ストーリー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
…眠い…。
私はふかふかのベッドに顔をうずめた。ここどこだっけ。一瞬そんな疑問がわいたけどすぐにどうでもよくなる。
頭ががんがんする。
体が重い。
遠くの方で誰かが楽しそうに話すのが聞こえる。 あれ…誰だっけ?私なんでここに………
*
悪夢だ。忘れた頃にやってくる悪夢。
「僕の心だけじゃなくてお金まで盗んで逃げるなんて、欲張りな子猫ちゃんだね、駒鳥。」
鳥なんだか猫なんだかはっきりして、そう思ったけど怖くて口に出せない。嬉しそうにペラペラしゃべりまくる王子様を眺めながら出された紅茶を啜った。
いきなりものすごく沢山の海兵に取り囲まれた時は、一体何が起こったのかわからなかった。まさか連れてこられた先に居たのが、この間の寒々しい王子様だなんて。
あの島を出て、もう1ヶ月たつのに。今更海軍まで使って捕まえにくるなんて、意外と執念深いんだなぁ、王子様って…海軍もこんな奴の言うこと聞かないで、もっと市民に貢献するような仕事をしてよ…
現実逃避にそんな事を考えた。王子様の隣では、強面の海兵が睨みを聞かせている。手を縛らない代わりにと後頭部に突きつけられているピストルが冷たかった。
捕まえられるときに殴られた頬と、なんとか逃げようとして挫いた足が痛い。冷や汗で背中がすーすーする。
……どうしよう。えらいことになってしまった。
王子様がにっこりと笑いかけるので、私も引きつった愛想笑いを返した。紅茶をもう一口。あまりの事態に目眩がする。
「あ、あの、帰して頂くわけには、いきません、よね…」
「ああ、もちろんだよ!駒鳥!君はこれから僕と末永く幸せに暮らすんだシンデレラ!」
そう言うんなら、まず私に向けられたらピストルをどかして欲しい。あと、いい加減駒鳥って呼ぶのはやめてほしい。
どうにかして逃げないとやばい事になるのは目に見えているので、とりあえず出口を確認する。
王子様の右横のドア、光取りの窓。海軍の支部だから、出ても海兵が沢山居るんだろうけど、ともかくここから出なきゃ。
私の後ろのピストル、どうにかして奪えないかな…。大丈夫、相手は女だと思って甘く見てるはず。
幸い、職業柄ささやかな乱闘のやり方位は知ってるし。海賊ですから。
必死で自分を励ました。
さぁいけ、頑張れ名前!
「お、おっと手がすべったぁぁ!」
わざと大きな声を出して王子様とその隣の海兵に熱い紅茶をぶっかけた。私の後ろの海兵が気をとられた一瞬でピストルを奪って、ドアの前までダッシュする。
呆然としている王子様にピストルを突きつけた。
緊張のあまり冷や汗と吐き気が止まらない。心臓の音がどんどん大きくなって、指先が冷たくなっていくのがわかった。
目の前がぐらぐらする。
「は、早くここから、」
呼吸がどんどん苦しくなる。あれ?過呼吸?、にしては体に力が入らないような、
「ここから出し、」
息ができない。だんだん目の前がかすみ出して混乱する。え?何?どうしちゃったの私。
体に力が入らなくなって、ピストルを落としてずるずると崩れ落ちる。
いつの間にかショックから回復したらしい王子様が笑った。
「うふふ、悪い子だね、駒鳥。フィアンセに銃を突きつけるなんて」
ちょっとまて、いつ私があなたのフィアンセになった。というかまず、うふふって笑い方はどうなの王子様。色々言いたいことはあるのに、息が苦しくて声にできない。
「紅茶はおいしかったようだね、シンデレラ。お気に召してくれて嬉しいよ」
……やられた。紅茶に何か入ってたんだ。さぁ行こう二人の愛の褥へ、とかなんとか言う声が聞こえたところで完全に目の前が真っ暗になった。誰かに担ぎ上げられる。
あ、愛の褥って、言い方は、どうかと思います…
息も絶え絶えの私はよりによってそんなことを呟いていた。
ああもう、言うことは他にもあるでしょうが。自分で自分に突っ込みを入れる。
変態やろう、とか人でなし、とか。
駒鳥って呼ぶのはやめて、とか。
あとは、
あの人の姿を思い浮かべた。長い足。煙草をくゆらせながら、今頃は晩御飯の支度でもしてるんだろう。
……今日のごはん、何かなぁ。
こんな時なのに、条件反射でそんなことを考えてしまう。多分、今日の夕飯には帰れないから。
ああ、サンジ君、助けて、
*
誰かが跪いて、私の足に靴を履かせた。お気に入りだった、新しいピンヒールのミュール。
「お迎えに上がりました、プリンセス。」
煙草の香り。
ああ、この声は、
「…何か俺そんな話きいたことあるぞ…」
「お、俺もだ、ツンドラ姫だっけ?」
「ちげぇよソンデラレだ」
「…シンデレラだよ糞野郎」
どこぞの“自称王子様”野郎が、忌々しいおとぎ話になぞらえて俺の名前ちゃんを攫っていったらしい。ご丁寧に海軍まで使って事を起こした理由が『運命の出会い』なんだから忌々しい事この上ない。
たかだか一晩話しただけでよくそこまで思い上がれたもんだ。あのときもっと徹底的にぶちのめしていればよかった。
そう思ったらイライラしてきて三本目の煙草に火をつける。深く吸い込んで、煙を眺める。
「迎えに行ってくる。まァ晩飯までには終わらせるから。」
攫われたヒロインを助けるのは、昔から使い古されたラブストーリーの定石だ。古びた海軍なんかでロマンだなんだ言いたくはないが、そこは目をつぶってやろう。
もし俺のプリンセスに傷なんか付けてたらタダじゃおかねぇ。
そんな事を考えながら海軍支部のドアを吹き飛ばした。鳩が豆鉄砲食らったような顔をした海兵に毒づく。
「お望み通りクラシカルに行こうじゃねェか、“自称王子様”野郎」
*
眠い…今、何時なんだろう、あれ、ここどこ?
「お姫様を攫った悪役がどんな仕打ちを受けるか、わかっててやってんだろうなァ?」
「ひッ、ひぃぃ、お助けぇぇ」
誰かのドスの効いたと、誰かの情けない悲鳴が聞こえる。何だろう、あの人の声サンジ君に似てるような……
何かが壊れる音が派手に響いた。
……気になるけど、目をあけるのが怖い。冷や汗をたらたらながしながらやっぱり目を瞑っていたら、ひどく優しく誰かが頬に触れた。唇に柔らかいものが触れる。煙草の香り。優しくて低い声。
ああ、この人は、
「おはよう、俺の眠り姫」
「あ、おはよう、ございます…?」
目を開ける。部屋の中はまるで嵐が通り過ぎたようにボロボロだ。
サンジ君はそんな光景にふさわしくなく笑う。跪いて私の足に気障ったらしくヒールを履かせてくれる彼を眺めながら考える。ここどこだっけ?
「お迎えに上がりました、プリンセス。」
「あ、うん、ありがとう。ところで、」
「いたぞ!捕まえろ!」
ここどこだっけ、私の言葉は叫び声にかき消される。
あれ……海兵?
「あーァ、大人しくしてれば見逃してやったのに」
いや逆でしょ、私達の立場的には。
私を抱き上げて、さっきとは違う獰猛な笑いを浮かべるサンジ君を見て思い出した。私がいるのが、どこなのか。
……そ、そうだ、王子様はっ……!?
乱闘(というか、サンジ君が一方的に暴れていて、怖い。)の始まった室内を観察する。王子様は、泡を吹きながら床に倒れている。
「名前ちゃん、何見てんの?」
「いや、王子様を、」
バキッ。
最後の一人が派手な音を立てて吹っ飛んだ。
「…王子様が、なんだって?」
「…なんでもないです。助けてくれてありがとうございます。」
………はい、私の王子様はあなたでしたね。そう言えばサンジ君は満足げに笑った。死屍累々って感じで横たわる海兵達をひょいひょいよけながらあっさりと部屋から出て行く。まだ残っていたらしい海兵にも容赦なく蹴りを食らわせて笑う。
紳士ぶっているけど、やっぱりこの人も海賊だな。ぼんやり思った。サンジ君の首に手を回す。
めちゃくちゃ強くて、かなりガラが悪くて、女の子にしか優しくない私の王子様、
ストーリー(王子様が海賊)
おとぎ話に重ね合わせてキスをした。彼女の瞳に自分しか映っていない事が嬉しかった。
名前ちゃんさえ救い出せば、こんな所に用はない。
床に寝ころんでいる“自称王子様”野郎を笑ってやった。
どうだい、似非プリンス。お望み通りのクラシカルでべたなハッピーエンドだろ?
お約束のようにもう一回キスをして、鼻歌混じりに船へと歩く。
夕飯の時間まであと一時間だ。
3/3ページ