拍手再録
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『だけどあんた、東京は物騒じゃけん、』
「だからって、男物のパンツとか、恥ずかしいけぇ、やめてや!」
あ、やばい。訛った。サンジさんが密かに喉を鳴らして笑ったのに気づいて、さっきの言葉を言い直す。
「じゃなくて、は、恥ずかしいからやめてよね…」
『…あんた、サンジ君が聞いてるからってなんね、気取って』
「き、気取ってな、」
『まぁサンジ君しゅっとして男前で、お母さんも好みよ、気取るの無理ないわ、お母さんあんたよりサンジ君と話したいわ、』
「…わかったよ、サンジさんに代わっちゃるわ、…あんま妙な事言わんでよ…」
あ、また訛ってしまった。少し意地悪そうに、そしておかしそうに笑うサンジさんに通話を切り替える。
地元の垢抜けない訛り言葉。カッコ悪いから意識して直すようにしているんだけど、母親と話すとついつい自分も訛ってしまう。電話を切ってから、サンジさんが面白そうに私を見るのが恥ずかしい。
「可愛いのに、訛り。」
言いながら、軽く頭を撫でられる。気持ちいいけど、からかわれてるみたいで少し悔しい。
「嫌ですよ、カッコ悪いから…」
「俺は好きだけどな、訛ってるのクソ可愛いぜ、プリンセス。」
「………どこが?」
「何かこう、ピュアな感じっつーか、通好みっつーか、俺だけの君ってかんじが」
「………」
ちょっと変態くさい事を言ってるのに、私の携帯電話は相変わらずイケメンでスタイリッシュだ。……持ち主は、田舎くさいのに。やっぱり、直そう。訛り。
都会派携帯電話です
*
『それでね、私おもったんですよ、なんかおかしいなって…』
…ごくり。テレビの中のおっさんは、独特の口調で語り出す。
『そう、ここ、三階なんですよ、もちろん人が登れるスペースなんてないんですね、』
真夏の怪談特集。怖がりなのについつい見てしまう。ホラーテラーで有名なおじさんは、静かな口調で私を恐怖のどん底に突き落とそうとする。
『なのに、窓の外には女の人がいる。あ、こりゃまずいなーこわいなー、私、腰が抜けてしまいましてね、』
…ごくり。布団にくるまって、それでも耳をふさぐことができない。背筋がぞわぞわする。
『そしたらね、その人ふぁーっと近づいてきて、覗くんですよ。私の顔を。それでね、』
「っぎゃああああ!」
「…ひっ!」
心臓とまるかと思った。いきなりキッチンから物凄い悲鳴がして、何かと思ったらサンジさんが部屋に駆け込んできた。物凄い怯えようだ。なんだろう、まさか、
「プリンセス…大変だ…」
「さっ、サンジさ、まさかおばけ、」
「おばけ…?違ェ、もっとおぞましいもんだ。」
…一体、キッチンに何が。普段冷静なサンジさんをこんなにおびえさせるような、何が。
「…ヤツが、でた。」
「…ヤツ…」
「ああ、ヤツだ…っ、待てプリンセス危険だ、ここは俺が」
一体、キッチンに、何が。なけなしの勇気を振り絞って、扉を開けた。私を庇いつつもびくびくと震えるサンジさんと、キッチンへ向かう、と、そこには。
「いる…!」
「い、一体、何が……って、なんだゴキブリじゃん」
涙目で私の前に立つサンジさんをどかして、シンクの上の小さいゴキブリを見つめる。
「サンジさん、部屋にゴキジェットあるからとってきて」
「だ、大丈夫かいプリンセス」
「だってたたき殺したら汚れちゃうからね」
「いやそういう事じゃねェよ」
サンジさんがダッシュでとってきた殺虫剤で、あっさりとゴキブリを殺す。流石にゴキブリは、逃がすわけにいかないからね。ごめんね。謝りながらティッシュで亡骸をつかんで蓋付きゴミ箱に放り投げる。
「…凛々しいなプリンセス、…つーか俺情けねぇ、ほんとごめんな…!」
「ふふん、地元に虫いっぱいいたから、こんぐらいは平気。見直した?」
いつも完璧、に見える私の携帯電話の弱点。びくびくするサンジさんを鼻で笑ってやった。この時ばかりは、私の方が余裕綽々で彼のことをからかえるのだ。
注意:虫には近づけないで下さい
「あーでも、困ったね。ゴキブリって、一匹見かけたら三十匹くらいいるって言うし、」
「…!プリンセス、怖いこといわねぇで…!」
私の脅し文句にまんまと怯えるサンジさんは、珍しく情けなくてすごく面白い。もう少しからかってやろう。…で、かわいそうだから、ホウ酸団子作ったげよう。