拍手再録
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『なのに、窓の外には女の人がいる。あ、こりゃまずいなーこわいなー、私、腰が抜けてしまいましてね、』
『そう、ここ、三階なんですよ、もちろん人が登れるスペースなんてないんですね、』
三階…。そういえば、この部屋も三階だ…。サンジさんがお風呂に入って、独りきりになった部屋の中できょろきょろと当たりを見回した。もう寝ようと思ったから、電気を消して暗い部屋。さっきのおじさんの話がぐるぐると頭の中で回る。
『その女の人ふぁーっと近づいてきて、』
近づいてきて、顔を覗き込んで……
「っぎゃああああ!」
「…プリンセス、大丈夫かい?」
気がついたらサンジさんが顔をのぞき込んでいて、盛大に悲鳴をあげてしまった。し…心臓、とまるかと思った。
「いきなり声かけないで下さいよ、ああもう死ぬかと思った」
「いや、何回か声かけたんだが…プリンセス、明日の朝メシ、何がいい?」
「ああ、朝ご飯…鮭が食べたいです…」
「鮭な、了解。じゃあ、」
「えっ!?行っちゃうの!?」
安心したのもつかの間、サンジさんは朝ご飯の事だけ確認してさっさと寝ようとする(ちなみに、彼は押入の上段で寝てる。ドラえもんみたいだ)から、とっさに腕を掴んでしまった。ニヤリと笑う顔。
「さ、サンジさん、後生だからまだ寝ないでこわい…!」
「…あーァ、恐がりの癖に稲川淳二なんて見るから」
「………」
「怖い話すると集まってくるってよく言うし、確かに出るかもしれないぜ、プリンセス」
「………」
あのあっさり加減は、どうやらわざとだったらしい。しかも、さっきゴキブリの事で散々脅かしたのを根に持っている。
「虫は大丈夫なのに、幽霊は駄目なんだ?」
「サンジさん……もう、ゴキブリ出ても退治してやんないから」
「あ、じ、冗談な。恐がりなとこも可愛いぜマドモアゼル。」
そんな言い合いをしている内に、サンジさんが私のベッドに寄りかかって座った。ベッドのそばのスタンドライトをつける。ふわりと微笑んで、頭を撫でてから、布団をぽんぽんと叩いて。
「いいよ、君が寝るまで、起きてるから。安心して眠りな」
…私は、小学生か…。この扱いはなめられてるみたいで少し不満だ、けど、これで安心してねられる。
「お休み、お姫様。」
「……お休みなさい…」
眼鏡を掛けて本を読むサンジさんを眺めていると、目があって、にっこり笑いかけてくれる。
二カ月前は、目があうだけで恥ずかしかったのに、大分慣れてきて、自分でもびっくりだ。
イケメンぐるぐる眉毛のお兄さんで、高性能な私の携帯電話。きっと、他の携帯だったら、こんな風に甘えられなかったかも知れない。
「サンジさん、」
「ん?」
「ついでに手も繋いどいて」
「仰せのままにいたしましょう、プリンセス。」
どんだけ恐がりだよ、とか言いながらも優しく手を繋いでくれる、私の気障な携帯電話。
お母さんのチョイスは正解だったかも、そう思いながら頭を撫でられる内に、すとんと眠りに落ちた。
添い寝機能付きです
*
「帰省?」
「うん、夏休みになったら帰って来なさいだって」
…だから、なんでお母さんはそれを私じゃなくてサンジさんに言うんだろう、ていうかそんな話いつ……
晩御飯の冷やしうどんを食べながらサンジさんを見つめていたら、さっき電話が掛かってきてね、とほほえまれる。一体、今度はお母さんは彼に何を話したんだろう…
「つーわけで、8月の15日の15時45分発の飛行機をお取りいたしました、プリンセス。」
「えっ!?もう、チケット取ったの?」
「あァ。確か13日以降二週間サークル休みだろ?特に友達と約束もなかったよな。」
「…まぁね、ないけど…」
彼は私の予定を全て記憶している。つまりサンジさんがいればスケジュール帳いらず、便利だけどここまで予定を把握されていると何か複雑…まぁいいや。
「この時間なら9時に起きていいとも見てから出れば間に合うだろ…で、帰りは8月26日の13時7分な。」
「26日って、もしかして」
「大丈夫、笑点には間に合うように帰るから」
「………」
「もちろんこち亀もまるちゃんも見れるぜ、プリンセス。昼の何でも鑑定団も予約録画しとくから。」
……優秀だ。サンジさんはものすごく優秀なスケジュール管理システムを搭載しているらしい。それでもここまで行動を読まれるとさすがになんか、なんか………
「サンジさん…」
「あ、卵豆腐おかわりあるけど」
「……頂きます。」
「ナス天と海老天も食べるかい?」
「…頂きます。」
了解、軽く言ってキッチンへ向かう後ろ姿を見つめる。
「サンジさん、」
「あァ。デザートはあんみつな。あんこ多めでアイス付きのだろ?ちゃんと新茶も付けるから」
「…さすがにちょっと気持ち悪いです。」
「えっ!?」
ガーン、なんて音がしそうな程ショックを受けた顔をする彼。私のデザートの好みまで熟知している携帯電話。イケメンで、ぐるぐる眉毛で、気障の癖に私に関するあれやそれやを熟知している携帯電話。
「…何でだ、お、俺のどこが…」
「ていうか何でも鑑定団は、サンジさんが見たいだけじゃん」
「あ、あァ、まぁそれはそうだが、プリンセス一体俺のどこが」
「あはははやばい、その顔すごい面白い」
「………」
スケジュール管理も完璧です
一緒に暮らしてたった3ヶ月だけど。多分、この人は誰よりも私を知ってる。若干気持ち悪いくらいに私の好みや熟知する携帯……まぁ、いいか。