松・シリーズ
名前変換
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突っ伏したら、テーブルが冷たくて気持ちよかった。飲みすぎたのか、心臓がちょっと危機感を覚えるくらいにどくんどくん言っていた。頭痛い。あと、こないだ折った肋骨が痛い。私がテーブルに突っ伏しているその外側の世界で、がやがやと何だか楽しそうな声がする。「名前ちゃん大丈夫?俺送ってこうか?」と、見ず知らずの誰かが馴れ馴れしく体を揺すった。鬱陶しい。されるがままになりながらどうしようか考えて、とりあえず寝ている事にした。寝てますよ。私寝てます。起きませんよー。しつこく体を揺する誰かに向けて、頭のなかで繰り返す。寝てます。寝てます。寝てま、
…とか、なんとか繰り返すうちにこんな騒がしい居酒屋でほんとに寝落ちした。
*
てめえ家の妹にどうちゃらこうちゃら。とか、聞きなれた声が聞こえた気がする。のは、どうも私の気のせいだったっぽい。
「さあ迎えに来たぞマイシスター帰るぞ、ウエイクアップ起きるんだ」
「………」
ふうっと上がってきた意識で、真っ先に聞こえたのは何か無駄に格好付けてる二番目の兄の声だった。からからになった舌が口のなかに貼り付いて声が出せない。カラ松兄さん、と呼んだつもりが実際には意味不明の呻き声にしか聞こえない。ここどこだっけ。
「さあ立て、立つんだ名前」
なんか、その台詞聞いたことあるぞ。ボクシング漫画の台詞だ。指一本も動かさないでそんなことを考える。無理ですコーチ。私もう立てません。と、呟いたつもりが意外と今度ははっきりと声になった。
「むりれすこおち、わらひもうたてまへん」
…げ、完全に酔っぱらいの声じゃん。それがおかしくてけらけら笑う。カラ松兄さんは、私を起き上がらせることを完全に諦めたらしい。ため息のあとで、よっこらせ、と、妙にださい掛け声と共に片腕を引っ張りあげられた。そのままおんぶしてもらえたので、今度は全力で背中に寄りかかった。あー、あったかい。気持ちいー。「ジャマしたなマスター」とかなんとか言ってるけどカラ松兄さん、ここ、チェーンのやっすい居酒屋だよ。マスターなんているわけないじゃん。目をつぶったまま考える。からから、と引き戸を開けた音。ぶわっと冷たい空気が押し寄せてきてうっすら目を開けた。
「カラ松兄さん、」
「ああ起きたか、どうだ気分は?水でも飲むか?待ってろ今」
「うう、……いい、大丈夫」
「あ、…ああ、そうか」
「………カラ松兄さん」
「なんだマイシスター、水か?」
「肋骨痛い」
「……お前がモテるのは素晴らしいと思うが、相手を選べ俺たちは心配だぞ」
「うんごめん、……カラ松兄さん頭痛い」
「飲みすぎだ」
「んー、うん」
「いつもはこんなに遅くならないだろ、今日に限ってどうしたんだ」
「……………」
「いつもは十時には帰るじゃないか」
「………うん」
「マミーが心配するだろ」
「………えー、ほんとにぃ?」
「当たり前だ、お前は家の末っ子なんだから」
「……………うん」
お前は家の末っ子なんだから。
当たり前のように言ってのけた兄の言葉に、泣きたくなるような気分になった。相変わらず体はだるい。酔っぱらって歯止めが聞かないのかもしれない。その時私は、いつもなら到底考えられないような酷いことを考えていた。
血が繋がってなくても、私の事を妹だと思ってる?
血が繋がってなくても。その言葉を思い浮かべた瞬間に、足元からがらがらと崩れていくみたいな妙な感覚になる。私は多分、兄達とはすこしも血が繋がってない。一応書類上は親戚ではあったけど、そんなのは意味をなさないぺらんぺらんの繋がりであって、私とあの家とこの人たちを結びつけるものなんて、ほんとは一つだってありはしない。だから、たまにとてもそれが怖くなるときがある。口に出したら色んな事が台無しになりそうで今まで一度だって言ったことがないけど。
「……い」
「?何か言ったか名前」
こわい、と呟いた瞬間に何故かチョロ松兄さんが浮かんだ。何でだろうと疑問に思ったのは一瞬で、二秒後には強烈な吐き気に襲われて全てがどうでもよくなった。「カラ松兄さん、………きもぢわるい」死にそうな声でまじうける。とか、思ったかどうかはあんまり思いだせない。ていうかそのあとの事が大体思い出せない。気がついたら今に寝かされてて、かんかんになったチョロ松兄さんにいつもみたいに怒られた。