長谷部
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「長谷部くん私ちょっと万屋行くけど買ってくるものと、か、」
自分で開けた襖を自分でもっかい閉めた。無意識だったけど、ここ一番の手首のスナップ効き具合がすごくて、思いの外の勢いになってしまった。
すっぱーん!と、いい音がしてあまりの速度とその反動で、閉じた襖がちょっとだけ戻ってくる。開いた隙間から長谷部くんが顔をのぞかせるので「ひぇ、」と思わず間抜けな声をあげてしまった。「どうかなさいましたか」って長谷部くん、私はどうもこうもしないよむしろそっちが、そっちがどうしたの。
「は、長谷部くんどうしたのそれ」
「ああ、先週万屋で売っていたものですから」
見慣れない黒縁のメガネ。何に動揺しているんだか自分でもよくわからない。顔が、顔が、えっと、すごく、よくって、えっと。一旦状況を整理しようと考えて、そしたらびっくりするみたいに馬鹿みたいな思考しか浮かんでこなくて、諦めた。整理も何も、状況は驚くほど簡単だった。っていうか、単純にメガネをかけているだけなので。誰が?長谷部くんが。「め、目が、お悪くて、い、いらっした、わけです?」動揺のあまりに変な口調になってしまった。長谷部くんがこらえきれなくなったみたいに吹き出す。
「いえ、全く。伊達ですね」
「は、はあ、そう、そう、なんですねえ」
「そうですね。いかがです?」
「いかが、って、えっといかがでしょう」
「似合いますか」
「あっ、はい、いやちょっと待って一旦距離取ろう、一旦!」
顔が。
顔が、いい。
知ってたけど改めて顔がいい。私の彼氏は顔がいい。えげつないくらいに顔がいい。ようやく最近慣れてきたのに、ちゃちい黒縁メガネ一つでなんでこんなに格好いいんだってくらい顔がいい。
「はは、随分とつれない事を仰いますね。酷いな」私の懇願を軽く一蹴した長谷部くんにあっさりと捕まって、そのまま部屋に引っ張り込まれる。「なんでどうして、いや待って顔が近いなんで!?」あ、やばい変な汗かいてきた。さらに手を引っ張られてバランスを崩してしまう。倒れ込んだところを抱きとめてくれる長谷部くんの笑顔がやばい。面白くって仕方ないってくらいの、いやちょっと、そんな顔初めて見るんだけど。
「なぜ、と仰られても困ります」
「私も困るよ一旦離れてよもーちょっと待ってマジで一旦」
「何か問題がおありで?」
「あるじゃんだからなんで、それ、なんで」
「お好きでしょう?」
バレてる。なぜ。
「いや好きか嫌いかって言ったら、どっちかっていうとまあ好きっていうか、嫌いって言ったら嘘になるみたいなところはなくもないけど特別大好きってわけとかじゃ全然なくて!」
弁解するみたいにまくし立てたのはどう考えても却って逆効果だった。
笑みを深くした長谷部くんの瞳がにい、と歪む。してやったり、とでも言わんばかりに。「そのようですね?よかったです」プラスチック製の安っぽいレンズ、に、やたらと瞬きを繰り返す、自分の顔が写り込んでいる。その向こうの瞳を見るのがなんとも恥ずかしくてフレームのあたりに視線を彷徨わせて、明後日の方に目を泳がせようとしたら今度は頭を固定されてしまう。あかん!脳内でなぜか関西弁で叫んでしまった。鼓動の音がうるさい。ぶわわわ、と、音がするくらい急激に頭に血が上っていくのがわかった。「かわいらしい」とびきり柔らかい声が空気を揺らして、私と長谷部くんの間の10cmもないくらいの距離は一瞬でなきものにされてしまう。「しかし、俺の主はおかしな趣味をお持ちだ」とかなんとか甘ったるく笑って、それで視界に影がかかるので目を閉じたんだけど。
一瞬の間。
えっなに、どうしたの、と目を開けたのと同時くらいだった。
「初めて知りました。これは口付けに邪魔ですね」と、最後に聞いたのはその言葉で、長谷部くんがメガネを放り投げるのと同時くらいに唇が重なった。メガネが畳にぶつかってかちゃん、とちゃちい音を立てる。えげつない。なんてえげつない。なんで長谷部くんはそんなに、そんなに、なんていうか、えげつないの。好きだよ大好き、だけど、ちょっとこれはどうかと思う。
(※その後長谷部くんを問い詰めたら全く罪悪感のないケロリとした顔で「ええ、貴女が執務室の本棚の二段目の奥に隠していた少女漫画の男共が全員眼鏡だったものですから」とかいうもんだから、こいつ、勝手に読んだんだな許さん。とそう決意して五秒後にはもう揺らいでしまう。だって「貴女の望むことは、なんだって叶えて差し上げたいだけですよ」とか言われたらなんか嬉しい感じになっちゃって、あっいいから、長谷部くんもうそのメガネ早くしまって!かけなくていいから!)
自分で開けた襖を自分でもっかい閉めた。無意識だったけど、ここ一番の手首のスナップ効き具合がすごくて、思いの外の勢いになってしまった。
すっぱーん!と、いい音がしてあまりの速度とその反動で、閉じた襖がちょっとだけ戻ってくる。開いた隙間から長谷部くんが顔をのぞかせるので「ひぇ、」と思わず間抜けな声をあげてしまった。「どうかなさいましたか」って長谷部くん、私はどうもこうもしないよむしろそっちが、そっちがどうしたの。
「は、長谷部くんどうしたのそれ」
「ああ、先週万屋で売っていたものですから」
見慣れない黒縁のメガネ。何に動揺しているんだか自分でもよくわからない。顔が、顔が、えっと、すごく、よくって、えっと。一旦状況を整理しようと考えて、そしたらびっくりするみたいに馬鹿みたいな思考しか浮かんでこなくて、諦めた。整理も何も、状況は驚くほど簡単だった。っていうか、単純にメガネをかけているだけなので。誰が?長谷部くんが。「め、目が、お悪くて、い、いらっした、わけです?」動揺のあまりに変な口調になってしまった。長谷部くんがこらえきれなくなったみたいに吹き出す。
「いえ、全く。伊達ですね」
「は、はあ、そう、そう、なんですねえ」
「そうですね。いかがです?」
「いかが、って、えっといかがでしょう」
「似合いますか」
「あっ、はい、いやちょっと待って一旦距離取ろう、一旦!」
顔が。
顔が、いい。
知ってたけど改めて顔がいい。私の彼氏は顔がいい。えげつないくらいに顔がいい。ようやく最近慣れてきたのに、ちゃちい黒縁メガネ一つでなんでこんなに格好いいんだってくらい顔がいい。
「はは、随分とつれない事を仰いますね。酷いな」私の懇願を軽く一蹴した長谷部くんにあっさりと捕まって、そのまま部屋に引っ張り込まれる。「なんでどうして、いや待って顔が近いなんで!?」あ、やばい変な汗かいてきた。さらに手を引っ張られてバランスを崩してしまう。倒れ込んだところを抱きとめてくれる長谷部くんの笑顔がやばい。面白くって仕方ないってくらいの、いやちょっと、そんな顔初めて見るんだけど。
「なぜ、と仰られても困ります」
「私も困るよ一旦離れてよもーちょっと待ってマジで一旦」
「何か問題がおありで?」
「あるじゃんだからなんで、それ、なんで」
「お好きでしょう?」
バレてる。なぜ。
「いや好きか嫌いかって言ったら、どっちかっていうとまあ好きっていうか、嫌いって言ったら嘘になるみたいなところはなくもないけど特別大好きってわけとかじゃ全然なくて!」
弁解するみたいにまくし立てたのはどう考えても却って逆効果だった。
笑みを深くした長谷部くんの瞳がにい、と歪む。してやったり、とでも言わんばかりに。「そのようですね?よかったです」プラスチック製の安っぽいレンズ、に、やたらと瞬きを繰り返す、自分の顔が写り込んでいる。その向こうの瞳を見るのがなんとも恥ずかしくてフレームのあたりに視線を彷徨わせて、明後日の方に目を泳がせようとしたら今度は頭を固定されてしまう。あかん!脳内でなぜか関西弁で叫んでしまった。鼓動の音がうるさい。ぶわわわ、と、音がするくらい急激に頭に血が上っていくのがわかった。「かわいらしい」とびきり柔らかい声が空気を揺らして、私と長谷部くんの間の10cmもないくらいの距離は一瞬でなきものにされてしまう。「しかし、俺の主はおかしな趣味をお持ちだ」とかなんとか甘ったるく笑って、それで視界に影がかかるので目を閉じたんだけど。
一瞬の間。
えっなに、どうしたの、と目を開けたのと同時くらいだった。
「初めて知りました。これは口付けに邪魔ですね」と、最後に聞いたのはその言葉で、長谷部くんがメガネを放り投げるのと同時くらいに唇が重なった。メガネが畳にぶつかってかちゃん、とちゃちい音を立てる。えげつない。なんてえげつない。なんで長谷部くんはそんなに、そんなに、なんていうか、えげつないの。好きだよ大好き、だけど、ちょっとこれはどうかと思う。
(※その後長谷部くんを問い詰めたら全く罪悪感のないケロリとした顔で「ええ、貴女が執務室の本棚の二段目の奥に隠していた少女漫画の男共が全員眼鏡だったものですから」とかいうもんだから、こいつ、勝手に読んだんだな許さん。とそう決意して五秒後にはもう揺らいでしまう。だって「貴女の望むことは、なんだって叶えて差し上げたいだけですよ」とか言われたらなんか嬉しい感じになっちゃって、あっいいから、長谷部くんもうそのメガネ早くしまって!かけなくていいから!)