長谷部
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「主。一旦、一旦話を整理してもよろしいですか?」
「いや整理っつか単純に、だから、私そろそろ会社行かないと間に合わないんだけど」
「カイシャ……?」
「なんでちょっとカタコトになるの長谷部くん?」
「カイシャ……とは……?」
「いやカイシャって会社だよ。さっき電話したら這ってでも来いって上司が」
「ジョウシ……?城址、が、喋るのですか?」
「上司ね。城址じゃなくて」
「……?、すみませんちょっとよく分からないですね」
「いやあの、私が変なこと言ってるみたいな雰囲気にしてくるのやめよう?」
「……いけない大分お疲れのようだ。大丈夫です、俺がついてます寝ましょう」
「いや、いやいやいやだからこっちがおかしいみたいな雰囲気にしてくるのずるくない?仕事なんだって」
「……?シ、シゴ、ト……?」
「いや流石に仕事はわかるでしょ無理あるよ!」
「あー……、つまり要約すると」
「ええー……まだやるのこの小芝居……」
「俺の理解力が足りず申し訳ありません。つまり、その、ジョウシ?とやらがよりにもよって貴女に、這ってでも来いと命じたわけですか?」
「うん、いや、まあ、うん、違うけど大体あってる、うん」
「その、ジョウシとはつまり、人間ということですよね?」
「そりゃね」
「ただの人間がよりによって貴女に、俺の主に無礼な口を聞いたと言う事ですか?ただの人間の分際で?」
この上なく態とらしく、でも完璧に困惑したような表情を作って長谷部くんが、私を見下ろす。「いやでも、行かなきゃ流石に、奴に殺されちゃう」私もあんまり言っていいことと悪いことの区別が付いてないって言うか、頭が回っていないことは確かだった。
お腹痛い。頭も痛い。クラクラする。だるい。お腹痛い。死ぬかもしんない。体調不良系のワードが浮かんでは消え浮かんでは消え、実は立ってるのも結構しんどい。
カバンの肩ひもをぎゅう、と掴んだら長谷部くんの眉間にこれでもかってほどの皺がよる。「つまり、殺られるまえに殺るのが戦略の基本だというお話ですね?賢明です」違うよ長谷部くん、言いながら結構血の気が引いてきて、一瞬だけ気が遠くなる。カバンの重みでバランスを崩して、あっやばい倒れる、と思ったのに気が付いたら抱きとめられていた。背中に回った手が後頭部の髪の毛をやんわりと撫でてくるので、ぐらぐらと理性が揺らぐ。抱きつきたい。ここで抱きついたら、長谷部くんはとびきり甘やかしてくれるって知ってる。頭を撫でてくれてぎゅうぎゅうに抱きしめてくれて、なにそれめっちゃいいな。抱きつきたい。抱きつきたい、のは、確か、なんだけどだから仕事だ、ぐずぐずしているわけにも行かない。うう、しかし頭が痛い。動きたくない。
そうやってギリギリのところで葛藤してる私のことなんか、長谷部くんのことだからお見通しに決まってるのだ。会社行く、と、それでも頑張って言った言葉は「そうですね」と全く聞く気のない相槌でさらりと流された。
「さて、もう少しお眠りになりますね?それとも温かい飲み物でも召し上がりますか?」
「長谷部くん話聞いてた?」
「勿論です。あとで貴女の上司とやらのご住所とお名前を教えていただけるんでしたよね?」
「いや教えない、教えないよ長谷部くんちょっと何する気なの」
「はは、ただほんの一言ご挨拶をしたいだけですよ。俺の主が、随分とお世話になっている様なので。当たり前でしょう?」
絶対嘘じゃん殺す気だ!
本気の目に怯んで一瞬反応が遅れた隙に、肩にかけたカバンが奪い取られる。
「少々失礼しますね」、その言葉に返事をする間も無く視界が傾いて体が浮かんで、ていうかこれお姫様抱っこじゃん漫画で見たやつ!!!と、一瞬だけ急上昇したテンションはやはり一瞬のうちに急降下する。お腹痛い。吐きそう。眠い。
抵抗する気力もないので素直に寄りかかれば、頭上から笑い声が降ってくる。見上げたら前髪が甘く香る。睫毛が頬に影を落としていて綺麗だった。綺麗だし、かっこいい、し、優しいし何でこんなに私に甘いのかな長谷部くんは。駄目だ好きだ、めっちゃ好きだどうしよう。気持ち悪い頭痛いお腹痛い死ぬかも、の、間に割り込んできたその感情で少しだけ気力が回復した。何ていうか、長谷部くんに甘えることができる程度には。それは回復っていうのかわかんないけど。
だから長谷部くんの、首に手を回して思い切り頭をこすりつけて息を吸う。長谷部くんの匂い。「大丈夫ですか」と聞かれるので「だいじょばない」と素直に言えば、おでこにキスが降ってくる。それでほんの少しだけまた、辛いのがましになる気がした。
「……長谷部くん」
「なんです?」
「お腹痛い」
「お可哀想に。俺がずっとそばにいて差し上げますから」
「ん、頭も痛いしんどい」
「薬研が、部屋に鎮痛剤を持ってくるはずです。それまで我慢できそうですか?」
「………うん」
「はい、いい子ですね」なんて言葉とともにお布団に降ろされる。すっぽり毛布を被せられて、それから長谷部くんが本当にぎゅうぎゅうに抱きしめてくれたりするから、いよいよそのまま寝てしまいたくなる。うう、とかああ、とか呻きながら抱きつけば大きな手が背中をさすってくれる。会社から鬼電くるかな。思ったけど携帯電話は、部屋の隅のカバンの中にしまいこまれていて手が届かない。「目を閉じて」と促されるままに目を閉じて、力を抜けば長谷部くんの体温が優しい。もういいや知らない。だって頭痛くてお腹痛くて長谷部くんがこんなに優しくて、だからもう他のことはどうでもいいじゃん。そう思ったら眠気に押し流されてしまう。そういえば、会社に、連絡って、したんだっけ?
それから三時間後。漸く携帯を確認したら、職場から臨時休業のメールが全社宛に飛んでいて、タイミング的に絶対長谷部くんと関係ある気がするので私はいま冷や汗をかいています。
「ねえ長谷部くん何したの?焼き討ち?」口走った言葉には穏やかな笑みが返ってくるばかりで、「はい、俺も愛しておりますよ」とか言って脈絡もなくおでこにキスしてくれるのはもう、怖いとしか言えない。なのに「貴女の為なら何だってします、当然でしょう?」なんて言ってくれるその声が甘ったるくて柔らかくて、それだけで何も言えなくなるあたり私はもうだめなのかもしれなかった。あいしてます、と、笑みの形に歪んだ唇がそう言って笑うのにつられて笑ってしまう。とろとろとまたまどろんでいく視界の向こうで、長谷部くんのとびきり柔らかな声を聞く。「おやすみなさい、俺の可愛い人」
※会社は本当に焼き討ちされてたし上司はあれ以降妙に私に優しいので、一体何があったのか怖くて聞けない。あとあの日、お昼くらいに一瞬目を覚ましたときに「困るよ長谷部、僕の専門は加持祈祷で呪いとか呪詛とかは専門外なんだ。今回だけだよ?」とかふすまの向こうで石切丸さんと長谷部くんが会話してたの、今更だけどじわじわ怖い。いやほんと、何してくれたの長谷部くん?
「いや整理っつか単純に、だから、私そろそろ会社行かないと間に合わないんだけど」
「カイシャ……?」
「なんでちょっとカタコトになるの長谷部くん?」
「カイシャ……とは……?」
「いやカイシャって会社だよ。さっき電話したら這ってでも来いって上司が」
「ジョウシ……?城址、が、喋るのですか?」
「上司ね。城址じゃなくて」
「……?、すみませんちょっとよく分からないですね」
「いやあの、私が変なこと言ってるみたいな雰囲気にしてくるのやめよう?」
「……いけない大分お疲れのようだ。大丈夫です、俺がついてます寝ましょう」
「いや、いやいやいやだからこっちがおかしいみたいな雰囲気にしてくるのずるくない?仕事なんだって」
「……?シ、シゴ、ト……?」
「いや流石に仕事はわかるでしょ無理あるよ!」
「あー……、つまり要約すると」
「ええー……まだやるのこの小芝居……」
「俺の理解力が足りず申し訳ありません。つまり、その、ジョウシ?とやらがよりにもよって貴女に、這ってでも来いと命じたわけですか?」
「うん、いや、まあ、うん、違うけど大体あってる、うん」
「その、ジョウシとはつまり、人間ということですよね?」
「そりゃね」
「ただの人間がよりによって貴女に、俺の主に無礼な口を聞いたと言う事ですか?ただの人間の分際で?」
この上なく態とらしく、でも完璧に困惑したような表情を作って長谷部くんが、私を見下ろす。「いやでも、行かなきゃ流石に、奴に殺されちゃう」私もあんまり言っていいことと悪いことの区別が付いてないって言うか、頭が回っていないことは確かだった。
お腹痛い。頭も痛い。クラクラする。だるい。お腹痛い。死ぬかもしんない。体調不良系のワードが浮かんでは消え浮かんでは消え、実は立ってるのも結構しんどい。
カバンの肩ひもをぎゅう、と掴んだら長谷部くんの眉間にこれでもかってほどの皺がよる。「つまり、殺られるまえに殺るのが戦略の基本だというお話ですね?賢明です」違うよ長谷部くん、言いながら結構血の気が引いてきて、一瞬だけ気が遠くなる。カバンの重みでバランスを崩して、あっやばい倒れる、と思ったのに気が付いたら抱きとめられていた。背中に回った手が後頭部の髪の毛をやんわりと撫でてくるので、ぐらぐらと理性が揺らぐ。抱きつきたい。ここで抱きついたら、長谷部くんはとびきり甘やかしてくれるって知ってる。頭を撫でてくれてぎゅうぎゅうに抱きしめてくれて、なにそれめっちゃいいな。抱きつきたい。抱きつきたい、のは、確か、なんだけどだから仕事だ、ぐずぐずしているわけにも行かない。うう、しかし頭が痛い。動きたくない。
そうやってギリギリのところで葛藤してる私のことなんか、長谷部くんのことだからお見通しに決まってるのだ。会社行く、と、それでも頑張って言った言葉は「そうですね」と全く聞く気のない相槌でさらりと流された。
「さて、もう少しお眠りになりますね?それとも温かい飲み物でも召し上がりますか?」
「長谷部くん話聞いてた?」
「勿論です。あとで貴女の上司とやらのご住所とお名前を教えていただけるんでしたよね?」
「いや教えない、教えないよ長谷部くんちょっと何する気なの」
「はは、ただほんの一言ご挨拶をしたいだけですよ。俺の主が、随分とお世話になっている様なので。当たり前でしょう?」
絶対嘘じゃん殺す気だ!
本気の目に怯んで一瞬反応が遅れた隙に、肩にかけたカバンが奪い取られる。
「少々失礼しますね」、その言葉に返事をする間も無く視界が傾いて体が浮かんで、ていうかこれお姫様抱っこじゃん漫画で見たやつ!!!と、一瞬だけ急上昇したテンションはやはり一瞬のうちに急降下する。お腹痛い。吐きそう。眠い。
抵抗する気力もないので素直に寄りかかれば、頭上から笑い声が降ってくる。見上げたら前髪が甘く香る。睫毛が頬に影を落としていて綺麗だった。綺麗だし、かっこいい、し、優しいし何でこんなに私に甘いのかな長谷部くんは。駄目だ好きだ、めっちゃ好きだどうしよう。気持ち悪い頭痛いお腹痛い死ぬかも、の、間に割り込んできたその感情で少しだけ気力が回復した。何ていうか、長谷部くんに甘えることができる程度には。それは回復っていうのかわかんないけど。
だから長谷部くんの、首に手を回して思い切り頭をこすりつけて息を吸う。長谷部くんの匂い。「大丈夫ですか」と聞かれるので「だいじょばない」と素直に言えば、おでこにキスが降ってくる。それでほんの少しだけまた、辛いのがましになる気がした。
「……長谷部くん」
「なんです?」
「お腹痛い」
「お可哀想に。俺がずっとそばにいて差し上げますから」
「ん、頭も痛いしんどい」
「薬研が、部屋に鎮痛剤を持ってくるはずです。それまで我慢できそうですか?」
「………うん」
「はい、いい子ですね」なんて言葉とともにお布団に降ろされる。すっぽり毛布を被せられて、それから長谷部くんが本当にぎゅうぎゅうに抱きしめてくれたりするから、いよいよそのまま寝てしまいたくなる。うう、とかああ、とか呻きながら抱きつけば大きな手が背中をさすってくれる。会社から鬼電くるかな。思ったけど携帯電話は、部屋の隅のカバンの中にしまいこまれていて手が届かない。「目を閉じて」と促されるままに目を閉じて、力を抜けば長谷部くんの体温が優しい。もういいや知らない。だって頭痛くてお腹痛くて長谷部くんがこんなに優しくて、だからもう他のことはどうでもいいじゃん。そう思ったら眠気に押し流されてしまう。そういえば、会社に、連絡って、したんだっけ?
それから三時間後。漸く携帯を確認したら、職場から臨時休業のメールが全社宛に飛んでいて、タイミング的に絶対長谷部くんと関係ある気がするので私はいま冷や汗をかいています。
「ねえ長谷部くん何したの?焼き討ち?」口走った言葉には穏やかな笑みが返ってくるばかりで、「はい、俺も愛しておりますよ」とか言って脈絡もなくおでこにキスしてくれるのはもう、怖いとしか言えない。なのに「貴女の為なら何だってします、当然でしょう?」なんて言ってくれるその声が甘ったるくて柔らかくて、それだけで何も言えなくなるあたり私はもうだめなのかもしれなかった。あいしてます、と、笑みの形に歪んだ唇がそう言って笑うのにつられて笑ってしまう。とろとろとまたまどろんでいく視界の向こうで、長谷部くんのとびきり柔らかな声を聞く。「おやすみなさい、俺の可愛い人」
※会社は本当に焼き討ちされてたし上司はあれ以降妙に私に優しいので、一体何があったのか怖くて聞けない。あとあの日、お昼くらいに一瞬目を覚ましたときに「困るよ長谷部、僕の専門は加持祈祷で呪いとか呪詛とかは専門外なんだ。今回だけだよ?」とかふすまの向こうで石切丸さんと長谷部くんが会話してたの、今更だけどじわじわ怖い。いやほんと、何してくれたの長谷部くん?