ストーリー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あら、おかえり。どうだった?」
「…誉められたよ、昆布みたいな瞳だって。あと、駒鳥みたいだって」
「え、サンジ君に!?」
「な、何でサンジ君?」
ストーリー(誰が駒鳥殺したの?)
…おかしい。
昨日、妙ににやにやしたナミと会話して以来、何かおかしい。主に、私が。
「もー10時回った位から、サンジ君が迎えに行くって言って聞かなくって」
「ああ、サンジ君、ちょっとキザなお父さんみたいだよね…」
「お父さんって、…あのね、名前」
にやっと笑って私に耳打ちする。
「そんなこと思ってるのは、あんただけよ」
「気をつけなさい、紳士ぶってるけど、あいつあんたの事大好きなんだから」
「気をつけないと、」
「おやつをお持ちしました、プリンセス。」
「ひぃぃっ!」
「え、ちょ、どしたの名前ちゃん」
「あ、い、いやね、ちょっとね」
ナミが妙なこと言うから挙動不審になってしまった。おやつのチェリーパイを一口食べて、ぼんやりお向かいに座ったサンジ君を眺める。
うっわー…足なっが…
いつも気障ったらしいセリフを吐いて、女の子にはこれでもかってほど優しい。
初めて会った時は、まさか海賊だとは思わなかった。
そう、まるで、昔絵本で読んだ王子様みたいだ…ちょっとガラが悪くて、めちゃくちゃ強くて、女の子にしか優しくない王子様。
「…どうかした?」
視線が合う、と、きょとんとした顔で私を見る。
それをみているとまた、心臓がドキドキ言い出した。ちょ、落ち着け心臓!王子様相手にしてるんじゃあるまいし!
「うん、別に何でもない。」
そう、王子様じゃあるまいし。
確かにサンジ君はちょっと王子様っぽいけど。
この間のことを思い出す。『遅いから心配になって向かえにきた』ってその感じは、むしろ、
「…サンジ君って、お父さんみたいだよね…」
ぽそっと呟いた瞬間に、サンジ君が一瞬真顔になる。え、何、
「俺ァ、そんなつもりじゃないんだけどなァ」
にっこり。何だろう、いつもと違うというか、妙に恐いような、
「そ、そうなの?でもこないだも」
「名前ちゃんってさ、クソ鈍いよね。」
「…えっ?」
…き、聞き違いかな?今のは。うん、きっとそうだ。
ゆっくり息を吸って吐く。いつまでたっても心臓が落ち着かない。
にこにことサンジ君は笑う。楽しそうに。
声だって、いつも通りの優しい声。なんだけど、
「ねぇ…名前ちゃん?」
妙に色っぽいような、見透かすような目でサンジ君が私を見ている。ような、気がする。チェリーパイをもう一口食べる。紅茶をすする。欠伸をする振りをして視線を外す。チェリーパイを食べる。また紅茶を飲む。その間も、サンジ君は私から目を逸らしてくれない。
「しっ、静かだね、みんなどうしたんだろ」
「ナミさんは買い物、クソマリモは酒、ゴムとその他大勢は『冒険』だってさ」
「…何かご機嫌ですね、どしたのサンジ君」
いつもと違うような、って言いかけてやめた。というか、言えなかった。びく、と体が震える。サンジ君の綺麗な指が私の髪に触って、さ、わって、
「どっ、どどどうしたのサンジ君大丈夫、とゆうかあなたそんなキャラでしたっけ、あの」
「ねぇ、名前ちゃん」
「はっ、はい何のご用で」
くつくつ笑い声が聞こえた。煙草を灰皿に押し付ける気配。私の髪の毛を耳に掛ける指。細くてながくて綺麗な、
…って、ちょ、落ち着け心臓!何ドキドキしてるんだ、相手はサンジ君、サンジ君だぞ。いつもへらへらしてる女の子大好きな
「2人きりだぜ、どうする?」
「え、どうするって、」
どうもしないよ!そんな物騒な事言うんじゃありません!いつもの調子で返そうとした、時に限って、思い出してしまった。
「あいつ紳士ぶってるけどあんたの事大好きだから、気をつけないと、」
いやいや、いやいやいや。まさかまさか。
ドキドキしすぎて過呼吸になりそうだ。
ひと思いに紅茶を飲み干して、残っていたチェリーパイを持って立ち上がった(本当は置いて逃げようかと思ったけど、おいしくて名残惜しい)
「ど、どうもしないよ、そんな物騒なこと言うんじゃ」
「俺は、どうにかしたい。」
「な、何を。」
とうとう顔が熱くなってきた。声もひっくり返る。サンジ君の指が髪の毛を梳いた。ちょ、近い、顔がちか、
「何って、君を。」
耳元で囁く声。だめだ恥ずかしい、逃げようと後ずさりしたら楽しそうな声に追い討ちをかけられる。するっと手が肩に伸びてくる。
「だめ、逃がさない。」
な、何かエロくないですかサンジ君どうしちゃったのそんなキャラじゃないでしょうがあなた、どうにかしたいなんて、めったなこというんじゃ、
言いたいことがこんがらがってのどに詰まる。相手はサンジ君だ。そう思っても、心臓は落ち着かない。
おかしい。明らかに、いつもと違う。サンジ君が。
でも一番問題があるのは、私がこの状況にまんまとドキドキしてるってことで、逃がさないでほしいって思っちゃうことで。
そのまま私を壁際に追い詰めて笑う。いつもとは違う、獲物をねらうような目。
……最近、おかしいのは、私だけじゃないみたいです。
*
「…サンジ君って、お父さんみたいだよね…」
さっきの安心しきった顔と、その後の真っ赤な顔。可愛かったなぁ、笑いが止まらない。鼻歌混じりで包丁を研ぐ。クソマリモが俺を気味悪そうに見ているけど、それも気にならないくらいに今日は機嫌がいい。
「おいコック」
「あ?」
「…ほどほどにしとけ。」
ショリショリショリショリ。
キッチンに砥石の音が響く。あくまで手は止めないで、言葉を返す。
「やなこった。」
「あいつ、完璧に挙動不審じゃねェか」
「名前ちゃんが挙動不審なのはいつもの事だぜ?俺のせいとは限らねェよな」
ショリショリショリショリ。
かみ殺していた笑い声が漏れる。煙草を深く吸い込んで、灰皿に押し付けた。
「それに、俺ぁそんなに我慢強い方じゃねェ。あんなにされるまで気づかない名前ちゃんが悪い。」
包丁を光にかざす。うん、上出来だ。刃物に写った自分が、お世辞にも善良そうには見えない顔で笑う。はぁ、とマリモがため息をつくのが聞こえた。
「晩飯は。」
「駒鳥のロースト。」
「ンなもんどっから手に入れたんだよ…」
オーブンの温度を調節する。羽をむしりながら、昨日の夜の事を思い出した。
涙目で、俺の事を見上げて、抱きついて。
名前ちゃんは鈍い。俺が好きとか愛してるとかメロリンラブとか、最後のはともかく、そんなことをいくら言っても本気にしない。俺の視線にも、他の奴らの視線にも気付かない。
そんなんだから俺は彼女に言い寄るクソ野郎どもを蹴散らして、まぁそれにも気付かないくらい名前ちゃんは鈍いんだけど。昨日だって、俺じゃなくてマリモが行ってたらどうすんだよ(あ、なんか腹立ってきた)。
俺も割と必死で本能と戦ったりしたんだけど。
それを言うに事欠いてお父さんみたいって、
「…俺が今まで我慢した分、ちょっとくらい苛めたってバチは当たらないんじゃねェの」
「…変態コック」
「てめぇにだけは言われたくねェよエロマリモ」
まな板の上には、すっかり羽をむしられたかわいそうな駒鳥。さぁ、どう料理してやろうか。考えたらまた面白くなって喉を鳴らして笑った。
*
「だめ、逃がさない。」
肩を掴んで引き寄せられる。私が落として宙を舞ったチェリーパイの皿を中身ごと綺麗にキャッチして、笑う。
「さ、サンジく、」
「好きだよ。」
いつものセリフ。
なのに目をそらせない。
ああ、なんか獲物を狙うみたいな目だな。と冷静な自分が頭の中で冷静に感想を言った。現実の私は勿論そんな余裕はなくて、出した声は小さく震えていた。
「ど、うしたの、サンジ君、いつもと違うって言うか、えっと、あなたそんなキャラでしたっけ…」
言ってる間も髪の毛を弄ぶ綺麗な手。サンジ君がくつくつと喉で笑う。
「『いつも』ねェ…」
指が耳朶に触れて、びくりと体が震えた。顔が熱い。
「教えてあげようか、名前ちゃん。」
「え、あの、」
「俺が『いつも』どんな気持ちだったか」
耳をくすぐる息。そのまま耳朶を甘噛みされて変な声が出た。まずい。これは、非常に、まずい。
「なァ、名前ちゃん。俺のこと、好き?」
とびっきりの甘い声で。するっと指が私の唇を撫でる。…やばい。捕まった。サンジ君に。
「…だから言ったでしょ。気をつけないと食べられるって」
「ははは破廉恥なこといわないでよナミ!」
さっきからずっと顔が熱い。あの後ゾロが入ってこなかったらどうなってたんだろう。
そう思うと何かもう、もう、……!うわぁ、とか言いながら布団を被った。ナミが楽しそうに笑っている。
「ひ、他人事だと思って…!」
「でもまぁ、よかったんじゃない?好きでしょ、サンジ君。」
「いや、好きだけど、あんないきなり、どうしちゃったのあの人」
「…いきなり、でもないんじゃない?サンジ君結構頑張ってたのに、あんた鈍いから」
「だって!
好きだよ、とか可愛いとか、そりゃサンジ君女の子大好きだから。まさかそんな、私に本気になるなんて思わないでしょ。私は本気だけどね?サンジ君大好きだけどね?もうそれは見てるだけで大満足レベルというか…ちょっとナミちゃんと聞いて」
「長い、めんどくさい。要するに両想いなんだからいいんじゃないの?」
「い、いいけど、よくないというか」
キッチンからナミすわぁーん、名前ちゅわぁーん、ご飯だよーなんてサンジ君の声がする。
いつもみたいな声だ。うわ、でもどんな顔して行ったらいいんだか…!
「い、いやだナミ行かないでひとりにしないでぇぇ」
「お腹減ったから嫌。さっさと来ないと呼びにくるかもよ?サンジ君が」
「それはそうなんだけど、でも、だって」
「じゃあ、私行くから」
「ま、待ってぇぇ」
*
………………………よ、よし。行くぞ。行ってやるよ。お腹もすいたしな。今日の晩ご飯なにかなぁ、楽しみだなぁ。じゃあ、行ってきます!
部屋のドアノブを握りしめる。どうしてもあける勇気がない。こんな行動をかれこれ十分間繰り返している。手汗でドアノブがぬるぬるして気持ち悪い。
…よっしゃ、行くぞ……
ドアノブを回す。あとはドアを向こう側に引いて足を出すだけだ。…いや待てよ右足と左足どっちだそう?ああもうそんなんどうでもいい、
――コンコン。
「ひぃぃ!」
「え、ちょ、どしたの名前ちゃん。」
「いや、あのねちょっとね」
「晩飯できたから呼びに来たんだけど…大丈夫?もしかして体調悪い?」
あ、あれ?普通だ。ドアをあけると、本当にいつも通りのサンジ君がいた。
「あ、あの、いや、うん、何でもない。」
「なら良かった。早くしねぇとゴムに飯食われちまうから」
「あ、それはやばい。さっさと行かなきゃ」
私もさっきのことなんてなかったみたいにいつも通り会話をする。…よかった、普通だ。なんだか安心してこっそり息をついた。
「今日の晩ご飯は?」
「ん?あァ、」
ルフィに晩ご飯を食べ尽くされない内に、早足で歩きかけたところで手を掴まれる。…え!?
「ところで、さ。」
びくっと体が震えた。掴まれた手が熱い。低い声。心臓がどくんどくん音を立てる。ああ、獲物を狙う目だ。さっきみたいな。
「え、な、何」
「返事、聞いてないんだけど」
「へ、返事?」
え、あれ?普通だったじゃん。さっきまで。なに、なんで。混乱する私をよそに、サンジ君が笑う。耳をくすぐる甘い声。思わず、目をぎゅっと瞑った。
「ねぇ、名前ちゃん。俺のこと、好き?」
耳元で喉を鳴らして、顔真っ赤だよ、なんて。だ、誰のせいだと…!
「さ、サンジく」
「言ってよ、早く」
「すす、好き、好きだけど、こんなっ」
ぱっと目をあけると、凄く近い距離でサンジ君と目があって、言葉に詰まった。長い指が私の唇をなでる。
「へェ、そりゃよかった」
「よ、くなッ…ン…」
ちっともよくない。そのまま強引に唇が重なった。舌が絡まって、息ができなくなって、逃げようにも頭の後ろに手を回されて動けない。
息できない、力抜ける、変な声でる、何でこんなことに。
一瞬色んな事が頭をよきったけど、すぐに何も考えられなくなる。…まずい。これは、非常に、まずい。
最後にぺろりと唇をなめられて、やっと解放される。私はその場にへたり込んだ。息が上手くできない。心臓がうるさい。サンジ君の手が伸びてきて、きつく抱きしめられる。髪の毛を梳く長い指。
「な、なん、サンジく」
「名前ちゃん」
「は、はいっ」
またくつくつと笑いながら、君はもう俺の物だ。なんて心底嬉しそうな声で言われて更に顔が赤くなる。…もうやだ、私なんでこんなに翻弄されてんの。
*
いつもよりかなり上機嫌なサンジ君が鼻歌混じりで次々と料理をテーブルに並べていく。
遅れてやってきた名前は普段の五倍は挙動不審だ。
「よかったじゃない、名前。」
「よよ、よくない!全然よくないよ!破廉恥な事いわないでよナミ!」
「私何も破廉恥な事言ってないんだけど」
私の言葉にすら大袈裟に反応する名前を見て、サンジ君が非常に楽しそうに笑っている。
あーあ、かわいそうに…あれはまだよからぬ事を考えている顔だ。
この間まで名前に必要以上に紳士的に接していたのに、酷い変わりようだ。まぁ、名前が鈍すぎるのが原因ではあるんだけど。さすがに、あの変わりっぷりは酷い。他人事ながら少し同情する。
そんな事を考えながらこんがりとおいしそうに焼けた駒鳥を眺める。
懐かしいなぁ、凄く小さい頃に歌った童謡。何だっけアレ。誰が駒鳥殺したのってやつ。続き思い出せないわ。
独り言のようにそう言えば、上機嫌のサンジ君が嬉しそうに答える。
「『それは私』と雲雀が言った」