方舟を作る
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顔色が、あまり良くないですね。あれから一週間経ちましたが、体調はいかがですか。処方した薬は……、そうですか。あの睡眠導入剤はお身体に合っていたようですね。不安感や焦燥感は、薬を飲むことで少しは和らいだでしょうか。ああ、そちらは余り改善が見られなかったんですね。いえ、こういった場合に用いる薬にも、いくつか種類があるんです。一概に、量を増やせば良いという訳では。お薬の効果のほどは、体質によっても変わりますから。ですから焦らず一緒に合う物を探して……、どうしましたか。何か俺が、失礼な事を言ってしまったでしょうか。そんな、どうか謝らないで下さい。貴方は何も悪くないですよ。大丈夫です、大丈夫ですから、ゆっくり息を吸って、吐いて。……そう、お上手ですね。大丈夫、大丈夫ですよ。ここは安全です。ここには、貴方を傷つけるものは何もありません。……、少し、お身体に触れても? ありがとうございます。震えていますね、それに指先がとても冷たい。ね、こうしていると少しだけ、安心しませんか。人肌には緊張感を和らげたり、ストレスを緩和する効果があるんですよ。ええ、構いません。■■さんが落ち着くまで、暫くこのままでいましょうか。迷惑など、何一つかけられていませんよ。こんなになってまで必死で頑張ろうとしている方を、こんなにお労しい貴方を、厭になる訳がないでしょう。俺はただ、貴方のお力になりたいのです。貴方に刺さる棘を、少しでも減らして差し上げたいだけです。ですからどうか信じてください。どんな状況になろうとも、俺だけは決して貴方を嫌いません。
……呼吸、落ち着いてきましたね。いえ、過呼吸は誰にでもあることですよ。俺も何度か経験があります。極度の緊張状態が続いていれば無理もない事です。少し疲れましたよね。横になりますか? ハハ、時間の事など、お気になさらないで下さい。助けを求める方に正しく時間を使えるように、この場所を作ったんです。その為にわざわざ、こんな廃病院まで買い取って。この建物がお気に召しますか? ふふ、実は俺も気に入っているんです。この建物の周りだけ林に覆われているでしょう。まるでここだけが、世界から切り離されているようで。
空気がきれい、ですか? ……そうですか。もしかして普段から慢性的に、息苦しさを感じていらっしゃいますか。だとしたら、それはいつごろから? ……思い出せない程に昔から、そうなんですね。お可哀そうに。ですが、ここに居ると楽に呼吸ができると言っていただけるのは……、すみません、少しだけ嬉しいと思ってしまいます。貴方にとってはお辛い事なのに、不謹慎ですよね。息苦しさを覚えるきっかけは何でしょうか。お辛い事を聞いてしまって申し訳ありません、でも、先ほど過呼吸を起こす前、何かを思い出されたように見えたものですから。……ええ、勿論、何でも仰ってください。大丈夫ですよ、俺が貴方の言葉を否定することなど、絶対にあり得ません。疑うことも、責めることも決していたしません。だから、ここでは何を言っても何をしても良いんです。ね、貴方の秘密を、どうか俺に教えてくださいませんか。
……死んだ人間の姿が見える。なるほど、それは恐ろしいですね。お困りでしょう。
疑うなどとんでもない。先ほども申しましたがあり得ないことです、貴方が仰るのだから本当の事なのでしょう。通勤途中でも、ご自宅でも、会社でも、死んだ人間の姿をはっきりと見てしまう、と。ええ、そうですね。きっと嘘をついていると思われるから、それで黙っていたんですよね。俺の事を信じて打ち明けて下さって、ありがとうございます。恐かったですね、誰にも言ってはいけないと、そうお考えだったんですね。きっとご自分は病気だと思った。それなのに薬を飲んでも症状が改善されなかった、だから焦ってしまったんですね。もう一人きりでは、あんな恐怖には耐えられない。そう思われたんですね。……ですが、申し訳ありません。残念ながら、それは薬では治せないんです。死人が見えてしまうというのは個人の特性であって、病気などではないからです。
何故言い切れるのかと? ……俺も、貴方と同じだから分かるんです。俺にも、死人の姿が見えてしまう。冗談みたいな話でしょう? ですが本当の事なんです。俺も今まで、他人にこの話をしたことはありませんでした。頭がおかしいと思われても仕方がない。それに、俺は貴方ほどお優しくはなかったので、死んだ連中の声など煩わしいとしか思わなかった。貴方のように罪悪感を感じることなど、思いもよらなかったんです。冷たい人間だとお思いですか? はは、ありがとうございます。やはり貴方はお優しい方だ。ですが俺はきっと、貴方が思うほどの聖人君子などではありませんよ。
……話を戻しましょうか。この建物を気に入っていると言いましたよね。実はここを買い取った理由が、もう一つあるんです。ここはとても静かなんです。現世のものだけでなく、あの世のものもこの場所には寄り付かない。先ほど貴方が【ここでは呼吸が楽にできる】と仰ったのも当然の事なんです。ここでは一度も、死人の姿を見ていないでしょう? 連中の声も、気配も、この中にだけは届かない。だから言ったんです、【ここだけは安全です】と。初めてお会いした時から貴方には、俺と同じものが見えているような気がしたので。
ハハ、……でもまさか本当に、貴方も俺と同じだったなんて。初めてです、そんな方に出会えたのは。実はずっと疑っていたんです、自分の頭がおかしいのではないかと。ああ、わかっていただけますか、嬉しいな。死んだ連中ばかりに囲まれながら、一人きりで生きていくのかと思うと気が狂いそうでした。だけど、まさか貴方が、俺と同じ世界を見ていてくださったなんて。……ねぇ、これはまるで、運命のようではないですか。
……呼吸、落ち着いてきましたね。いえ、過呼吸は誰にでもあることですよ。俺も何度か経験があります。極度の緊張状態が続いていれば無理もない事です。少し疲れましたよね。横になりますか? ハハ、時間の事など、お気になさらないで下さい。助けを求める方に正しく時間を使えるように、この場所を作ったんです。その為にわざわざ、こんな廃病院まで買い取って。この建物がお気に召しますか? ふふ、実は俺も気に入っているんです。この建物の周りだけ林に覆われているでしょう。まるでここだけが、世界から切り離されているようで。
空気がきれい、ですか? ……そうですか。もしかして普段から慢性的に、息苦しさを感じていらっしゃいますか。だとしたら、それはいつごろから? ……思い出せない程に昔から、そうなんですね。お可哀そうに。ですが、ここに居ると楽に呼吸ができると言っていただけるのは……、すみません、少しだけ嬉しいと思ってしまいます。貴方にとってはお辛い事なのに、不謹慎ですよね。息苦しさを覚えるきっかけは何でしょうか。お辛い事を聞いてしまって申し訳ありません、でも、先ほど過呼吸を起こす前、何かを思い出されたように見えたものですから。……ええ、勿論、何でも仰ってください。大丈夫ですよ、俺が貴方の言葉を否定することなど、絶対にあり得ません。疑うことも、責めることも決していたしません。だから、ここでは何を言っても何をしても良いんです。ね、貴方の秘密を、どうか俺に教えてくださいませんか。
……死んだ人間の姿が見える。なるほど、それは恐ろしいですね。お困りでしょう。
疑うなどとんでもない。先ほども申しましたがあり得ないことです、貴方が仰るのだから本当の事なのでしょう。通勤途中でも、ご自宅でも、会社でも、死んだ人間の姿をはっきりと見てしまう、と。ええ、そうですね。きっと嘘をついていると思われるから、それで黙っていたんですよね。俺の事を信じて打ち明けて下さって、ありがとうございます。恐かったですね、誰にも言ってはいけないと、そうお考えだったんですね。きっとご自分は病気だと思った。それなのに薬を飲んでも症状が改善されなかった、だから焦ってしまったんですね。もう一人きりでは、あんな恐怖には耐えられない。そう思われたんですね。……ですが、申し訳ありません。残念ながら、それは薬では治せないんです。死人が見えてしまうというのは個人の特性であって、病気などではないからです。
何故言い切れるのかと? ……俺も、貴方と同じだから分かるんです。俺にも、死人の姿が見えてしまう。冗談みたいな話でしょう? ですが本当の事なんです。俺も今まで、他人にこの話をしたことはありませんでした。頭がおかしいと思われても仕方がない。それに、俺は貴方ほどお優しくはなかったので、死んだ連中の声など煩わしいとしか思わなかった。貴方のように罪悪感を感じることなど、思いもよらなかったんです。冷たい人間だとお思いですか? はは、ありがとうございます。やはり貴方はお優しい方だ。ですが俺はきっと、貴方が思うほどの聖人君子などではありませんよ。
……話を戻しましょうか。この建物を気に入っていると言いましたよね。実はここを買い取った理由が、もう一つあるんです。ここはとても静かなんです。現世のものだけでなく、あの世のものもこの場所には寄り付かない。先ほど貴方が【ここでは呼吸が楽にできる】と仰ったのも当然の事なんです。ここでは一度も、死人の姿を見ていないでしょう? 連中の声も、気配も、この中にだけは届かない。だから言ったんです、【ここだけは安全です】と。初めてお会いした時から貴方には、俺と同じものが見えているような気がしたので。
ハハ、……でもまさか本当に、貴方も俺と同じだったなんて。初めてです、そんな方に出会えたのは。実はずっと疑っていたんです、自分の頭がおかしいのではないかと。ああ、わかっていただけますか、嬉しいな。死んだ連中ばかりに囲まれながら、一人きりで生きていくのかと思うと気が狂いそうでした。だけど、まさか貴方が、俺と同じ世界を見ていてくださったなんて。……ねぇ、これはまるで、運命のようではないですか。