長谷部
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※風邪ひいて長谷部に看病してもらう話
毎年恒例の酷い風邪をひいた。
それで、「何か、食べたいものはありますか?」という問いに、
「……オムライス。てっぺんに旗とかのっててケチャップでハート書いてあるやつ」とか、多分答えたんだと思う。長谷部くんはただ笑って、「畏まりました」と言うだけだった。それで今、注文通りにオムライス、しかも律儀に旗がのっててケチャップでハートがついてるオムライスが目の前にある。
妙なことを言ってしまった。確かにオムライスは食べたい。食べたいけど絶対完食できないし、しかしなんで言っちゃったんだろうね「オムライス食べたい」なんて。それは疑問なんだけど、熱くて寒くて関節が痛くて頭痛がして体がだるくて、そんな状態じゃどんな思考だって五秒と続かない。
「本当に作ってくれたんだねえ」思ったままを口にすれば、「何を当たり前のことを」と長谷部くんが笑ってスプーンを差し出してくる。受け取ってほんの一口。美味しい、気が、するけど味がわからない。なんとか飲み込んだら喉元につっかえて、差し出されるがままにお茶を受け取ってなんとかのみくだす。
「…ごめんやっぱ食べれないかも」謝ったら軽く笑う声。「そう仰ると思ってうどんをお持ちしました。食べられるだけで結構ですよ」なんて、本格的に甘やかされている。れんげに少しだけ掬ったうどんを今度は口元まで運ばれて、「どうぞ」とか言われるまんまにとりあえず飲み込んだ。柔らかい。
「おいしい」
「そうですか、よかった」
「長谷部くんが作ってくれたの?」
「ええ、先日貴女が『長谷部くんの作ったおうどんが食べたい』とおっしゃっていたので」
「……そんなこと言ったっけ…?」
「言っていましたよ、ちょうど昨年の今日あたり。ああ、あの時も主は風邪を引いていましたね」
「それは先日って言わない」
雛鳥になったみたいな、いや、むしろ子供の頃に戻ったみたいな。同じか。ちょうどいい温度に冷まされたうどんを飲み込むたびに、体がほんのりと温まる。半分くらいうどんを食べたところで薬を飲んで、なんとなく体を起こしたまま。そしたら、額に張り付いた前髪を長谷部くんが丁寧にかき分けてくれる。藤色の瞳がとろりとした光を宿して微笑むので、なんとなく安心してそれだけで力が抜ける。
目をつむったら、長谷部くんがおでこに何かを貼り付けてくる。ひやりとつめたくて心地いい。目を開ける。ほとんどくっついてしまいそうなくらい近くで、色素の薄い前髪が揺れる。きれいだなあ、口をついて出そうになった言葉を何故か飲み込んだ。きれい、ぼんやりとその瞳の色に見とれて、そんな事も見抜かれてるのかもしれない。密やかな笑いの音が、空気を揺らす。
「なんか長谷部くん機嫌いいね」
「ええ。こういう時は、一等貴女を甘やかすことに決めているので」
歌うみたいな声。もういちど目を閉じたらまぶたに口付けられる感触。やんわりと背中に回って来た手に体を傾けて、そのまんまお布団に沈み込んだ。斜め四十五度右上から長谷部くんが私を見下ろしている、ので、手を握って少しだけ力を込めてみる。手袋と、その下の長谷部くんの体温と。
「少しお休みになりますか?」
「……うん、あのさー、……はせべくんさあ」
「なんです?」
「長谷部くんはどっか行っちゃうの」
「行きませんよ、少なくとも主が眠るまでは」
「……えーそれ、寝たらどっか行っちゃうじゃんいやだ」
思考回路が麻痺している。
まるで駄々っ子みたいなことを口走って、それに脳内で言い訳した。「こういう時は、一等貴女を甘やかすことに決めているので」というあの言葉に当てられたんだ。だってしょうがないじゃん、こんだけ風邪ひいてて頭痛くてしんどくて、だから寂しくって死にそうになってもしょうがない。
後ろめたさが襲ってくるのも一瞬でどうでもよくなるからいよいよ本当に具合が悪いみたいだ。「…いやだ」さらに力を込めたらぎゅう、と握り返してもらえるのが嬉しくて、もう一緒に寝てくんないかな、とかって布団に引っ張りこもうかなと思ったけど流石にそれは我慢した。
笑い声が鼓膜を揺らす。見上げた先で長谷部くんが柔らかく笑っている。聖母様みたいなそんな顔で、「大丈夫ですよ。ずっとここにいます。俺はどこにも行きませんから」なんて言うから、その声がとろとろに柔らかくて底なしに甘くて、しんどいのに怖いくらいの幸福感で胸が苦しい。キスしたいなあ、なんて思うけど移したら怖いので代わりに、両手で長谷部くんの手を包んで、そのまま寝てしまうことにする。
すきです、と声も出さずに長谷部くんの唇が動く。蜂蜜みたいな甘ったるい視線。自分の輪郭すらとろとろに溶かされていくみたいな。好きだよ。熱に浮かされた自分の声もとろとろで。そうしてまどろみながら遠くの方で、長谷部くんが私のことを呼ぶのを聞いた。「おやすみなさい、おれのあるじ」
毎年恒例の酷い風邪をひいた。
それで、「何か、食べたいものはありますか?」という問いに、
「……オムライス。てっぺんに旗とかのっててケチャップでハート書いてあるやつ」とか、多分答えたんだと思う。長谷部くんはただ笑って、「畏まりました」と言うだけだった。それで今、注文通りにオムライス、しかも律儀に旗がのっててケチャップでハートがついてるオムライスが目の前にある。
妙なことを言ってしまった。確かにオムライスは食べたい。食べたいけど絶対完食できないし、しかしなんで言っちゃったんだろうね「オムライス食べたい」なんて。それは疑問なんだけど、熱くて寒くて関節が痛くて頭痛がして体がだるくて、そんな状態じゃどんな思考だって五秒と続かない。
「本当に作ってくれたんだねえ」思ったままを口にすれば、「何を当たり前のことを」と長谷部くんが笑ってスプーンを差し出してくる。受け取ってほんの一口。美味しい、気が、するけど味がわからない。なんとか飲み込んだら喉元につっかえて、差し出されるがままにお茶を受け取ってなんとかのみくだす。
「…ごめんやっぱ食べれないかも」謝ったら軽く笑う声。「そう仰ると思ってうどんをお持ちしました。食べられるだけで結構ですよ」なんて、本格的に甘やかされている。れんげに少しだけ掬ったうどんを今度は口元まで運ばれて、「どうぞ」とか言われるまんまにとりあえず飲み込んだ。柔らかい。
「おいしい」
「そうですか、よかった」
「長谷部くんが作ってくれたの?」
「ええ、先日貴女が『長谷部くんの作ったおうどんが食べたい』とおっしゃっていたので」
「……そんなこと言ったっけ…?」
「言っていましたよ、ちょうど昨年の今日あたり。ああ、あの時も主は風邪を引いていましたね」
「それは先日って言わない」
雛鳥になったみたいな、いや、むしろ子供の頃に戻ったみたいな。同じか。ちょうどいい温度に冷まされたうどんを飲み込むたびに、体がほんのりと温まる。半分くらいうどんを食べたところで薬を飲んで、なんとなく体を起こしたまま。そしたら、額に張り付いた前髪を長谷部くんが丁寧にかき分けてくれる。藤色の瞳がとろりとした光を宿して微笑むので、なんとなく安心してそれだけで力が抜ける。
目をつむったら、長谷部くんがおでこに何かを貼り付けてくる。ひやりとつめたくて心地いい。目を開ける。ほとんどくっついてしまいそうなくらい近くで、色素の薄い前髪が揺れる。きれいだなあ、口をついて出そうになった言葉を何故か飲み込んだ。きれい、ぼんやりとその瞳の色に見とれて、そんな事も見抜かれてるのかもしれない。密やかな笑いの音が、空気を揺らす。
「なんか長谷部くん機嫌いいね」
「ええ。こういう時は、一等貴女を甘やかすことに決めているので」
歌うみたいな声。もういちど目を閉じたらまぶたに口付けられる感触。やんわりと背中に回って来た手に体を傾けて、そのまんまお布団に沈み込んだ。斜め四十五度右上から長谷部くんが私を見下ろしている、ので、手を握って少しだけ力を込めてみる。手袋と、その下の長谷部くんの体温と。
「少しお休みになりますか?」
「……うん、あのさー、……はせべくんさあ」
「なんです?」
「長谷部くんはどっか行っちゃうの」
「行きませんよ、少なくとも主が眠るまでは」
「……えーそれ、寝たらどっか行っちゃうじゃんいやだ」
思考回路が麻痺している。
まるで駄々っ子みたいなことを口走って、それに脳内で言い訳した。「こういう時は、一等貴女を甘やかすことに決めているので」というあの言葉に当てられたんだ。だってしょうがないじゃん、こんだけ風邪ひいてて頭痛くてしんどくて、だから寂しくって死にそうになってもしょうがない。
後ろめたさが襲ってくるのも一瞬でどうでもよくなるからいよいよ本当に具合が悪いみたいだ。「…いやだ」さらに力を込めたらぎゅう、と握り返してもらえるのが嬉しくて、もう一緒に寝てくんないかな、とかって布団に引っ張りこもうかなと思ったけど流石にそれは我慢した。
笑い声が鼓膜を揺らす。見上げた先で長谷部くんが柔らかく笑っている。聖母様みたいなそんな顔で、「大丈夫ですよ。ずっとここにいます。俺はどこにも行きませんから」なんて言うから、その声がとろとろに柔らかくて底なしに甘くて、しんどいのに怖いくらいの幸福感で胸が苦しい。キスしたいなあ、なんて思うけど移したら怖いので代わりに、両手で長谷部くんの手を包んで、そのまま寝てしまうことにする。
すきです、と声も出さずに長谷部くんの唇が動く。蜂蜜みたいな甘ったるい視線。自分の輪郭すらとろとろに溶かされていくみたいな。好きだよ。熱に浮かされた自分の声もとろとろで。そうしてまどろみながら遠くの方で、長谷部くんが私のことを呼ぶのを聞いた。「おやすみなさい、おれのあるじ」