長谷部
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………今何時だ?
妙にすっと目が冷めた。明るい。脳裏で、遅刻、完璧に遅刻、なんて言い訳しよう、とりあえず電車遅延とか言ってみるか、と連想ゲームみたいに勝手に言葉が繋がっていく。体を起こしてそばの携帯(まあ長谷部くんのだったけどいいや)を確認する。7時15分。急げばぎり。
「長谷部くん起きて!遅刻!」思わず隣の彼を揺さぶれば、「……んん」と死にそうな声をあげる。「……嫌だ」と掠れた声とともに手が伸びてきて腰に絡まるので、一瞬絆されそうになったけど振り切って布団を引っ剥がす。ほとんど転がり落ちるようにベッドから抜け出してから今更思い出したんだけど、別に長谷部くんは八時に出なくて大丈夫なんだった。まあいいや。
慌てて着替えて化粧して適当に携帯をひっつかんでカバンに放り投げる。今何時、ほとんど叫ぶみたいに聞けば、律儀に一緒に起き出して、支度してる長谷部くんが落ち着き払った声で答える。「七時五十分です」オッケー間に合いそう。とりあえず長谷部くんの入れてくれたコーヒーを飲みながら寝癖を直そうと試みる。無理だすごいうねってる。視界の端で長谷部くんがネクタイを結んでいる。背筋の伸びた背中。ひぇ、格好いい。好きだ。いや見惚れてる場合じゃない。ちらりと時計に目を向けた。五十三分。
慌てながら「変じゃないかなこれ?変じゃないよねギリおっけーだよね?」と悲鳴みたいな声を上げた。髪の毛が言い訳しようのないくらいに爆発しているので無理やりハーフアップとかにして、しかもコーディネートがどうのこうのとか考えてる暇がない。トレンチコートを羽織って、ソファのところに放り投げていたストールを引っ掴んだ。超適当な格好で振り向いて長谷部くんに向き直れば、柔らかな笑い声。
「かわいいですよ、大丈夫」
「ほんとに?いや嘘でももう時間やばいよね、やばい」
「本当です」
「えー嘘じゃんほんと、に、」
……あれ、距離が近い。
手にしていたストールが柔らかく奪われる。目を見開いた先で長谷部くんがそれを、私の首に巻き付けてくれる。丁寧に丁寧に巻き付けて結んで、その瞬間ふわりとお揃いのシャンプーが香る。よれていたコートの、襟元を直してくれる指先。長谷部くんの瞳がとろりと笑った。「あなたはいつだって、一等可愛いです」甘ったるい声が体に染み込んで脳みそを揺さぶる。「えっ……あっ……うんありがとう」
あれ、何これ恥ずかしい。焦っていた脳みそが唐突に冷静になってそしたら今度は、ゆっくりゆっくり顔が熱くなってきた。抱きしめられるので反射で抱きしめ返せば、「すきです」、なんて言われてその言葉に何も返せない。なので無言で背中に回してる手に力を込める。ワイシャツの胸ポケットのあたりに額を擦り付ければ、かすかに笑う呼吸の音。それでまた顔が熱くなる。恥ずかしい。恥ずかしいんだけど、それはそれとして脳内でもう一人の自分がぎゃあぎゃあ騒いでいる。えー、好きだ何これ、もうまじ無理、めっちゃ好き。とかなんとか。そしたら長谷部くんがすこしだけ腕に力を込めて
「ああ、もう……離したく、なくなるじゃないですか」
とかいうからあーーもう、好きだ私も離したくない、ほんとに好きだどうしよう。
顔はあげられないまま、まばたきを繰り返した。後頭部あたりの髪の毛を撫でて、つむじに口づけを落とす音。キザだなあ、思うのに嬉しくなっちゃうのだからこっちも大概ちょろいのだ。好きだよ、と言ったのはほぼ伝わらないくらいの声なのに、「俺もです」なんてきちんと返事をくれるので嬉しくて仕方なくて、だからつまり私はちょろい。そこからどのくらいたったんだろう、そんなちょろい私に、長谷部くんが柔らかい声で告げる。何でもないことみたいに。「ところで」、うん?なに?とかどろどろの声を返したら一言、
「もう五十八分ですね、出なくて大丈夫ですか?」
……だいじょばねえよ!
いちゃついてる場合なんかじゃ全然ない。すごい勢いであわてて体を離して、口からは思わず「やっべぇ」とかIQの低そうな発言が飛び出た。ゴミ箱を蹴倒しつつ玄関に向かう私を長谷部くんの笑い声が追いかける。「今日定時で帰るからご飯作っとくねじゃあね!、」靴を履きつつ言い放ったところで名前を呼ばれたので振り返った、ら。
ぐい、と引き寄せられてすぐ、唇に柔らかい感触。「お忘れ物です」、その言葉に、キスされたんだと気づいたのは五秒後の事だった。ぶわっ、とさっきよりも良い勢いで頭に血が上ってきて、朝っぱらから何をしてるんだろう私は?「だから時間がやばいんだって長谷部くん!」とか何とか、逃げるようにドアを開けたところでとびっきりに甘い声。「はい。俺も愛してますよ。行ってらっしゃい」
……ひえ、好きだ。めちゃくちゃ好きだけど何でこんな時に言うかなあそれ。なんでって、長谷部くんは八時半に出ればいいんだもんな余裕なんだな。畜生私ももっかい、好きって言えばよかった。いや好きどころか。好きどころか、愛してるって私も言えば。そしたら長谷部くんはどんなふうに笑ってくれたんだろう?
目の前にちらつくのは、さっき別れたばっかりの彼の笑った顔。今日の夕飯長谷部くんの好きなやつにしてあげようかなぁとか、こんな時なのにそんな事ばかり考えてしまって、だからつまり私は大概ちょろいのだ。にやけた頬を隠しもしないで時計に目をやる。時刻は八時三分。……げっ、あと五分で電車が行ってしまう。
(※そっから全力で走ったらギリギリでいつもの電車に間に合った)
妙にすっと目が冷めた。明るい。脳裏で、遅刻、完璧に遅刻、なんて言い訳しよう、とりあえず電車遅延とか言ってみるか、と連想ゲームみたいに勝手に言葉が繋がっていく。体を起こしてそばの携帯(まあ長谷部くんのだったけどいいや)を確認する。7時15分。急げばぎり。
「長谷部くん起きて!遅刻!」思わず隣の彼を揺さぶれば、「……んん」と死にそうな声をあげる。「……嫌だ」と掠れた声とともに手が伸びてきて腰に絡まるので、一瞬絆されそうになったけど振り切って布団を引っ剥がす。ほとんど転がり落ちるようにベッドから抜け出してから今更思い出したんだけど、別に長谷部くんは八時に出なくて大丈夫なんだった。まあいいや。
慌てて着替えて化粧して適当に携帯をひっつかんでカバンに放り投げる。今何時、ほとんど叫ぶみたいに聞けば、律儀に一緒に起き出して、支度してる長谷部くんが落ち着き払った声で答える。「七時五十分です」オッケー間に合いそう。とりあえず長谷部くんの入れてくれたコーヒーを飲みながら寝癖を直そうと試みる。無理だすごいうねってる。視界の端で長谷部くんがネクタイを結んでいる。背筋の伸びた背中。ひぇ、格好いい。好きだ。いや見惚れてる場合じゃない。ちらりと時計に目を向けた。五十三分。
慌てながら「変じゃないかなこれ?変じゃないよねギリおっけーだよね?」と悲鳴みたいな声を上げた。髪の毛が言い訳しようのないくらいに爆発しているので無理やりハーフアップとかにして、しかもコーディネートがどうのこうのとか考えてる暇がない。トレンチコートを羽織って、ソファのところに放り投げていたストールを引っ掴んだ。超適当な格好で振り向いて長谷部くんに向き直れば、柔らかな笑い声。
「かわいいですよ、大丈夫」
「ほんとに?いや嘘でももう時間やばいよね、やばい」
「本当です」
「えー嘘じゃんほんと、に、」
……あれ、距離が近い。
手にしていたストールが柔らかく奪われる。目を見開いた先で長谷部くんがそれを、私の首に巻き付けてくれる。丁寧に丁寧に巻き付けて結んで、その瞬間ふわりとお揃いのシャンプーが香る。よれていたコートの、襟元を直してくれる指先。長谷部くんの瞳がとろりと笑った。「あなたはいつだって、一等可愛いです」甘ったるい声が体に染み込んで脳みそを揺さぶる。「えっ……あっ……うんありがとう」
あれ、何これ恥ずかしい。焦っていた脳みそが唐突に冷静になってそしたら今度は、ゆっくりゆっくり顔が熱くなってきた。抱きしめられるので反射で抱きしめ返せば、「すきです」、なんて言われてその言葉に何も返せない。なので無言で背中に回してる手に力を込める。ワイシャツの胸ポケットのあたりに額を擦り付ければ、かすかに笑う呼吸の音。それでまた顔が熱くなる。恥ずかしい。恥ずかしいんだけど、それはそれとして脳内でもう一人の自分がぎゃあぎゃあ騒いでいる。えー、好きだ何これ、もうまじ無理、めっちゃ好き。とかなんとか。そしたら長谷部くんがすこしだけ腕に力を込めて
「ああ、もう……離したく、なくなるじゃないですか」
とかいうからあーーもう、好きだ私も離したくない、ほんとに好きだどうしよう。
顔はあげられないまま、まばたきを繰り返した。後頭部あたりの髪の毛を撫でて、つむじに口づけを落とす音。キザだなあ、思うのに嬉しくなっちゃうのだからこっちも大概ちょろいのだ。好きだよ、と言ったのはほぼ伝わらないくらいの声なのに、「俺もです」なんてきちんと返事をくれるので嬉しくて仕方なくて、だからつまり私はちょろい。そこからどのくらいたったんだろう、そんなちょろい私に、長谷部くんが柔らかい声で告げる。何でもないことみたいに。「ところで」、うん?なに?とかどろどろの声を返したら一言、
「もう五十八分ですね、出なくて大丈夫ですか?」
……だいじょばねえよ!
いちゃついてる場合なんかじゃ全然ない。すごい勢いであわてて体を離して、口からは思わず「やっべぇ」とかIQの低そうな発言が飛び出た。ゴミ箱を蹴倒しつつ玄関に向かう私を長谷部くんの笑い声が追いかける。「今日定時で帰るからご飯作っとくねじゃあね!、」靴を履きつつ言い放ったところで名前を呼ばれたので振り返った、ら。
ぐい、と引き寄せられてすぐ、唇に柔らかい感触。「お忘れ物です」、その言葉に、キスされたんだと気づいたのは五秒後の事だった。ぶわっ、とさっきよりも良い勢いで頭に血が上ってきて、朝っぱらから何をしてるんだろう私は?「だから時間がやばいんだって長谷部くん!」とか何とか、逃げるようにドアを開けたところでとびっきりに甘い声。「はい。俺も愛してますよ。行ってらっしゃい」
……ひえ、好きだ。めちゃくちゃ好きだけど何でこんな時に言うかなあそれ。なんでって、長谷部くんは八時半に出ればいいんだもんな余裕なんだな。畜生私ももっかい、好きって言えばよかった。いや好きどころか。好きどころか、愛してるって私も言えば。そしたら長谷部くんはどんなふうに笑ってくれたんだろう?
目の前にちらつくのは、さっき別れたばっかりの彼の笑った顔。今日の夕飯長谷部くんの好きなやつにしてあげようかなぁとか、こんな時なのにそんな事ばかり考えてしまって、だからつまり私は大概ちょろいのだ。にやけた頬を隠しもしないで時計に目をやる。時刻は八時三分。……げっ、あと五分で電車が行ってしまう。
(※そっから全力で走ったらギリギリでいつもの電車に間に合った)