拍手再録
名前変換
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・中編のエースさんと長編のサンジさん
「隊長、朝ですよ。いい加減起きて下さい。」
「………」
「隊長。」
「……名前呼んでくれたら起きるかも…」
「…起きてるんじゃないですか、隊長。」
「……起きてねェ」
「………。」
「名前呼んでくれなきゃ起きねェ。」
「………。」
「………。」
「…もう、11時なんですけど……。」
「……。」
「……いい加減起きて下さい……エ、エース、ぎゃあ!」
「あーもうお前ほんと可愛い」
「ちょ、熱苦しいんで離して下さい」
「…この状況で、言うか?それ。」
ある朝のこと
*
シャカシャカシャカシャカ。
「おい」
「うっせェ今話しかけんな」
「テキーラが飲みてぇ」
「……」
シャカシャカシャカシャカ。
「おい、」
「……」
シャカシャカシャカシャカ。
「テキーラ、」
ガシャン。
「あーもううっせェよクソマリモ!」
「なんでそんな焦ってんだよ」
「焦ってねェよ集中してんだよ黙ってろ」
今日のデザートは特別製だ。チーズケーキにラズベリーとイチゴをたっぷりと盛り付ける。さっきまで根を詰めて泡立てていたホイップクリームと、昨日のうちにあほみたいに時間を使って作った飴細工。
気合いを入れて(あと愛も込めて)チョコレートソースで皿にハートマークを描けば、完成だ。
「お待たせいたしました、プリンセス。」
目を輝かせて嬉しそうにチーズケーキを頬張る彼女を、厨房から眺める。
「あァ、見ろよあの顔、クソ可愛いなァ…」
毎週火曜日にやって来る、俺の店のエトランゼ。そのデザート、実は君だけの特別製なんだ。なんて言ったら彼女はどんな顔をするんだろう?
「……俺にはお前がアホにしか見えねぇ…」
「うっせェよクソマリモ」
厨房より愛をこめて
・サンジさん携帯パロ
東京で初めての一人暮らし。年頃の娘が一人暮らしなんて物騒だから、男性型の携帯電話にしなさい、と言い出したのは私の母だった。反対する私の意見も聞かずに、母はさっさと携帯電話を契約して、さっさと実家に帰ってしまった。
残されたのは、女子校育ちで全く男性に免疫のない私と、金髪ぐるぐる眉毛の妙にイケメンお兄さんな携帯電話、BT19S。
妙にそわそわする私に、電源を入れたばかりの彼が微笑んだ。
「これからよろしくな、プリンセス。」
えらいことになってしまった、心の中で自分が頭を抱えていた。
私と携帯電話の、新生活が始まる。
Dolce vita
*
「おはよう、マドモアゼル、」
聞き慣れない声にうっすら目を開ける。もう少し寝かせて、呻きながら声のした方を見て、情けない寝ぼけ声を引っ込めた。
い、イケメンが。
金髪ぐるぐる眉毛のイケメンが、私をのぞき込んでいる。
寝起きでぼんやりした頭には、少し刺激が強すぎる光景だった。目の前のイケメンお兄さんは、引っ越し直後のダンボールだらけの部屋にひどく不似合いに微笑んで、私に手を差し伸べた。
「お目覚めかい?お姫様。」
「あ、お、恐れ入りますどうも…」
呂律の回らない舌でなんとか返事をすると、お兄さんはおかしそうに喉を鳴らして笑う。
「そんなかしこまらなくていいよ、俺は君の携帯だぜ?」
「あは、そ、そうですよね、」
そう、彼は私の携帯電話だ。昨日お母さんが契約してきた、BT19S。意識する必要なんて全くないし、寝起きの顔を見られたからってなんて事もないのだ。自分に言い聞かせながら、それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。熱い顔を抑えながら、いつもよりも30分も早く私はベッドを出た。
午前7時30分のアラーム
*
次々とテーブルに載せられていく豪華な朝ご飯に目を見張る。ホテルのみたいにトロトロのスクランブルエッグに、焼きたてのもっちもちのパン。ミネストローネに、サラダに、綺麗に飾り切りされたりんご。
「え、えーと、いただきます。」
ニコニコと頬杖をついて私を見ているBT19Sさんをちらりと見てから、スクランブルエッグを口に入れる。うわ、おいしい。こんなん初めて食べました、そう伝えたら光栄です、なんて言いながら彼は笑った。
「あ、ケチャップ付いてるよ、顔に。」
「えっ?」
まるで自然な仕草で手が伸びてきて、当然のように親指が頬に触れた。
「…、…!」
にっこりと微笑む高性能イケメンお兄さん携帯と、無様にも顔を真っ赤にする私。これから毎日この人と過ごすんだ、そう考えただけで心臓が破裂しそうな気分だった。
心臓に悪い朝食風景
*
「…BT19Sさん。」
「………」
「……け、携帯さん。」
「………」
「あの、」
からかわれてる。多分、完璧に、この人(携帯だけど)は私の事をからかってる。お兄さん携帯と生活を初めて一週間たった日曜日の午後三時。もの凄くおいしそうなイチゴタルトを綺麗に盛り付けたお皿を持って、彼はにっこりと笑った。
「これ、食べたい?」
たった一週間で見事に餌付けされた私が頷くと、交換条件のように言われた一言。
「ところで、俺の名前、知ってるよね?」
知ってる。知ってるけど、名前で呼ぶのは恥ずかしいというか何というか。今まで携帯だと自分に言い聞かせながら何とか慣れてきたのに。な、名前呼んだら余計意識しちゃうじゃん…!
もちろんそんな事目の前のイケメンな携帯電話に言える訳もなくて、機種名で勘弁して下さい、と言ったら無言で却下された。心底楽しそうに笑う彼は、名前を呼ばれないとおやつを渡さない気なんだろう。
「……あの、BT19Sさん、」
「好きだよね、イチゴタルト。食べたくねェの?」
独り言、のような彼の言葉に顔を上げる。
「食べたくねェんならまぁ、無理にとは言わねェ。残念だけどこれは俺が、」
「食べたくなく、ないです。……、サンジさん。」
顔を真っ赤にした私に、してやったりって感じでサンジさん、が、笑った。いい子いい子、なんて声と共に頭を撫でられる。…遊ばれてる。完璧に。携帯電話に翻弄される私って、一体……。
BT19S、改め。
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