サンジ/短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前ちゃん、好きだよ。」
「…う、うん、ありがとう…」
「今日もクソ可愛い、」
「いやいやまたまた…」
「愛してる、俺の可愛いいプリンセス。」
「……わ、私も同感であります…」
だめだ。こんなんじゃだめだ。顔を茹で蛸のようにしながら私は思った。…たこ焼きたべたいなぁ、と。違う間違えた。こんなんじゃだめだ、と。そう強く思った。
サンジ君は、愛情表現が上手い。好きだとか愛してるとか可愛いとか、ことあるごとに言ってくれる。対して、私のこの体たらくは何だ?
彼の言ってくれる言葉に顔を赤くして、せいぜいできるのは頷く事くらい。普段の日常会話や雑談は問題なくできるし、普段は私も結構しゃべる方だ。だけど。
いざ恋人的な会話になると、私はからっきしだ。無理、恥ずかしくて死にそう。せいぜい考えられるのはその程度。挙げ句に、恥ずかしさの余りに奇妙な行動をしてしまう。恋愛言語というか、つまり、ラブラブ的なボキャブラリーが貧困すぎるのだ。
私の数少ない恋愛経験を鑑みても、振られた理由はこの恋愛言語ボキャブラリーの貧困さ、またはそれによって起こされた奇行にあることは明白だ。
つまり、そう、
「このままだと振られるのは時間の問題ってこと…」
「…お前、ほんとにアレだよな…」
「このままだとサンジ君に飽きられる。そして捨てられる。いいやそうに決まってる、絶対そう」
「………俺ァ、たまにサンジが可哀想になるよ」
ウソップは盛大にため息を付きながらも、私の話につきあってくれる。わかってるよ、一人で暴走しないようにって言うんでしょ。大丈夫。
「だからね、今度はおまじないよりも現実的な方法で行こうと思って。」
今回は大丈夫、サンジ君の髪の毛も爪も、薔薇の花びらもいらない。チョッパーの髭もいらないし、夜中に呪文を書き付ける必要もないから、後片付けだって楽々だ。
「……『ローラの3ステップで実践!あなたにもできる!簡単愛情の伝え方マニュアル』…」
「良さそうでしょ。さっき本屋で買ってきたんだ。」
「…名前、お前すでに何かずれてるぞ」
「あ、やっぱりこないだみたいに『無理めな恋を掴む!女王様サディちゃんの黒魔術百科』を使った方がいいかな?」
「頼む、あれはもうやめてくれ。怖いから二度とやるな」
「でしょ?大丈夫、シュミレーションはばっちりだから、あとは実践するだけ」
「………どうしよう、どっからつっこんでいいのかわからねぇ…」
この本によると、女の子は恋をしたときから超一流のマジシャンに早変わりしているそうだ。
『気持ちを伝えることは、あなたの魔法を彼にかけるのと同じ事。この本のメソッドを実践すれば、あなたもあっという間に恋の魔法使いに変身できます』だそうで。
正直、なんか胡散臭いなぁと思う。
ただ、いわしの頭も信じれば神様になるんだから、問題はこの本が信用できるかそうでないかではなく。そう、それをどれだけ真剣に実践するか。これに尽きる。なんたって、この本のメソッドを実践すれば、私もあっという間に恋の魔法使いなんだから。
・Step1.見つめましょう
『まず、あなたの好物(できれば甘い物)を思い浮かべます。彼がそれを持っていて、あなたはそれを食べたくて仕方がない。舌なめずりして、そんな想像を浮かべたまま彼を見つめましょう。ただ、ひたすら見つめるだけで大丈夫。ポイントは、なるべく柔らかい声で彼の名前を呼ぶこと。』
なるほど、好きなもの…で、甘いもの…やっぱりキャンディとかがいいんじゃないかな。チュパチャップスとかどうかな、何か色っぽい気がするし。よし、それで行こう。もう、イメトレはばっちりだから、あとは実行するだけだ。
キッチンのドアを開ける。彼はどうやら、明日の朝食の支度をしているらしい。私を振り返って、柔らかく笑う。
「あァ、名前ちゃん、ちょっと待っててな、」
彼に近づきながら想像する。チュパチャップスだ。私はチュパチャップスが欲しくて仕方がない。私は舌なめずりするほど、それが欲しくて、
ちょうど30cm位の距離。サンジ君の目を見つめる。綺麗な目してるな、なんて思いながら。そして、なるべく柔らかい声で名前を呼ぶ。
「…サンジ、くん、」
「…名前ちゃん…?」
少し驚いたような顔で私をみる彼は、少し新鮮だ。見つめるだけで大丈夫、らしい。まばたきをしないで、ひたすら、
「名前ちゃん、」
サンジ君の手が肩に伸びてくる。そのまま顔が近づいてきて、
「サンジ、腹減った、メシ!」
「クソゴム……てめェ、殺そうか……?」
キスする寸前になって、いきなりドアが開いた。コンマ0.5秒位の速度で私はサンジ君から遠ざかった。ルフィとサンジ君の乱闘が始まる前に、慌ててキッチンから逃げ出す。
そのまま女部屋までダッシュしてドアを閉めて、ずるずると座り込んだ。ナミとロビンが、目を見開いて私をみている。
やばい、恥ずかしかったけど、死ぬほど恥ずかしかったけど。
効果あった、かも。
「名前、何かあったの?」
「あのね、私恋の魔法使いになれるかもしれない。」
「………」
*
・Step2.ニックネームで呼びましょう
『特にノースブルーには、恋人の事を自分の好物に例えて呼ぶ文化があります。ドラマなどによくでてくる「私のチェリーパイ」などの表現がその例です。Step1で想像したあなたの好物に例えて、彼を呼んでみましょう。Step1と組み合わせて使うとより効果的です。ポイントは、上目遣いです。少々難しいので、鏡で練習すること。』
そうか、なるほどね。流石ノースブルー、サンジ君の出身地はみんながみんな恋の魔術師なわけだ。そんなことを思いながら、鏡で上目遣いを練習する。私のチュパチャップス、私のチュパチャップス、私の……なんか、Step2に来ていきなり難易度があがった気がする。私のチュパチャップスって…言われても意味が分からないような。でも、Step1は効果あったしな。
私のチュパチャップス、私のチュパチャップス。口の中で呟きながらキッチンのドアを開ける。昨日と同じ時刻、サンジ君はやっぱり明日の朝の仕込みをしている。
「…そういえば名前ちゃん、昨日、どうした、の…」
「サンジ君、」
チュパチャップス食べたい、チュパチャップス食べたい、チュパチャップス食べたい…自分に言い聞かせる。サンジ君の綺麗な瞳の中にいる自分と目を合わせて、唇を舐めて。サンジ君の顔がだんだん赤くなっていく。
「サンジ君、私のチュパチャップス、」
あー、おかしいな、やっぱ。私のチュパチャップスって何のことだかさっぱりわからないし。
そう思いながら目を反らす前に、サンジ君の手が私を引き寄せる。触れるだけのキスが降ってきて、すぐに離れた。
「名前ちゃん……、昨日から俺のこと誘って、」
「おいコック、酒。」
「…マリモ、てめェ今すぐ表出ろ」
…すごい、私がサンジ君を翻弄するなんて、そんな事態が現実になるなんて。ゾロとサンジ君の死闘に巻き込まれる前に、キッチンから逃げ出した。…私、もしかして、恋の魔術師なわけ?
Step3.手を握りましょう
『Step1・2を行った後に、彼の指に自分の指をゆっくりと絡めていきます。じらすように親指で手の甲を撫でましょう。指先を口に含んで、上目遣いをしながら嘗めあげます。ポイントは、恥じらいを捨てること。』
…無理だ。無理、それは無理。いきなり展開がエロすぎる。無理、無理無理無理。ローラは、一体何考えてるの?ポイントは恥じらいを捨てる事って…そんな、破廉恥な…!
でも、今までの事を思い出してみると、サンジ君は私の手にキスをしてくれたりしてるし。あれ?…これが普通なのかな…?いや、でも、
*
考えたあげく、深夜のテンションでこっそりキッチンに忍び込んだ。テーブルに置きっぱなしになっていた日本酒をコップ一杯分飲み干して。ゾロとの死闘に疲れ果てたのか、ソファの上で眠るサンジ君の手を取って、自分の指に絡める。
「…え、名前ちゃん?」
彼の目をまっすぐ見て、チュパチャップス食べたい、そう思いながら舌なめずり。サンジ君、名前を呼ぶといつも余裕な雰囲気からは程遠い赤い顔で私を見る。昨日からどうしたの、余裕のなさそうな慌てたようなサンジ君の声。
あれ、可愛い。なんか、指を嘗めるくらいできる気がしてきた。
酔いの回ってきた頭で調子に乗った事を考えながら、上目遣いで指先に口づける。
「サンジ君、…私のチュパチャップス、」
やっぱりこの台詞、まぬけだな。なんて思いながら舌を這わせる。きれいな指。
「ッ、名前ちゃん、」
指を絡めた手を引っ張られて、そのまま倒れ込む。熱いからだ。そのまま抱きしめられれば、サンジ君の声が響く。低くて、切なそうな声。すごい、確かに効果あるのかも。サンジ君の頬に触れる。まっすぐ目を見て、
「…サンジ君、好き。…私の気持ち、伝わった?」
私にしては、顔も赤くしないでどもらずによく言えたもんだ。切なげに歪むサンジ君の顔を見ながら考えた。ミッションコンプリート、これで私も、恋の魔術師、なのか?
「名前ちゃん、…可愛すぎ。昨日から、誘ってんの?」
低い声。サンジ君に噛みつくみたいなキスをされて、視界が反転する。誘ってるというか…愛情表現だったんだけど…いや、確かに愛情表現というよりも、誘ってるみたいだったかもしれない。
「俺も、愛してる。名前ちゃん。」
耳元で囁かれた言葉にいつものように顔を熱くしながら凄いスピードで考えた。私の愛情表現は伝わった、のかな?微妙なところだ。やってみたら、サンジ君のいつもしてくれるみたいなのとは違う方向に行ってしまった気がする。本当にこれでいいんだっけ?
そんな私をよそにサンジ君は彼の綺麗な指先を私の服にかけて、ボタンを外していく。
ああ、もしかしたら、本のチョイス間違ったかも。
*
「『ローラの3ステップで実践!あなたにもできる!簡単愛情の伝え方マニュアル』……名前ちゅわん、これ」
「…あ、こ、これは、参考文献だから…」
「…参考文献…?」
やばい、ばれた。本のタイトルを声に出して読まれるとなんだか恥ずかしくて耳を塞ぎたくなる。キッチンのテーブルで、ペラペラとページをめくるサンジ君は意外と真剣な顔だ。読んでるのは、『ローラの3ステップで実践!あなたにもできる!簡単愛情の伝え方マニュアル』なのに。
「私、サンジ君みたいに色々上手くないから、頑張ろうと思いまして…」
「頑張るって何を?」
「…ちょっと愛情表現など…」
「なるほど」
弁解するように言う私には目もくれずに、いつの間にか眼鏡まで取り出して本当に真剣な雰囲気でそれを読み進めていく。はたから見てると、真剣に『ローラの3ステップで実践!あなたにもできる!簡単愛情の伝え方マニュアル』を読む彼の様子はまるでやばい人みたいだ。いや、私も真剣に読んで実践したんだけど。
「サンジ君、それ貸そうか?」
「いや、」
声を掛けたらサンジ君が顔を上げた。本をちらりと見てから、じっと私を見つめる。頬杖をついて、熱っぽい視線、で、……ちょっと、何どうしたの。こうやって見つめられるだけで顔が赤くなっていく私は、やっぱり恋の魔法使いには程遠い。
「…名前ちゃん」
熱い。顔が。耳も熱い。舌なめずりをして、私を物欲しそうな目で見つめて。柔らかい声で私の名前を呼ぶ。お願いだからその声やめて、あ、やばい鼻血出そう、
「実は俺もうまくできねェ」
「な、何が…」
「んー…愛情表現など?」
囁くみたいに言ってから、私の手に指を絡めていく彼は、どう贔屓目に見ても愛情表現が苦手なようには見えない。上目遣いで私の目を見て、ゆっくりと指先に口づけて、……ああこれは、まさか、『ローラの3ステップで実践!あなたにもできる!簡単愛情の伝え方マニュアル』のStep3じゃないか。
「う、嘘だ…!」
「いや、本当に。…だからさ、プリンセス。」
またちらりと本を見てから、綺麗な指が、本の通りじらすように手の甲を撫でた。指に這う舌の感触。目が合うと扇情的に笑うサンジ君は、やばい、もう、なんか、
「さ、サンジ君、あのね、ちょっと」
テーブル越しに手が伸びてきて、引き寄せられる。眼鏡越しの熱っぽい視線。耳元で甘くささやく声。
「この本で、一緒に勉強しようぜ。俺のチュパチャップス。」
「………ッ!」
ちょ、まっ、なっ、……!色々声にならなくて、とりあえず囁かれた方の耳を手で押さえた。俺のチュパチャップス、俺の、……!サンジ君の言葉が頭の中をぐるぐる回って、心臓が止まりそうなくらいに体が熱くなる。間抜けな台詞だと思ってたのに、私じゃなくてサンジ君が言うと非常にいやらしいのはなんでだ。顔が熱くなって、本当に目の前がくらくらした。
サンジ君は、囁く。相変わらず熱っぽい目で、飛びっきりの甘い声で、
「名前ちゃん、好き。…俺の気持ち、伝わった?」
だめだ、かなわない。どうしようもなく熱くなる頭で思った。私の恋人は、多分恋の魔法使いだ。
*
「つまり、好きとか愛してるとか言われると照れるというか、」
ああもう、やべェ。名前ちゃんやべェ。髪を耳に掛ける仕草とか、シャンプーの香りとか、ぽってりした唇とか。
そんな俺の気も知らないで、生真面目な調子で話す彼女がどうしようもなく愛しい。
逃げられないようにきつく抱きしめながら、なるべく冷静を装った声で話す。
「あー…、つまり、好きとか愛してるとかじゃなかったら、大丈夫だと」
「……多分…」
「…なるほどな…」
俺が余裕綽々だとでも思ってるんだろう。少し悔しげな顔をする名前ちゃんは、本当に可愛い。正直余裕なんてないんだけど(さっきの名前ちゃんは、本当にかわいかった。エロくて。)(あーもう思い出しただけでなんかやべェ…!)、少し苛めてやりたくなって抱き寄せたまま囁く。俺の生まれ故郷の気障ったらしい言葉で。
「名前ちゃん、Je suis tout a toi.」
「…!?え、あの、……」
「…Je t'aime a croquer.」
「な、何言って、」
「…平気なんだろ、プリンセス。意味わかんなければ。」
そう言ってから息を吹きかけて、耳朶を甘噛みすれば面白い位に顔を赤くして俺を見る。彼女の潤んだ目、に、俺が映っているのが見えて、それだけで頭の芯がしびれたみたいになって体が熱くなっていく。
「さ、サンジ君、ちょっと、」
「ほんと、…可愛すぎ、」
困ったように俺を見る、名前ちゃんの顔は驚くぐらい扇情的で、口づけた唇は甘い味がして。俺にしか見せないその顔も、散らばった髪の毛も、白くて柔らかい肌も。本当に、食べちまいたい位君が好き、なんて。そんな台詞も本気で言えるくらいに、どうしようもなく俺はこの子に恋してる。
「つーわけで、…もっかいする?俺のチュパチャップス、」
「……サンジ君、あなたはチュパチャップスよりもフリスクの方が好きで、」
あァ、またずれたこと言ってる。それすら愛しくて、強引に何回も口づける。ああもう、本当に可愛い。
「…ッん、サンジ君、私のチュパチャップス、」
生真面目にさっきの本の内容を繰り返す名前ちゃんがおかしい。そんな本に頼らなくても、俺は十分君に溺れてるのに。
恋人は魔法使い
彼女の指が、ひどく優しい仕草で俺の髪の毛を梳いた。そのまま指先に巻きつけて弄ぶのは、こういう時の彼女の癖だ。そう、ただの癖。わかっていても俺はその仕草にたまらなく焦らされた気持ちになる。
そうやって無意識に俺をおかしくさせる。
厄介な魔法にかけられたみたいに彼女に焦がれる俺は、何回でも名前ちゃんに口づける。その度に漏れる彼女の声でまた熱が上がって、どんどん欲しくなるんだから本当にたちが悪い。
「サンジ君、」
こんなんじゃ足りねぇんだ。もっと、