サンジ/短編
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目を閉じて三秒、それだけで君を素敵な場所へつれていける。大丈夫怖くねェから、俺がずっと抱きしめててあげる。だからさぁ、お手をどうぞ、プリンセス。
私の死神は愛しいあの人だった。目も見えないくらいに弱り切った私の枕元で、それでもはっきり聞こえた声。
「お迎えにあがりました、プリンセス。」
あのとき、そうサンジ君が居なくなったあの日。
例えば私も後を追って、だとかそういう事だってできるぐらいに私は、あなたなしでは居られなくなっていたけど。
サンジ君に根こそぎ奪われていった私の抜け殻みたいな体は、それでも彼の言いつけを破る勇気なんてなくて。
悪い魔法にかかったみたいにサンジ君に焦がれながら、それでも心臓は止まってくれなくて。
「ふふ、寂しかった?サンジ君、久しぶり」
「あァ、死ぬかと思うほどクソ寂しかった」
「…死んでるくせに…」
いつもみたいに手を取って、お姫様をエスコートするみたいに。
「私も寂しかったよ、死ぬかと思うほど、」
「…名前ちゃん、」
「うん、…なんか久しぶりすぎて照れる、」
唇が重なれば、あれからの私と彼の時差なんて全然問題じゃなかったみたいに思えてくるから不思議だ。
手をつないで歩き出す。私が暮らした部屋、街並み、大通り。
「あ、サンジ君そこ段差だから気を付け、っうわ、」
「相変わらずそそっかしいな、俺のプリンセスは」
「あ、お、恐れ入りますどうも…」
いつもみたいに転ぶ前に抱き留めてくれて、いつもみたいに笑ってくれて、いつもみたいに、いつも、みたいに。
「サンジ君、」
「ん?」
「サンジ君サンジ君サンジ君、さんじ、くん、」
確かめるみたいに何度でも名前を呼ぶ。タバコの香り、この間私がプレゼントした男物のコロンの香り、
「何、どしたの名前ちゃん」
「…悪い夢を見てたみたい」
サンジ君は優しく笑いながらいつもみたいに抱きしめてくれるから、ああよかった、悪い夢はもう終わる、なんて私は目を閉じる。綺麗な指先が、私の髪の毛を梳いて耳に掛ける。
「名前ちゅわん、」
「ん?」
「俺のプリンセス、眠り姫、ダイナマイト、小枝の妖精、女王様、スウィートハート、チュパチャップス、」
「…サンジ君、チュパチャップスよりフリスクの方が好きなくせに…」
「相変わらずずれてんなぁ…」
通りを抜けた、街が見渡せる小高い丘の上。私なにかずれてること言ったっけ?不満げに彼を見上げたら、また触れるだけのキスが降ってくる。
「じゃあ、目を閉じて、プリンセス。」
「うん」
「そのまま三秒数えたら、俺は君を素敵な場所に…ってだから目ェ開けちゃだめだって、名前ちゃん」
「だって、サンジ君がまた気障なこというから…」
「なっ、きざ…」
「そのぐるぐる眉毛も相変わらずだね」
「名前ちゅわん、傷つくからさぁ」
「ふふ、あはは、うん…それで、何だっけ」
抱きしめて、髪の毛を梳いてくれる綺麗な手。低くて甘い癖のある声。サンジ君の言うとおりに目を閉じる。
「…怖いかい?」
「えっ?なんで?」
「いや…君は恐がりだろ、名前ちゃん」
「それ言ったらサンジ君だって虫だめじゃん」
「いや、ちがうそういう事じゃ…まァいいや、」
背中に手を回す。いつだって大好きだった、焦がれてた、私の人。きっとこれからだってずっと、魔法にかけられたみたいに私はサンジ君に恋をする。
悪夢だって結局は私の好みのベタでクラシカルなハッピーエンドに変えてくれる、気障で優しい私の恋人。
「3、2、」
私の好きな、甘くて低い、サンジ君の声。幸せ、なんてつぶやいたら、静かに、なんて返されて。
「1」
唇に柔らかいものが触った、と思ったらサンジ君の唇で。素敵な場所に連れてってくれるんじゃなかったの?って聞いたら、だから俺の腕の中。なんて。
「愛してるぜ、俺の」
「チュパチャップスはやめてね」
「…じゃあ何ならいいんだい、プリンセス…」
「…辛口海鮮パスタとか…?」
「………」
サンジ君はもう何も言わずに、何回でも私にキスを落とす。サンジ君、好きじゃん、辛口海鮮パスタ…まぁ、それについては、後で話し合おうかな。私は彼のきれいな髪の毛を梳いて、毛先を指に絡めて。なんだかふわふわして、光に包まれていくような錯覚がして。
ほら、ベタでクラシカルなハッピーエンドでしょう?
ハッピーエンド
「…悪い夢を見てたみたい。」
「でももう醒めただろ?プリンセス、」
「うん。そうだね、醒めたね」
「だろ?眠り姫は王子のキスで目を覚ますもんなんだって」
「…また、歯の浮くような事を…相変わらずぐるぐる眉毛の癖にね」
「…名前ちゃんひでぇ…」
それから二人はどうしたかって?これはベタでクラシカルなハッピーエンドなのです。
もちろん、ぐるぐる眉毛の癖に気障な王子様と、平凡だけどどこかずれているお姫様は、いまでも二人で幸せに暮らていますよ。めでたし、めでたし。