の持ち主が私だなんて忘れてもらいたいような、いや、でもやっぱり名前は忘れないで欲しいような
「傘、返すからさ、これからちょっと時間ある?」
「…え?」
一人で思考をフルスロットルさせていたら思いがけないことを言われてしまった。時間はある。今日はお休みだし、
「びしょぬれだしさ、ちょっと乾かしてってよ。そんなんじゃ風邪ひいちまうし、」
いつものケーキもご馳走するからさ。
そういって、店長さんは私の濡れた頭をくしゃっとなでる。
「…っ!あ、ありがとうございます…」
返事がしどろもどろになってしまったのは、頭撫でられてときめいてしまったから、ではなくて、ケーキに目がくらんだせい。本気にしちゃいけない、この人にとってはなんてことない出来事なんだから。自分に言い聞かせようとするけど、やっぱ駄目だ。
私はにやけそうになる顔を必死で引き締めながら、店長さんの後を歩いた。
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