サンジ/短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前ちゃん、泣かないで」
「…泣いてない、」
必死で涙をこらえる。サンジ君は困ったように笑って優しく私の頬に触れる。馬鹿だ。この人は、馬鹿だ。
「ごめんな。傷、つけさせちまった。」
自分の方がボロボロに怪我をしているのに、心配するのは自分の事じゃなくて小さなかすり傷を作った私のこと。
この人は、馬鹿だ。私なんか守ってこんな大怪我をして。
ちっとも守られるような価値なんかない私を守ったせいで。
ごめんなさい、謝ったらサンジ君が困った顔をするのはわかっているから、私はわざと怒ったような口調で返事をする。
「なんで謝るの、馬鹿。」
「うん、ごめんな」
「ほんと、馬鹿。サンジ君の馬鹿、許さない。」
「うん」
弱くてごめんなさい。怪我させてごめんなさい。あなたに守られるような価値なんて、私にはないよ。
頭の中をぐるぐる回るそんな言葉の代わりに、可愛くない台詞を次々と吐く。いっそのこと嫌いになってほしい、私のことなんか。私だって、自分の弱さに嫌気がさしてるところなんだから。
涙がこぼれないように、なるべくかわいげのない顔で彼を睨みつける。泣かないで、サンジ君はそう言って頭を撫でてくれるから、性懲りもなく心臓は暴れ出す。
「なァ、名前ちゃん。」
「だから、泣いてないよ、」
大きい手がゆるゆると私の背中を撫でる。何かから守るように頭に手を回して、きつく抱きしめられる。
いちばん許せないのは、
「ごめんな?」
こうやって私の事を守ってサンジ君が怪我をしてくれるのが、嬉しいと思ってしまう事で。
「あのねー、言っとくけど、私、あなたに守られなきゃいけないほど弱くない、からッ……」
「君が強くても弱くても、俺が守ってやりたかったんだ。」
「ほんと、そんなの、よけいな、おせわっ、」
もうだめだ。必死で絞り出した声は面白い程に涙声で、俯いて唇を噛んだらふわりと煙草の香りがした。
「ごめんな、そんな顔させて」
私はずるい。嫌いになればいいなんて思いながら、そんな事言ってもサンジ君が私を嫌わないでいてくれることもわかっている。本当は嫌わないで欲しくて必死になっているのに。
「…ごめんなさい、…」
結局、こうやって謝ったらサンジ君が抱きしめてくれるのも知ってるから。
「泣かないでよ頼むからさ」
「…泣いてないよ、あなたが抱きしめてくれるから泣く振りをしてるだけ。」
「ははっ、…なんだそれ。」
本当は嬉しくてたまらないんだ、あなたが私のせいで傷付くことが。
サンジ君はいつものキザったらしい仕草で溢れてくる涙を拭ってくれる。私はいつもみたいに彼の背中に腕を回して。
煙草の香り。サンジ君の低い声が降ってくる。
「君は泣くフリも素敵だ、」
馬鹿。ほんと、馬鹿。言おうとした言葉は遮られて、少し強引なやり方で唇が重なった。私をきつく抱きしめる綺麗な手。
「好きだよ、名前ちゃん。俺のプリンセス、」
サンジ君はそう言って嬉しそうに笑うから、私は涙が止まらなくなってしまう。……ずるい。呟いた声は、二回目のキスに飲み込まれた。