方舟を作る
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消えた審神者の話? 何で今更。そんなの珍しい事じゃないだろうに。ああ、■■■号本丸の審神者か。あれは単なる事故だろ、一万分の一程度の確率でどこの本丸でも起きうるトラブルだよ。……原因? そんなの、報告書の通りだよ。歴史修正の影響の蓄積による存在の消失。あの頃、遡行軍が本丸を襲撃する事件が立て続けに起こっていただろう。あれの影響で、本丸空間が一時的に時間軸の干渉を受けやすくなった。事故だよ。運悪くあそこの審神者の生きていた時代は、度重なる歴史干渉により時間軸を閉鎖されていた。それだけの事だったはずだよ。幸い、刀のほとんどは消失を免れた。消えたのは審神者本人と、……修行に出ていた打刀のみ。へし切長谷部? さあ、どうだったかな。なんせ、あの頃の資料は先週のシステム障害で大半が消失したんだ。当時の事なんて確かめようがないね。それで、あんたそんなもん調べて何が知りたいんだい。必死なんですって、そんな事言われてもなあ。俺だって知らないよ、他所の本丸の話なんだから。
どんな奴だったって、なあ。元同期ったって、そう親しい間柄でもなかったからなあ。まあ、業務上顔を合わせることは多かったよ。これといった特徴もない、ごく平凡な女だった。目立った特徴なんて何もない、ごく普通の本丸だったろうさ。ああ、近侍。近侍は、へし切長谷部だったかな。だから知らないよ、消失した刀と同一の個体だったかなんて。他所の刀の事なんていちいち気にかけてなんかいられないよ。こっちだって色々あるんだからさ。審神者が消失した後の事なら、あんただって知ってるはずだよ。残された刀はほとんどが自ら顕現を解き、本体に戻った。行方不明になった一振りは、……まあ、主人の霊力の喪失により、強制的に顕現を解除されたと考えるのが自然だろうな。で、それが何。あんたそんな必死になって、何を知りたいんだ。
へえ、調査。それはまた、どうして。はあ。その、例の審神者が生きていた年代において、イレギュラーな大量死が発生していると。それで? それは例えば、歴史上重要な人物だったり、もしくは過去においてこちらで把握していないイレギュラーな事件や事故や災害が発生したってことなの? なんだ、違うじゃない。歴史修正が行われているわけでもない。正史に影響を及ぼすほどのずれが起きたわけでもない。それじゃあ誤差ってことにしておけ。悪い事は言わないから、深入りしない方がいい。
……なんでって。……、まあ、これはあくまでも与太話の一種として聞いておけよ。
歴史を守るなんて大層な事を言ったところで、正史として記録されている出来事なんて、実際起こった事の数万分の一にも満たないんだ。歴史の陰で、数億、数十億の人間たちが生きて死んでいく。名前なんて残らない。そんな人間が存在したという事すら、今の俺達には確かめようがない。それが何だって? まあ、もう少し聞いてりゃわかるさ。余談だよ、余談。仕事の合間の気楽なおしゃべりだ。良いじゃない、あんた暇なんだから。
俺はね、クラシック映画を見るのが趣味なんだ。古い映画でこういうのがある。飛行機に乗った主人公が、離陸直前に飛行機事故の夢を見る。悪夢のせいで取り乱した主人公は飛行機を下ろされるが、なんと、その飛行機が本当に事故にあうんだ。予知夢を見たおかげで、主人公と友人たちは辛くも難を逃れる。だけど結局、死から逃れることはできなかった。主人公達は一人また一人と死んでいく。不可解としか言いようのないくらいの強引さで、事件やら事故に巻き込まれて。最後には誰も残らない。誰一人運命からは逃れられない。だけど、例えばどうだろうか。たった一人、死ぬはずの誰かを生かしてくためだけに、膨大な数の生贄を捧げるとしたら。
歴史の推進力は強大だ。死ぬべき人間は死に、生きるべき人間は必ず生かされる。ちょっとやそっとの小細工じゃあ、歴史の流れは変えられない。俺たちが不自然に時間軸に介入していれば、検非違使って連中がすぐに嗅ぎつけて、異分子を排除に掛かる。だからきっと、並大抵の事では済まないはずだ。歴史の、運命の流れから誰か一人を切り離して生かしたままにしておくには、膨大な数の身代わりを立てる必要がある。数十、数百、もしかしたら数千人。だとしても、俺たちには気づきようがない。民間人が何人消えようが、俺たちが知る手立てはないんだ。あの時代のデータは大半が消失した。誰かが、いや、何かが、【それ】を起こしているのかもしれない。ただ一つの存在を繋ぎ留めておくために、たった一人、誰かをうしなわせないためだけに。
あの女、例の消失した審神者だけどね。あいつは本来なら、存在してはいけない人間だったんだ。どういう理屈か、細かい事はわからない。ただ、歴史のねじれから生まれてしまったイレギュラーな人口のうちの一人だと、噂で聞いたことはあったよ。あの頃は人口やら戸籍やら、詳細なデータが共有されていたからね。生まれるはずのない民間人なんかを連れてきて審神者に仕立てた時期があったと、聞いたことはあるだろう。あの女はそういう類の審神者だったんだ。だから、本丸の結界が緩んじまったら一たまりもなかった。ここの結界を維持するのにだって、膨大なエネルギーと巨大なシステムが必要なんだ。時間の流れから人間を隔離し続けるなんて、そうやすやすとできることじゃない。主人を失った刀の霊力では、人間を隠しきることなど出来はしないだろう。まして、時間遡行をした後となれば尚更だ。だからきっと、あの審神者を繋ぎとめておこうとしたら、数十、数百、数千の人間を目くらましに使う必要がある。誰がそれをするのかって? ハハ、あんたまさか本気にしたの。余談だって言ったでしょう。クラシック映画を下敷きにした、ただの俺の妄想だよ。あんたが調べてる件とは関係ないだろうよ。大量死なんて大げさな。誤差の範囲なんだろ? そういうことにしておけよ。
あんたももう止めておくことだ。これ以上この件に首を突っ込んだところで、きっとろくなことになんてならないさ。俺はね、たまに怖くなるんだ。本丸の刀が。きっとあいつらは何でもするんだ。たった一人の主人の、俺の為だけに。神様なんだ、当然だろう。ただ一人、主人の為だけに加護を与え続ける、そういう存在だ。そんな連中を呼び出して好いように使ってるんだから、そりゃやばい事の一つや二つ、起こっても不思議じゃないだろう。ハハ、ああ、しゃべりすぎちゃった。ハイ、もういいかな。はあ、連絡先。悪いけどお断りしておくよ。俺だってこれ以上、余計な厄介ごとを抱え込みたくはないからね。
どんな奴だったって、なあ。元同期ったって、そう親しい間柄でもなかったからなあ。まあ、業務上顔を合わせることは多かったよ。これといった特徴もない、ごく平凡な女だった。目立った特徴なんて何もない、ごく普通の本丸だったろうさ。ああ、近侍。近侍は、へし切長谷部だったかな。だから知らないよ、消失した刀と同一の個体だったかなんて。他所の刀の事なんていちいち気にかけてなんかいられないよ。こっちだって色々あるんだからさ。審神者が消失した後の事なら、あんただって知ってるはずだよ。残された刀はほとんどが自ら顕現を解き、本体に戻った。行方不明になった一振りは、……まあ、主人の霊力の喪失により、強制的に顕現を解除されたと考えるのが自然だろうな。で、それが何。あんたそんな必死になって、何を知りたいんだ。
へえ、調査。それはまた、どうして。はあ。その、例の審神者が生きていた年代において、イレギュラーな大量死が発生していると。それで? それは例えば、歴史上重要な人物だったり、もしくは過去においてこちらで把握していないイレギュラーな事件や事故や災害が発生したってことなの? なんだ、違うじゃない。歴史修正が行われているわけでもない。正史に影響を及ぼすほどのずれが起きたわけでもない。それじゃあ誤差ってことにしておけ。悪い事は言わないから、深入りしない方がいい。
……なんでって。……、まあ、これはあくまでも与太話の一種として聞いておけよ。
歴史を守るなんて大層な事を言ったところで、正史として記録されている出来事なんて、実際起こった事の数万分の一にも満たないんだ。歴史の陰で、数億、数十億の人間たちが生きて死んでいく。名前なんて残らない。そんな人間が存在したという事すら、今の俺達には確かめようがない。それが何だって? まあ、もう少し聞いてりゃわかるさ。余談だよ、余談。仕事の合間の気楽なおしゃべりだ。良いじゃない、あんた暇なんだから。
俺はね、クラシック映画を見るのが趣味なんだ。古い映画でこういうのがある。飛行機に乗った主人公が、離陸直前に飛行機事故の夢を見る。悪夢のせいで取り乱した主人公は飛行機を下ろされるが、なんと、その飛行機が本当に事故にあうんだ。予知夢を見たおかげで、主人公と友人たちは辛くも難を逃れる。だけど結局、死から逃れることはできなかった。主人公達は一人また一人と死んでいく。不可解としか言いようのないくらいの強引さで、事件やら事故に巻き込まれて。最後には誰も残らない。誰一人運命からは逃れられない。だけど、例えばどうだろうか。たった一人、死ぬはずの誰かを生かしてくためだけに、膨大な数の生贄を捧げるとしたら。
歴史の推進力は強大だ。死ぬべき人間は死に、生きるべき人間は必ず生かされる。ちょっとやそっとの小細工じゃあ、歴史の流れは変えられない。俺たちが不自然に時間軸に介入していれば、検非違使って連中がすぐに嗅ぎつけて、異分子を排除に掛かる。だからきっと、並大抵の事では済まないはずだ。歴史の、運命の流れから誰か一人を切り離して生かしたままにしておくには、膨大な数の身代わりを立てる必要がある。数十、数百、もしかしたら数千人。だとしても、俺たちには気づきようがない。民間人が何人消えようが、俺たちが知る手立てはないんだ。あの時代のデータは大半が消失した。誰かが、いや、何かが、【それ】を起こしているのかもしれない。ただ一つの存在を繋ぎ留めておくために、たった一人、誰かをうしなわせないためだけに。
あの女、例の消失した審神者だけどね。あいつは本来なら、存在してはいけない人間だったんだ。どういう理屈か、細かい事はわからない。ただ、歴史のねじれから生まれてしまったイレギュラーな人口のうちの一人だと、噂で聞いたことはあったよ。あの頃は人口やら戸籍やら、詳細なデータが共有されていたからね。生まれるはずのない民間人なんかを連れてきて審神者に仕立てた時期があったと、聞いたことはあるだろう。あの女はそういう類の審神者だったんだ。だから、本丸の結界が緩んじまったら一たまりもなかった。ここの結界を維持するのにだって、膨大なエネルギーと巨大なシステムが必要なんだ。時間の流れから人間を隔離し続けるなんて、そうやすやすとできることじゃない。主人を失った刀の霊力では、人間を隠しきることなど出来はしないだろう。まして、時間遡行をした後となれば尚更だ。だからきっと、あの審神者を繋ぎとめておこうとしたら、数十、数百、数千の人間を目くらましに使う必要がある。誰がそれをするのかって? ハハ、あんたまさか本気にしたの。余談だって言ったでしょう。クラシック映画を下敷きにした、ただの俺の妄想だよ。あんたが調べてる件とは関係ないだろうよ。大量死なんて大げさな。誤差の範囲なんだろ? そういうことにしておけよ。
あんたももう止めておくことだ。これ以上この件に首を突っ込んだところで、きっとろくなことになんてならないさ。俺はね、たまに怖くなるんだ。本丸の刀が。きっとあいつらは何でもするんだ。たった一人の主人の、俺の為だけに。神様なんだ、当然だろう。ただ一人、主人の為だけに加護を与え続ける、そういう存在だ。そんな連中を呼び出して好いように使ってるんだから、そりゃやばい事の一つや二つ、起こっても不思議じゃないだろう。ハハ、ああ、しゃべりすぎちゃった。ハイ、もういいかな。はあ、連絡先。悪いけどお断りしておくよ。俺だってこれ以上、余計な厄介ごとを抱え込みたくはないからね。