長谷部
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修羅場だった。明日、いや今日、の午前10時までに、収集した小判の総数と時価総額を正確に数えて政府に提出しないといけない。それから、手に入れた資材の数と倒した敵の種類別の合計と。それらの集計結果は手書きの巻物(何でたよ)で、大阪城の地下99階までの地図には昨年との比較を加えたものを新規作成、各階別の傾向と分析と対策は別途フォーマットにしたがって提出のこと。それが、二日前に政府から下された緊急の連絡だった。連絡が来るのが遅すぎる。どうやら政府の担当部署と、各本丸を繋ぐネットワークが障害を起こしていたらしい。正直大阪城地下を掘るのに忙しくて全く気づかなかった。大量の小判を目前にして、その無慈悲すぎる報せを受けてからちょうど40時間後。私たちはいまだに地獄の中にいた。
「長谷部くん今私、80階までの地図書いた。傾向と分析は60階のやつコピペしてちょろっと変えちゃおうと思うんだけどそっちはどう」
「そうですね、あと三十分あれば小判の時価総額の集計が終わります。年代がバラバラなので少々時間をいただきましたが、およそ正確な値をはじき出せるかと。資材は現在、山姥切が確認中です」
報告書はすでに100ページを超え、保存をかけるたびにPCが固まるのがなんとも不安を煽る。政府指定の、なぜか旧式のファイルで作られたフォーマットは意味不明なマクロがそこかしこに仕込んであり、新しいバージョンのソフトだとひらけない仕様になっていた。「……いけん、株価が!!!長谷部、今すぐ主に連絡せれ!!!」部屋の隅、小判に埋もれていた博多くんが唐突に大声を出す。
「ここが一番の売り時たい!!ここを逃したら次はなかとよ!!!」もがくように伸ばされた手が空を掴み、パタリと落ちる。その反動でジャラジャラと崩れた小判の山が、私たちの座っているスペースを侵食する。先ほどまでものすごい勢いで小判を数えていた博多くんが、奇声を発した末動かなくなったのはつい十五分前のことだ。無理もない。なんせ彼は先週から三時間前まで、一睡もせずに大阪城に潜っていたのだから。「銭の輝きはどんな睡眠にも勝るばい。一説によると、銭勘定の音を聞くたびに脳の毛細血管が刺激されシナプスが活性化しアドレナリンが分泌された末に幸福物質を誘発して寿命が十秒ずつ伸びるばい、実質麻薬も同然や」と語る彼の目は血走っていて、誰が何を言おうと薄い笑みで「出陣するたび黒字が加速するばい。小判が一枚、小判が二枚」と呟くばかりだったので怖くて止めることができなかった。長谷部くんが、あの長谷部くんが、博多くんに怯えた目を向けていたのがちょっとトラウマだ。
大量の資材は、途中までは本丸の刀剣が総出で集計してくれていた。ただ、悲しいかな、彼らも徹夜で大阪城を掘りまくっていたわけで、一人減り二人減り。さっき様子を見たときには、まるで死屍累々みたいに資材置き場で雑魚寝状態だったけど、今はどうだろ。そうやって数えた血の滲むような集計結果を、山姥切くんがまとめてくれた資材の一覧(達筆)の巻物が部屋の隅にうず高く積まれている。政府が、資材の一覧だけ手書きで要求してくるのがいつも謎だ。何か意味があるんだろうか、いや、どうせないんだろうけど。ひたすらに自分の文章をコピペしながら、頭のどこかでちらりと考えた。だけど手は止めない。……よし、これで80階の傾向と分析も完了だ。ものすごい同じようなことしか書いてないけど、もういいっしょ。それで、保存ボタンを押した、瞬間。
唐突に、PCが、固まった。
ビーーーーーーーーー
その後響いたのは、今時あまり聞かなくなったビープ音。真っ青に移り変わった画面が目に痛い。息つく暇もなく、ぶおおおおおおおおおおお!と、すごい音を立てながらファンが主張し始める。震える手で祈るように、コントロールキーを押してみる。……反応、なし。ちょっと嘘でしょ、動転してPCをチョップすれば、PCの隣の巻物の山がバランスを崩し、私の方になだれ込んでくる。
「主!」巻物をかき分けた長谷部くんが、必死の形相で私をみるので見つめ返す。不意に、巻物が机の上に落ちてきて私のマグカップを倒した。容赦無く床に広がっていく液体。汚れないようにと慌てて巻物を拾い集めていたら、足元の小判を踏みつけて滑って転んだ。
じゃららららら、轟音を立てる小判達(集計済)が、そのまま隣の小判(未集計)の山にぶつかって降り注ぐ。
目の前にはたっぷりと溢れたほうじ茶と、完膚なきまでに崩れた小判と巻物の山。
「………、はせべくん、」
ここが、あの、地獄かな。
脳裏にそんな言葉が浮かんだまま、頭から離れない。多分ここが地獄だ。私は今ここで、地獄の業火に身を焼かれているのだ。気がついたら、這いつくばったまま思わずそんなポエムを読んでいた。寝不足と現実逃避のあまり、ポエティカルでリリカルな引き出しが全開で。絶望的に真顔の長谷部くんと目があう。ものすっごく真顔。多分出陣の時よりも全然真顔だ。その状態で見つめあってどのくらい経ったんだろう。ビーーーーーーーー、と、無慈悲に鳴り響くビープ音の向こうで長谷部くんは、ふと眼差しを和らげた。聖母様みたいな笑顔。とびきり柔らかい声が、PCのファンの轟音と絡み合って耳元で溶ける。
「主。少し、休憩しましょうか」
恭しく差し伸べられる手をとってうなずいた。「そうしよ、うん、ちょっとお夜食とか食べてから集中すれば三時間くらいで終わるよ」「ええ、大丈夫です。俺はあなたの刀ですから」「そうだね、国宝だしな」「そうですよ、国宝の付喪神が言うんだから当然でしょう。全く、これだから俺の主は」「そうだねほんと、ははは、私ったらははは」「はははは」自分でも何を言っているのかわからない。ただただ、焦燥感がそのままハイテンションに変換されて笑いが止まらない。多分長谷部くんもそうなんだろう、虚ろな目はある意味、今までにないくらいの光をたたえて爛々と輝いている。意味もなく笑いながら軽やかにステップなんか踏んで、執務室の扉を開けた私たちを、後ろから博多くんの寝言が追いかける。「いけん!!暴落や!!!」
*
「長谷部くん!!これ!!これね!見てこれ」
「はははなんです主、どうしましたか」
「これ!冷や飯にツナ缶入れて炒めると超美味しいから」
「流石です主、せっかくですからマヨネーズも入れてみては?」
「確かに!!長谷部くん確かに!!」
「そこにチーズと黒胡椒とネギなど加えてみてください。きっと美味いですよ」
「ひーーこれは!!これはやばいですね流石か!とても人間の発想とは思えない」
「光栄です、まあ俺は人間ではないので」
「なるほど確かに!!はははは」
「ははは」
楽しい。なんだろう、ちょっとやばいくらいに楽しい。
フライパンにこんもり乗った冷や飯の上に、長谷部くんが笑いながらマヨネーズをドバドバかける。「量がやばい」、思った通りを口に出せば彼は綺麗に微笑んで(その目元にはうっすらとクマがある)、「せっかくですから」と言うんだけどそのうっとりした口調はどうも平静ではない。「そうだ、マーガリンも入れようか、せっかくだし、せっかくの祭りだしな」しかし私の方も、催眠術みたいに勝手に口が回るので相当だ。大量の冷や飯を大量のツナ缶と大量のマヨネーズで炒め、おまけにとろけるチーズと青ネギと胡椒までぶっこんだ悪魔のようなチャーハンの匂いをおもいきりすいこんで、大皿に取り分けようとしたところで背後から声がかかる。「……何をやっているんだ、あんた達は」
「……山姥切、貴様か。資材の集計は終わったのか」
「ああ。もうほとんど、実質、終わったも同然だ」
実質とは。終わったも同然、とは一体。
長谷部くんも私も考えることは同じだと思うけど、そこに突っ込む勇気はもちろんない。ぬるい笑みを浮かべる私たちを交互に見て、山姥切くんは呆れたとばかりにため息をつく。「……それで、あんたらは一体何をやってるんだ」
「夜食だよ。まんばくんも食べる?」
「食べる、だと?ふざけるな何が夜食だ」
……いやほんと、こんなにキレてるまんばくんて珍しいんじゃないかな。
フードすら被ってないし。
「こんな、こんな軟弱な夜食があってなるものか。いいか夜食というのはな、深夜という極限の時間帯に己の胃袋の限界を見極めるべく戦う神聖な修行なんだそれを、あんた、おい聞いてるのか、クソ、認めないぞ俺は、今に見ていろ、写しだからって舐めるなよ」
今までで一番ってくらい滑舌よく喋るまんばくんを、妙に穏やかな気持ちで見つめる。斜め後ろから、ぴー、と炊飯器が音をあげた。明日の朝食の為に、タイマーでセットしていたコメがちょうど炊き上がったらしい。素晴らしいくらいの反射神経で炊飯器の方に向き直った彼が高らかに笑う。「はは、そうだ、これでいいんだ。白飯と生卵こそ至高なんだ、あんたらにわかってたまるか」
そうして、まんばくんが澄んだ目で白米を装い出すのを見ているうちに、なんとも敬虔な気持ちになって、「いろんな、夜食のスタイルがあるよねえ。ねえ長谷部くん」などとしんみりと言って見た。だけど、当の長谷部くんはあんまり聞こえてなかったらしい。聖母様みたいな顔でチャーハンを取り分けて、「さ、食べましょう主。食べるんです。生きる為に」とよくわからないことを口走っている。私も、「うん、食べよう。生きる為に」とよくわからないことを口走りながらチャーハンをかっこむ。「ははは、美味い、はは、ははは」背後で哄笑するまんばくんの声が、虚ろな瞳で聖母様みたいに私を見つめる長谷部くんの笑顔が、現実をねじりあげて逆流させていく。これ、もう、全部夢なんじゃないかな。この上なく穏やかな気持ちで最後の一口を飲み込んだタイミングで、柱時計が午前五時の時を告げた。
(※その後博多くんが復活したので決死のテンションでなんとか体裁だけ整えた書類を提出した後丸一日雑魚寝で爆睡した)
「長谷部くん今私、80階までの地図書いた。傾向と分析は60階のやつコピペしてちょろっと変えちゃおうと思うんだけどそっちはどう」
「そうですね、あと三十分あれば小判の時価総額の集計が終わります。年代がバラバラなので少々時間をいただきましたが、およそ正確な値をはじき出せるかと。資材は現在、山姥切が確認中です」
報告書はすでに100ページを超え、保存をかけるたびにPCが固まるのがなんとも不安を煽る。政府指定の、なぜか旧式のファイルで作られたフォーマットは意味不明なマクロがそこかしこに仕込んであり、新しいバージョンのソフトだとひらけない仕様になっていた。「……いけん、株価が!!!長谷部、今すぐ主に連絡せれ!!!」部屋の隅、小判に埋もれていた博多くんが唐突に大声を出す。
「ここが一番の売り時たい!!ここを逃したら次はなかとよ!!!」もがくように伸ばされた手が空を掴み、パタリと落ちる。その反動でジャラジャラと崩れた小判の山が、私たちの座っているスペースを侵食する。先ほどまでものすごい勢いで小判を数えていた博多くんが、奇声を発した末動かなくなったのはつい十五分前のことだ。無理もない。なんせ彼は先週から三時間前まで、一睡もせずに大阪城に潜っていたのだから。「銭の輝きはどんな睡眠にも勝るばい。一説によると、銭勘定の音を聞くたびに脳の毛細血管が刺激されシナプスが活性化しアドレナリンが分泌された末に幸福物質を誘発して寿命が十秒ずつ伸びるばい、実質麻薬も同然や」と語る彼の目は血走っていて、誰が何を言おうと薄い笑みで「出陣するたび黒字が加速するばい。小判が一枚、小判が二枚」と呟くばかりだったので怖くて止めることができなかった。長谷部くんが、あの長谷部くんが、博多くんに怯えた目を向けていたのがちょっとトラウマだ。
大量の資材は、途中までは本丸の刀剣が総出で集計してくれていた。ただ、悲しいかな、彼らも徹夜で大阪城を掘りまくっていたわけで、一人減り二人減り。さっき様子を見たときには、まるで死屍累々みたいに資材置き場で雑魚寝状態だったけど、今はどうだろ。そうやって数えた血の滲むような集計結果を、山姥切くんがまとめてくれた資材の一覧(達筆)の巻物が部屋の隅にうず高く積まれている。政府が、資材の一覧だけ手書きで要求してくるのがいつも謎だ。何か意味があるんだろうか、いや、どうせないんだろうけど。ひたすらに自分の文章をコピペしながら、頭のどこかでちらりと考えた。だけど手は止めない。……よし、これで80階の傾向と分析も完了だ。ものすごい同じようなことしか書いてないけど、もういいっしょ。それで、保存ボタンを押した、瞬間。
唐突に、PCが、固まった。
ビーーーーーーーーー
その後響いたのは、今時あまり聞かなくなったビープ音。真っ青に移り変わった画面が目に痛い。息つく暇もなく、ぶおおおおおおおおおおお!と、すごい音を立てながらファンが主張し始める。震える手で祈るように、コントロールキーを押してみる。……反応、なし。ちょっと嘘でしょ、動転してPCをチョップすれば、PCの隣の巻物の山がバランスを崩し、私の方になだれ込んでくる。
「主!」巻物をかき分けた長谷部くんが、必死の形相で私をみるので見つめ返す。不意に、巻物が机の上に落ちてきて私のマグカップを倒した。容赦無く床に広がっていく液体。汚れないようにと慌てて巻物を拾い集めていたら、足元の小判を踏みつけて滑って転んだ。
じゃららららら、轟音を立てる小判達(集計済)が、そのまま隣の小判(未集計)の山にぶつかって降り注ぐ。
目の前にはたっぷりと溢れたほうじ茶と、完膚なきまでに崩れた小判と巻物の山。
「………、はせべくん、」
ここが、あの、地獄かな。
脳裏にそんな言葉が浮かんだまま、頭から離れない。多分ここが地獄だ。私は今ここで、地獄の業火に身を焼かれているのだ。気がついたら、這いつくばったまま思わずそんなポエムを読んでいた。寝不足と現実逃避のあまり、ポエティカルでリリカルな引き出しが全開で。絶望的に真顔の長谷部くんと目があう。ものすっごく真顔。多分出陣の時よりも全然真顔だ。その状態で見つめあってどのくらい経ったんだろう。ビーーーーーーーー、と、無慈悲に鳴り響くビープ音の向こうで長谷部くんは、ふと眼差しを和らげた。聖母様みたいな笑顔。とびきり柔らかい声が、PCのファンの轟音と絡み合って耳元で溶ける。
「主。少し、休憩しましょうか」
恭しく差し伸べられる手をとってうなずいた。「そうしよ、うん、ちょっとお夜食とか食べてから集中すれば三時間くらいで終わるよ」「ええ、大丈夫です。俺はあなたの刀ですから」「そうだね、国宝だしな」「そうですよ、国宝の付喪神が言うんだから当然でしょう。全く、これだから俺の主は」「そうだねほんと、ははは、私ったらははは」「はははは」自分でも何を言っているのかわからない。ただただ、焦燥感がそのままハイテンションに変換されて笑いが止まらない。多分長谷部くんもそうなんだろう、虚ろな目はある意味、今までにないくらいの光をたたえて爛々と輝いている。意味もなく笑いながら軽やかにステップなんか踏んで、執務室の扉を開けた私たちを、後ろから博多くんの寝言が追いかける。「いけん!!暴落や!!!」
*
「長谷部くん!!これ!!これね!見てこれ」
「はははなんです主、どうしましたか」
「これ!冷や飯にツナ缶入れて炒めると超美味しいから」
「流石です主、せっかくですからマヨネーズも入れてみては?」
「確かに!!長谷部くん確かに!!」
「そこにチーズと黒胡椒とネギなど加えてみてください。きっと美味いですよ」
「ひーーこれは!!これはやばいですね流石か!とても人間の発想とは思えない」
「光栄です、まあ俺は人間ではないので」
「なるほど確かに!!はははは」
「ははは」
楽しい。なんだろう、ちょっとやばいくらいに楽しい。
フライパンにこんもり乗った冷や飯の上に、長谷部くんが笑いながらマヨネーズをドバドバかける。「量がやばい」、思った通りを口に出せば彼は綺麗に微笑んで(その目元にはうっすらとクマがある)、「せっかくですから」と言うんだけどそのうっとりした口調はどうも平静ではない。「そうだ、マーガリンも入れようか、せっかくだし、せっかくの祭りだしな」しかし私の方も、催眠術みたいに勝手に口が回るので相当だ。大量の冷や飯を大量のツナ缶と大量のマヨネーズで炒め、おまけにとろけるチーズと青ネギと胡椒までぶっこんだ悪魔のようなチャーハンの匂いをおもいきりすいこんで、大皿に取り分けようとしたところで背後から声がかかる。「……何をやっているんだ、あんた達は」
「……山姥切、貴様か。資材の集計は終わったのか」
「ああ。もうほとんど、実質、終わったも同然だ」
実質とは。終わったも同然、とは一体。
長谷部くんも私も考えることは同じだと思うけど、そこに突っ込む勇気はもちろんない。ぬるい笑みを浮かべる私たちを交互に見て、山姥切くんは呆れたとばかりにため息をつく。「……それで、あんたらは一体何をやってるんだ」
「夜食だよ。まんばくんも食べる?」
「食べる、だと?ふざけるな何が夜食だ」
……いやほんと、こんなにキレてるまんばくんて珍しいんじゃないかな。
フードすら被ってないし。
「こんな、こんな軟弱な夜食があってなるものか。いいか夜食というのはな、深夜という極限の時間帯に己の胃袋の限界を見極めるべく戦う神聖な修行なんだそれを、あんた、おい聞いてるのか、クソ、認めないぞ俺は、今に見ていろ、写しだからって舐めるなよ」
今までで一番ってくらい滑舌よく喋るまんばくんを、妙に穏やかな気持ちで見つめる。斜め後ろから、ぴー、と炊飯器が音をあげた。明日の朝食の為に、タイマーでセットしていたコメがちょうど炊き上がったらしい。素晴らしいくらいの反射神経で炊飯器の方に向き直った彼が高らかに笑う。「はは、そうだ、これでいいんだ。白飯と生卵こそ至高なんだ、あんたらにわかってたまるか」
そうして、まんばくんが澄んだ目で白米を装い出すのを見ているうちに、なんとも敬虔な気持ちになって、「いろんな、夜食のスタイルがあるよねえ。ねえ長谷部くん」などとしんみりと言って見た。だけど、当の長谷部くんはあんまり聞こえてなかったらしい。聖母様みたいな顔でチャーハンを取り分けて、「さ、食べましょう主。食べるんです。生きる為に」とよくわからないことを口走っている。私も、「うん、食べよう。生きる為に」とよくわからないことを口走りながらチャーハンをかっこむ。「ははは、美味い、はは、ははは」背後で哄笑するまんばくんの声が、虚ろな瞳で聖母様みたいに私を見つめる長谷部くんの笑顔が、現実をねじりあげて逆流させていく。これ、もう、全部夢なんじゃないかな。この上なく穏やかな気持ちで最後の一口を飲み込んだタイミングで、柱時計が午前五時の時を告げた。
(※その後博多くんが復活したので決死のテンションでなんとか体裁だけ整えた書類を提出した後丸一日雑魚寝で爆睡した)