長谷部
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「当たり前だろう、全て知っているに決まっている。いいところもだめなところもすきなものもきらいなものも、あの方の事なら全部全部俺が」
……うわあ、面倒くさいなあ。
思わず本音を漏らしそうになった口を掌で塞ぐ。じとりとこっちを睨みつける彼の視線を避けるようにグラスに焼酎を継ぎ足す。正直ウィスキーのほうが好みなんだけどなあ、まあ、面倒くさいことになるのは目に見えてるからそれも言わないでおこう。なんでこんなことになったんだか思い出そうとして、面倒になってため息をひとつ。僕も大分酔いが回ってるみたいだ。珍しく主が落ち込んでるものだから、それでうっかり口を滑らせたのが始まりだったんだっけ。
「どうせ取柄ないし、審神者とか全然つぶし効かないし演練最近勝てないし彼氏もいないし昨日友達結婚したしご祝儀三万ってなんだよ、なんで三万も取るんだよ私が全然取柄とかないせいなの?なんで?平凡ってそんないけないこと?三万円毟り取られないといけないほどの悪なの?」って、あまりにも無理やりに後ろ向きなその言葉に「僕はそうは思わないけど」と返したら「ほらあまた燭台切さんは口だけでそんなこと言う」なんて泣くものだからつい話の流れで。
ああもう僕も馬鹿だよねえ、「嘘じゃないよ、君のいいところをたくさん知ってる。数えて言っていこうか?」なんて。うん、本当に嘘じゃないんだよ、君のいいところをたくさん知ってる。頑張り屋さんで、可愛くて、真面目で、少し抜けてるとこだってあるけど、それを補って余りあるくらいの美点を兼ね備えた自慢の主だと思ってる。ただ、やっぱり、この状態の長谷部くんを残して一人でさっさと潰れちゃうのは、ナシなんじゃないかなあ主。
安らかに眠る彼女に恨みがましく視線を落とした、瞬間に後頭部を鷲づかみにされる。ぐいっと引き戻された視線の先、「貴様、何を、見ている?」敵意むき出しの地を這うような声と、戦闘中でも見ないくらいの剣呑な表情。うわ、酒臭いなあ長谷部君、流石に飲みすぎなんじゃない?思いっきり眉を顰めたのがいけなかったのか、彼はさらに視線をきつくする。……つまりこれが、僕の軽はずみが招いた惨憺たる結果だった。
目をキラキラさせた主にねだられるままに、『きみのいいところ』を十まで並べて見せたところまではよかった。その頃はまだ長谷部君は、隣で黙々と杯を煽っているだけだった。何なら笑顔で相槌だって打ってたのにな。寝落ちてしまった主を眺めながら、「僕達の主は、本当に可愛いひとだよねえ」と思わず言ってしまったのは、彼女の寝顔が普段からは信じられないくらいにあどけなくて子供みたいで可愛らしかったからで、決して彼が思うようなやましい意味なんか含まれてなかったわけで。だけど長谷部君はそうは捉えなかったんだろう。「はは、貴様に、この方の、一体何がわかるって?」長谷部君の言葉に、自分のミスを悟った時にはもう遅かった。そこからかれこれ三十分、僕は長谷部君の絡み酒に付き合っている。
「調子にのるなよ、美点を十かそこら並べる程度で主の御心が貴様に傾くわけないだろう」
うんうん、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだよ。
「ハッ、何が『いいところを十個』だ。俺なら百だって二百だって並べられるのに。当たり前だろうすべて知っているに決まってる、貴女のいいところだってだめなところだって好きなものだって嫌いなものだってぜんぶぜんぶ、俺が、」
そうだね、執拗なくらいに主の事を観察してるからね君は。いっそ本人よりも長谷部君の方が、主のことに詳しいんじゃないかな。だからね、僕は別に君と張り合うつもりとかは毛頭ないんだけど。長谷部君と、幸せそうに眠る主を交互に眺めてから思わずぬるい笑みを浮かべてしまう。
本当にこれだから手を焼かされるんだ。
……君たちは本当に、これだから。
「だから厭らしい目で見るなと言って、……おい何故今俺から視線をそらした?何かやましいことでもあるのかああそうかそうなんだなそこに直れ圧し切ってやる、そのいけ好かない眼帯ごと」
やましい事があるのは君の方だろ。徹夜の度に寝落ちた主を部屋まで運んであげてるけど、「ああもうこの方は仕方のない」とか嘯くわりに言い訳できないくらい笑顔なの、やましくない訳ないだろうあれは?
「クソ、貴様に何がわかる、……、なんだって知ってる、俺がずっと見てきたし傍にいたのに」
相槌なんか一言だって入れてないのに、勝手に会話が成立してしまうから怖い。しかし、恰好つかないよねえ長谷部君。ずず、と鼻を啜る彼は主の前じゃ考えられない位の涙目で、それはそれで面白いと言えないこともないんだけど、それよりもやっぱりげんなりする。なのに無理やりにでも自分の部屋に戻らないのは、つまり。
「……俺が、ずっと、貴女のお傍に」
細く掠れて熱を孕んだ声でそう囁いて、彼の指先が、主の頬の輪郭をなぞる。まるで壊すのを恐れてるみたいに慎重に、神経質なくらいの手つきで。
……別に絆されたって訳でも、ないんだけどなあ。いや、絆されたんだろうか。ほんの少しだけ身をよじった主が、うっすらと唇に笑みを浮かべるのを見た。飛び切り幸せそうに笑みを浮かべて、ほとんど声にならないくらいの音でその名前を呼ぶのを、僕は知っている。はせべくん、と、とびっきり幸せそうな甘い声で。まあ、つまり、そういうわけなんだ。面倒くさいったらないよね。
この人たちの面倒くさい片思いに延々と付き合わされている僕ときたら大層不憫じゃないかと自分でも思うわけなんだけど長谷部君、君は知らないだろ。本当はね、主は君から聞かされたかったんだよ。『いいところ』だって『わるいところ』だって、ぜんぶぜんぶ君の口から。だけど絶対教えてやらない、この子の泣き言に付き合う時間だって、(本当に不本意だけど)彼の絡み酒に付き合う時間だって、僕はそれなりに気に入っているから。
そんな訳だからもうしばらく、彼らのまどろっこしい関係に付き合うのも悪くないと思ってるんだ。なんだかんだ言って僕も大概面倒くさいよね。自覚があるだけ長谷部君よりはましだろう。
密かに笑いをこぼしたところで、机に沈んでいた長谷部君の頭がゆるゆると持ち上がる。ごとん、とグラスを置く音と、呻くような声。
「……、ところ」
「うん?」
「書類の記入欄の埋め忘れが多い所」
「うん?ごめん、なんの話かな?」
「この方の駄目な所の話に決まってる」
「うん……、うん?」
「貴様が十ならこっちは三百は言える、いいか、速度を重視するあまりに書類の精度をないがしろにするところ、それから手書きの字が大層雑……いや個性的な所、書類を枕にして寝落ちされるところ、結論ばかり後回しにして延々と空回りするところ、酒に弱いくせにやたら飲みたがるところ、おまけに絡み酒だしすぐ拗ねる上に顔に出さないから傍から見ていると急に不機嫌になる」
「いや、」
「しかも寝汚いし朝だって中々起きない、起きたら起きたで寝惚けるからまともに会話できるようになるまで三十分はかかる、それに毎回その事を気に病まれるので面倒くさい」
「いや君、主の事嫌いなの!?」
「そんなわけあるか愛してるに決まっているだろう」
「……、」
「何だって知ってるし全部愛してるに決まってる、当たり前だろう?」とやけに真っ直ぐな瞳で放たれたその言葉には、曖昧な相づちを返しておいた。ああそうか、もう勘弁してくれ。げんなりしてる僕に構わず長谷部くんは延々と続ける。
「起き抜けに必ず二度寝しようとするところと、ああそれから朝餉を食べながら寝落ちるのも考えものだし、意外と好き嫌いも激しい、しかも無理に食べようとするからいけない、喉につまらせたらどうするんです?それからコーヒーは一日二杯までと言っているのに守らないのも頂けませんね、そんなだから寝付けなくて俺に泣きつく羽目になるんでしょう?」
……もはや僕に言ってるんだか、主に言い聞かせてるんだかも定かではない。黙りこくったところで効果はなく、「あの、長谷部くんそろそろ!」と無理やり口を挟もうとしても無視され、延々と主のだめなところ、もとい、好きなところを聞かされつづけるのはもう、不憫なんてもんじゃないだろう。だけど、完全に酒に飲まれている長谷部くんと完全に寝入っている主を放って寝ることもできないわけで。
……前言撤回、君たちはさっさとくっついてくれ。僕にだって一晩くらい、絡み酒につきあわされないで安らかに眠れる夜があっていい。
……うわあ、面倒くさいなあ。
思わず本音を漏らしそうになった口を掌で塞ぐ。じとりとこっちを睨みつける彼の視線を避けるようにグラスに焼酎を継ぎ足す。正直ウィスキーのほうが好みなんだけどなあ、まあ、面倒くさいことになるのは目に見えてるからそれも言わないでおこう。なんでこんなことになったんだか思い出そうとして、面倒になってため息をひとつ。僕も大分酔いが回ってるみたいだ。珍しく主が落ち込んでるものだから、それでうっかり口を滑らせたのが始まりだったんだっけ。
「どうせ取柄ないし、審神者とか全然つぶし効かないし演練最近勝てないし彼氏もいないし昨日友達結婚したしご祝儀三万ってなんだよ、なんで三万も取るんだよ私が全然取柄とかないせいなの?なんで?平凡ってそんないけないこと?三万円毟り取られないといけないほどの悪なの?」って、あまりにも無理やりに後ろ向きなその言葉に「僕はそうは思わないけど」と返したら「ほらあまた燭台切さんは口だけでそんなこと言う」なんて泣くものだからつい話の流れで。
ああもう僕も馬鹿だよねえ、「嘘じゃないよ、君のいいところをたくさん知ってる。数えて言っていこうか?」なんて。うん、本当に嘘じゃないんだよ、君のいいところをたくさん知ってる。頑張り屋さんで、可愛くて、真面目で、少し抜けてるとこだってあるけど、それを補って余りあるくらいの美点を兼ね備えた自慢の主だと思ってる。ただ、やっぱり、この状態の長谷部くんを残して一人でさっさと潰れちゃうのは、ナシなんじゃないかなあ主。
安らかに眠る彼女に恨みがましく視線を落とした、瞬間に後頭部を鷲づかみにされる。ぐいっと引き戻された視線の先、「貴様、何を、見ている?」敵意むき出しの地を這うような声と、戦闘中でも見ないくらいの剣呑な表情。うわ、酒臭いなあ長谷部君、流石に飲みすぎなんじゃない?思いっきり眉を顰めたのがいけなかったのか、彼はさらに視線をきつくする。……つまりこれが、僕の軽はずみが招いた惨憺たる結果だった。
目をキラキラさせた主にねだられるままに、『きみのいいところ』を十まで並べて見せたところまではよかった。その頃はまだ長谷部君は、隣で黙々と杯を煽っているだけだった。何なら笑顔で相槌だって打ってたのにな。寝落ちてしまった主を眺めながら、「僕達の主は、本当に可愛いひとだよねえ」と思わず言ってしまったのは、彼女の寝顔が普段からは信じられないくらいにあどけなくて子供みたいで可愛らしかったからで、決して彼が思うようなやましい意味なんか含まれてなかったわけで。だけど長谷部君はそうは捉えなかったんだろう。「はは、貴様に、この方の、一体何がわかるって?」長谷部君の言葉に、自分のミスを悟った時にはもう遅かった。そこからかれこれ三十分、僕は長谷部君の絡み酒に付き合っている。
「調子にのるなよ、美点を十かそこら並べる程度で主の御心が貴様に傾くわけないだろう」
うんうん、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだよ。
「ハッ、何が『いいところを十個』だ。俺なら百だって二百だって並べられるのに。当たり前だろうすべて知っているに決まってる、貴女のいいところだってだめなところだって好きなものだって嫌いなものだってぜんぶぜんぶ、俺が、」
そうだね、執拗なくらいに主の事を観察してるからね君は。いっそ本人よりも長谷部君の方が、主のことに詳しいんじゃないかな。だからね、僕は別に君と張り合うつもりとかは毛頭ないんだけど。長谷部君と、幸せそうに眠る主を交互に眺めてから思わずぬるい笑みを浮かべてしまう。
本当にこれだから手を焼かされるんだ。
……君たちは本当に、これだから。
「だから厭らしい目で見るなと言って、……おい何故今俺から視線をそらした?何かやましいことでもあるのかああそうかそうなんだなそこに直れ圧し切ってやる、そのいけ好かない眼帯ごと」
やましい事があるのは君の方だろ。徹夜の度に寝落ちた主を部屋まで運んであげてるけど、「ああもうこの方は仕方のない」とか嘯くわりに言い訳できないくらい笑顔なの、やましくない訳ないだろうあれは?
「クソ、貴様に何がわかる、……、なんだって知ってる、俺がずっと見てきたし傍にいたのに」
相槌なんか一言だって入れてないのに、勝手に会話が成立してしまうから怖い。しかし、恰好つかないよねえ長谷部君。ずず、と鼻を啜る彼は主の前じゃ考えられない位の涙目で、それはそれで面白いと言えないこともないんだけど、それよりもやっぱりげんなりする。なのに無理やりにでも自分の部屋に戻らないのは、つまり。
「……俺が、ずっと、貴女のお傍に」
細く掠れて熱を孕んだ声でそう囁いて、彼の指先が、主の頬の輪郭をなぞる。まるで壊すのを恐れてるみたいに慎重に、神経質なくらいの手つきで。
……別に絆されたって訳でも、ないんだけどなあ。いや、絆されたんだろうか。ほんの少しだけ身をよじった主が、うっすらと唇に笑みを浮かべるのを見た。飛び切り幸せそうに笑みを浮かべて、ほとんど声にならないくらいの音でその名前を呼ぶのを、僕は知っている。はせべくん、と、とびっきり幸せそうな甘い声で。まあ、つまり、そういうわけなんだ。面倒くさいったらないよね。
この人たちの面倒くさい片思いに延々と付き合わされている僕ときたら大層不憫じゃないかと自分でも思うわけなんだけど長谷部君、君は知らないだろ。本当はね、主は君から聞かされたかったんだよ。『いいところ』だって『わるいところ』だって、ぜんぶぜんぶ君の口から。だけど絶対教えてやらない、この子の泣き言に付き合う時間だって、(本当に不本意だけど)彼の絡み酒に付き合う時間だって、僕はそれなりに気に入っているから。
そんな訳だからもうしばらく、彼らのまどろっこしい関係に付き合うのも悪くないと思ってるんだ。なんだかんだ言って僕も大概面倒くさいよね。自覚があるだけ長谷部君よりはましだろう。
密かに笑いをこぼしたところで、机に沈んでいた長谷部君の頭がゆるゆると持ち上がる。ごとん、とグラスを置く音と、呻くような声。
「……、ところ」
「うん?」
「書類の記入欄の埋め忘れが多い所」
「うん?ごめん、なんの話かな?」
「この方の駄目な所の話に決まってる」
「うん……、うん?」
「貴様が十ならこっちは三百は言える、いいか、速度を重視するあまりに書類の精度をないがしろにするところ、それから手書きの字が大層雑……いや個性的な所、書類を枕にして寝落ちされるところ、結論ばかり後回しにして延々と空回りするところ、酒に弱いくせにやたら飲みたがるところ、おまけに絡み酒だしすぐ拗ねる上に顔に出さないから傍から見ていると急に不機嫌になる」
「いや、」
「しかも寝汚いし朝だって中々起きない、起きたら起きたで寝惚けるからまともに会話できるようになるまで三十分はかかる、それに毎回その事を気に病まれるので面倒くさい」
「いや君、主の事嫌いなの!?」
「そんなわけあるか愛してるに決まっているだろう」
「……、」
「何だって知ってるし全部愛してるに決まってる、当たり前だろう?」とやけに真っ直ぐな瞳で放たれたその言葉には、曖昧な相づちを返しておいた。ああそうか、もう勘弁してくれ。げんなりしてる僕に構わず長谷部くんは延々と続ける。
「起き抜けに必ず二度寝しようとするところと、ああそれから朝餉を食べながら寝落ちるのも考えものだし、意外と好き嫌いも激しい、しかも無理に食べようとするからいけない、喉につまらせたらどうするんです?それからコーヒーは一日二杯までと言っているのに守らないのも頂けませんね、そんなだから寝付けなくて俺に泣きつく羽目になるんでしょう?」
……もはや僕に言ってるんだか、主に言い聞かせてるんだかも定かではない。黙りこくったところで効果はなく、「あの、長谷部くんそろそろ!」と無理やり口を挟もうとしても無視され、延々と主のだめなところ、もとい、好きなところを聞かされつづけるのはもう、不憫なんてもんじゃないだろう。だけど、完全に酒に飲まれている長谷部くんと完全に寝入っている主を放って寝ることもできないわけで。
……前言撤回、君たちはさっさとくっついてくれ。僕にだって一晩くらい、絡み酒につきあわされないで安らかに眠れる夜があっていい。