長谷部
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※主が猫になって長谷部によしよしされまくる話
私が猫になった日の朝も、長谷部くんは少しも動揺せず「おはようございます、俺の主」と笑って言ってくれた。
ほんの少しだけ目を見開いた後でいつもどおり。その瞳に、とろけるような色を浮かべて。
小春日和と言うのがぴったりな、冬の日の朝のことだった。
なにか柔らかくて大きなものの上で、とびきり幸せな夢を見ていたような気がする。伸びをすれば体はどこまでも柔らかく撓んだ。柔軟なんて苦手なはずだったのに、いくら体をねじっても痛くならない。ふと目に入った自分の手のひらは柔らかな毛に覆われていたけど、特に違和感は覚えなかった。そうこうしている間にふすまが開いて長谷部くんが顔を出す。
おそらく時刻は午前七時。
どんなに遠くに遠征に出ても、決まって彼は翌日の午前七時には戻ってきてくれるのだ。遠征帰りの朝はお決まりのようにまっすぐ部屋に来て、私を起こしてくれるのが常だった。「貴女の長谷部が帰ってまいりました」ととびきりの柔らかい声で。だけど今回は事情が違ったかもしれない。何しろ、私は猫になってしまっているので。
長谷部くん。
名前を呼んだつもりでも、私の喉からは猫の鳴き声しか絞り出せない。「にゃあお」それでも長谷部くんはいつもどおり笑って、うやうやしく言葉を返してくれる。
「遅くなり申し訳ありません。俺の留守中になにか、変わったことはありませんでしたか」
ないよ。強いて言えば私が猫になったくらい。
言おうとしてまた鳴き声をこぼす。
「ふみゃあ。にゃあおう」ふむ、と相づちを打った長谷部くんは、まるで私の言葉を理解しているみたいな素振りだった。「そうですね、それは困りましたね」なんて、ちっとも困ってないような口ぶりだけど。そのまま大きな手が毛並みをなぞってくるので、喉を鳴らしたくなるのを必死でこらえる。
「朝食は鰹節に致しましょうか。それともマグロの刺身でも用意しましょうか」
「まぁお」
「ご安心下さい、いつもどおり俺にお任せいただければ大丈夫ですよ。何の心配もいりません」
「まぁぁぁお、ふにゃあお」
「ええ、ええ。決して退屈はさせません。一時間おきにかまって差し上げます。それに三時間おきのブラッシングと、その際にはおやつも差し上げましょうね」
「みゃあーおう」
「おもちゃは鞠がよろしいですか?それとも猫じゃらしにしましょうか」
「にゃあ」
「またたびなどとんでもない。そんな物騒なものをどこで覚えてきたんです。いけない子ですね」
「なぁーお、にゃあ」
「あとで鈴をつけて差し上げます。本丸内をお散歩なさるのはいいですが、お外へのお出かけは俺といる時だけにしてくださいね。迷子になられては大変だ」
「ぶみゃあ」
「執務などとんでもない。貴女は俺の膝で昼寝でもしていてくだされば結構です」
冗談じゃない。膝の上で寝てるだけなんて。
にゃあにゃあと必死で抗議してみたけど全く受け取ってもらえない。「それの何が問題だと仰るのです?」と、耳の後ろをなでつけられたらもうだめだった。ぐるぐると思わず喉を鳴らしてしまう。
長谷部くんの匂い、炭の匂いと藤の花の匂いが混じったようなそれを嗅いでいるうちに恐怖心も疑問もとろけて消える。にゃあお。好きだよ、といいたくても言葉なんか出てこない。だけどそれで問題ないのかもしれなかった。だって長谷部くんは変わらず私の言葉を丁寧に拾い上げて、返事を返してくれるから。
「ええ、俺も愛しておりますよ」
膝をついて目を合わせて。
視線の先の藤色の瞳にとろけるような色が浮かんでいる。
愛してる愛してるあいしてる、
臆面もなく、暴力的なくらいに甘い。
その色で脳みそは侵食されて、それでろくでもないことを思ってしまう。
このままでもいいのかもしれない。例えばこのまま、腕のなかで可愛がられるだけの猫になってしまっても。そうなったとしてもきっと、この神様は私のことを愛してくれるだろう。視線の先で長谷部くんが笑う。「もちろんです」と、とびきりの柔らかい声で。
「はは、貴女はいつだって愛らしいです。もちろん猫になっても、変わらず」
長谷部くんの膝頭のあたりに体を擦り付けていたら不意に体が持ち上がる。そのまま抱き上げられるのでされるがままになっていた。
ぱさぱさと、しっぽを動かすたびに衣擦れのような音がうるさい。長谷部くんの服は真っ黒なので、私の抜け毛がくっついたらさぞかし目立つことだろう。そう考えるとなんとも愉快だった。ふみゃあ。笑い声は鳴き声になって溢れる。長谷部くんも嬉しそうに笑いをこぼした。幸福感でいっぱいになりながら喉を鳴らす。
小春日和と言うのがぴったりな、冬の日の朝の出来事だった。
(※結局二日後には人間に戻れたんだけど、またたびジャンキーになってしまっていてバッドトリップがひどかったし、長谷部くんは長谷部くんで人間になった私に相変わらず「主、困ります。鈴をつけてくださらないとどこにおいでなのか把握できないではないですか」とか口走るので、だから長谷部くん鰹節じゃつられないよ猫じゃあるまいし、暖房消して胡座かいてても膝の上には乗らないからね、ちょっとなんでがっかりした顔してるの話聞いてる?だから鈴はもういらないってば!)
私が猫になった日の朝も、長谷部くんは少しも動揺せず「おはようございます、俺の主」と笑って言ってくれた。
ほんの少しだけ目を見開いた後でいつもどおり。その瞳に、とろけるような色を浮かべて。
小春日和と言うのがぴったりな、冬の日の朝のことだった。
なにか柔らかくて大きなものの上で、とびきり幸せな夢を見ていたような気がする。伸びをすれば体はどこまでも柔らかく撓んだ。柔軟なんて苦手なはずだったのに、いくら体をねじっても痛くならない。ふと目に入った自分の手のひらは柔らかな毛に覆われていたけど、特に違和感は覚えなかった。そうこうしている間にふすまが開いて長谷部くんが顔を出す。
おそらく時刻は午前七時。
どんなに遠くに遠征に出ても、決まって彼は翌日の午前七時には戻ってきてくれるのだ。遠征帰りの朝はお決まりのようにまっすぐ部屋に来て、私を起こしてくれるのが常だった。「貴女の長谷部が帰ってまいりました」ととびきりの柔らかい声で。だけど今回は事情が違ったかもしれない。何しろ、私は猫になってしまっているので。
長谷部くん。
名前を呼んだつもりでも、私の喉からは猫の鳴き声しか絞り出せない。「にゃあお」それでも長谷部くんはいつもどおり笑って、うやうやしく言葉を返してくれる。
「遅くなり申し訳ありません。俺の留守中になにか、変わったことはありませんでしたか」
ないよ。強いて言えば私が猫になったくらい。
言おうとしてまた鳴き声をこぼす。
「ふみゃあ。にゃあおう」ふむ、と相づちを打った長谷部くんは、まるで私の言葉を理解しているみたいな素振りだった。「そうですね、それは困りましたね」なんて、ちっとも困ってないような口ぶりだけど。そのまま大きな手が毛並みをなぞってくるので、喉を鳴らしたくなるのを必死でこらえる。
「朝食は鰹節に致しましょうか。それともマグロの刺身でも用意しましょうか」
「まぁお」
「ご安心下さい、いつもどおり俺にお任せいただければ大丈夫ですよ。何の心配もいりません」
「まぁぁぁお、ふにゃあお」
「ええ、ええ。決して退屈はさせません。一時間おきにかまって差し上げます。それに三時間おきのブラッシングと、その際にはおやつも差し上げましょうね」
「みゃあーおう」
「おもちゃは鞠がよろしいですか?それとも猫じゃらしにしましょうか」
「にゃあ」
「またたびなどとんでもない。そんな物騒なものをどこで覚えてきたんです。いけない子ですね」
「なぁーお、にゃあ」
「あとで鈴をつけて差し上げます。本丸内をお散歩なさるのはいいですが、お外へのお出かけは俺といる時だけにしてくださいね。迷子になられては大変だ」
「ぶみゃあ」
「執務などとんでもない。貴女は俺の膝で昼寝でもしていてくだされば結構です」
冗談じゃない。膝の上で寝てるだけなんて。
にゃあにゃあと必死で抗議してみたけど全く受け取ってもらえない。「それの何が問題だと仰るのです?」と、耳の後ろをなでつけられたらもうだめだった。ぐるぐると思わず喉を鳴らしてしまう。
長谷部くんの匂い、炭の匂いと藤の花の匂いが混じったようなそれを嗅いでいるうちに恐怖心も疑問もとろけて消える。にゃあお。好きだよ、といいたくても言葉なんか出てこない。だけどそれで問題ないのかもしれなかった。だって長谷部くんは変わらず私の言葉を丁寧に拾い上げて、返事を返してくれるから。
「ええ、俺も愛しておりますよ」
膝をついて目を合わせて。
視線の先の藤色の瞳にとろけるような色が浮かんでいる。
愛してる愛してるあいしてる、
臆面もなく、暴力的なくらいに甘い。
その色で脳みそは侵食されて、それでろくでもないことを思ってしまう。
このままでもいいのかもしれない。例えばこのまま、腕のなかで可愛がられるだけの猫になってしまっても。そうなったとしてもきっと、この神様は私のことを愛してくれるだろう。視線の先で長谷部くんが笑う。「もちろんです」と、とびきりの柔らかい声で。
「はは、貴女はいつだって愛らしいです。もちろん猫になっても、変わらず」
長谷部くんの膝頭のあたりに体を擦り付けていたら不意に体が持ち上がる。そのまま抱き上げられるのでされるがままになっていた。
ぱさぱさと、しっぽを動かすたびに衣擦れのような音がうるさい。長谷部くんの服は真っ黒なので、私の抜け毛がくっついたらさぞかし目立つことだろう。そう考えるとなんとも愉快だった。ふみゃあ。笑い声は鳴き声になって溢れる。長谷部くんも嬉しそうに笑いをこぼした。幸福感でいっぱいになりながら喉を鳴らす。
小春日和と言うのがぴったりな、冬の日の朝の出来事だった。
(※結局二日後には人間に戻れたんだけど、またたびジャンキーになってしまっていてバッドトリップがひどかったし、長谷部くんは長谷部くんで人間になった私に相変わらず「主、困ります。鈴をつけてくださらないとどこにおいでなのか把握できないではないですか」とか口走るので、だから長谷部くん鰹節じゃつられないよ猫じゃあるまいし、暖房消して胡座かいてても膝の上には乗らないからね、ちょっとなんでがっかりした顔してるの話聞いてる?だから鈴はもういらないってば!)