方舟を作る
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深く深呼吸して、肩の力を抜いてください。どうか楽な姿勢でお寛ぎ頂ければと思います。ええ、大丈夫ですよ。何も怖がることはありません。ただ、少しだけ貴方のお身体に触れたいだけです。印を残したいのです。貴方が俺にして下さったように。そうすれば貴方は、永遠に俺とともにあり続けることができる。過去も未来も、神も悪魔も見つけられないこの場所に。ずっとずっと二人きりであり続けることができるのです。ね、素敵でしょう? ふふ、そうです。ここが約束の場所です。貴方の為に誂えた、貴方の為の楽園です。いままでずっと、申し訳ありませんでした。貴方はあの場所で一人きりで、俺を待っていて下さったのに。それなのに俺は長い間、貴方を見つけて差し上げることができなかった。お判りにならないのなら、それでも良いんです。貴方はもう俺の物になってくださるのだから、それだけで十分です。
ええ、ありがとうございます。俺もとても、愛していますよ。きっと貴方が思うよりも、ずっと。……さ、お口を開けて下さいね。お薬を飲みましょう。……ええ、そのまま、少しずつ飲み干して。良い子ですね。きちんと最後まで飲み干せて、偉かったですね。眠いですか? 別に眠ってしまっても構いませんよ。俺が貴方を害することなど、するはずがないのですから。ねえ、そうでしょう。俺の主。……ふふ、はい。それでは、そのまま目を閉じて。次に目覚めたときにはきっと、いらないことは全て忘れているはずですよ。貴方の過ごしたあの時代の事も、あの場所での日常も、辛かったことも、ほんの少しの感傷も。そうして貴方は完全に、俺の物になるんです。記憶も帰る場所も何もかも捨てて、ここに永遠にとどまるんです。ああ、ようやく貴方を隠すことができる。誰にも渡さない。貴方を傷つけ続けたあいつらにも、政府の連中にも、遡行軍にも、検非違使にも、この時代の人間どもにも。
ねえ、主。俺の主。貴方は俺に全てを与えて下さいました。俺に肉体を与え感情を与え言葉を与え、そうして最後には、貴方自身すらも俺に与えて下さった。貴方の魂を繋ぐ糸は、もうここにしかありません。誰も貴方を見つけられない。誰も俺から貴方を奪うことはできない。だけど、貴方は本当の意味で、俺を貴方の物にはして下さらなかった。この刃は、この身は、今の俺の全ては、もう貴方の為だけの物なのに。俺が何度そう言っても貴方は信じては下さいませんでしたね。貴方は俺を愛して下さった。だけど、貴方は俺に、貴方自身を愛させては下さらなかった。痛々しいほどの傷を抱えながら、その欠落を俺で埋めては下さらなかった。俺に全てを与えた癖に、貴方は俺を、世界の全てにはして下さらなかった。
ねぇ、主。貴方は俺を詰って下されば良かったんです。幾らでも俺を責めて、試して、苦しめて下されば良かったんです。貴方の嫉妬も、悲しみも、憎しみも、その何もかもを俺に預けて下されば。貴方の為なら俺は、ただの鉄くずに成り下がったって良かったのに。逸話を捨て名前を捨て、貴方の為だけに作られた、ただの人間になったってかまわなかったのに。……だけど結局、そうさせては下さらなかった。俺を拒み続けたまま、貴方はあの本丸からふっつりと消えてしまった。
俺はこの身を捨てるわけにはいかなくなりました。霊力を持たない鉄くずに戻る訳にも、物語を持たない人間に成り下がる訳にもいかなくなりました。時を遡るには、人ならざる身でなければなりません。本丸の他の連中は、俺を止めませんでしたよ。ええ、当然ですよね。止める者がいたなら、力づくで切り伏せてでもお迎えに上がるつもりでした。貴方は俺を置いていった。俺を連れて行っては下さらなかった。ただ何も言わないまま、存在そのものを消してしまわれた。ですが。ねえ、主。俺の主。きっと、これで証明できましたよね。この身の全ては、貴方の為に存在するのだと。この体も、声も言葉も感情も、記憶も物語も過去も未来も、俺の存在の何もかもは、ただ貴方をお守りするためだけにあるのだと。
俺は貴方に、証明し続けなければならない。だから方舟を作ったんです。過去も未来も、紡がれた歴史すらも打ち滅ぼして、ただ一人貴方だけをお救いするための方舟を。
ええ、ありがとうございます。俺もとても、愛していますよ。きっと貴方が思うよりも、ずっと。……さ、お口を開けて下さいね。お薬を飲みましょう。……ええ、そのまま、少しずつ飲み干して。良い子ですね。きちんと最後まで飲み干せて、偉かったですね。眠いですか? 別に眠ってしまっても構いませんよ。俺が貴方を害することなど、するはずがないのですから。ねえ、そうでしょう。俺の主。……ふふ、はい。それでは、そのまま目を閉じて。次に目覚めたときにはきっと、いらないことは全て忘れているはずですよ。貴方の過ごしたあの時代の事も、あの場所での日常も、辛かったことも、ほんの少しの感傷も。そうして貴方は完全に、俺の物になるんです。記憶も帰る場所も何もかも捨てて、ここに永遠にとどまるんです。ああ、ようやく貴方を隠すことができる。誰にも渡さない。貴方を傷つけ続けたあいつらにも、政府の連中にも、遡行軍にも、検非違使にも、この時代の人間どもにも。
ねえ、主。俺の主。貴方は俺に全てを与えて下さいました。俺に肉体を与え感情を与え言葉を与え、そうして最後には、貴方自身すらも俺に与えて下さった。貴方の魂を繋ぐ糸は、もうここにしかありません。誰も貴方を見つけられない。誰も俺から貴方を奪うことはできない。だけど、貴方は本当の意味で、俺を貴方の物にはして下さらなかった。この刃は、この身は、今の俺の全ては、もう貴方の為だけの物なのに。俺が何度そう言っても貴方は信じては下さいませんでしたね。貴方は俺を愛して下さった。だけど、貴方は俺に、貴方自身を愛させては下さらなかった。痛々しいほどの傷を抱えながら、その欠落を俺で埋めては下さらなかった。俺に全てを与えた癖に、貴方は俺を、世界の全てにはして下さらなかった。
ねぇ、主。貴方は俺を詰って下されば良かったんです。幾らでも俺を責めて、試して、苦しめて下されば良かったんです。貴方の嫉妬も、悲しみも、憎しみも、その何もかもを俺に預けて下されば。貴方の為なら俺は、ただの鉄くずに成り下がったって良かったのに。逸話を捨て名前を捨て、貴方の為だけに作られた、ただの人間になったってかまわなかったのに。……だけど結局、そうさせては下さらなかった。俺を拒み続けたまま、貴方はあの本丸からふっつりと消えてしまった。
俺はこの身を捨てるわけにはいかなくなりました。霊力を持たない鉄くずに戻る訳にも、物語を持たない人間に成り下がる訳にもいかなくなりました。時を遡るには、人ならざる身でなければなりません。本丸の他の連中は、俺を止めませんでしたよ。ええ、当然ですよね。止める者がいたなら、力づくで切り伏せてでもお迎えに上がるつもりでした。貴方は俺を置いていった。俺を連れて行っては下さらなかった。ただ何も言わないまま、存在そのものを消してしまわれた。ですが。ねえ、主。俺の主。きっと、これで証明できましたよね。この身の全ては、貴方の為に存在するのだと。この体も、声も言葉も感情も、記憶も物語も過去も未来も、俺の存在の何もかもは、ただ貴方をお守りするためだけにあるのだと。
俺は貴方に、証明し続けなければならない。だから方舟を作ったんです。過去も未来も、紡がれた歴史すらも打ち滅ぼして、ただ一人貴方だけをお救いするための方舟を。