松・シリーズ
名前変換
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義理の兄貴とか、そんな、一昔前のメロドラマか何かじゃあるまいし。
毎度のように言い争う(ふりをする)六子の兄貴と妹を眺めながら浮かんだ感想は、絶体に口にださないでいてやろうと思う。俺と全くおんなじ度合いでクズな兄貴の方はさておき、根っから素直で結構真面目なうちの妹を泣かせるようなへまは踏みたくない。
「お前さあ。なんで毎回化け物みたいなのしか捕まえてこないわけ」
「…ちょっと大柄なだけじゃん…」
「ちょっと大柄!?体重360キロ身長190センチをちょっと大柄で済ますのお前!?プロレスラーでも居ねえよ360キロって!」
「いやでも、強そうだったでしょ?」
「お前が殺されかかってんじゃん!僕がいなかったら死ぬとこじゃん!」
「死ぬとこじゃないよイチャイチャするとこだよ」
「イチャイチャで肋骨は折れねえんだよ!つーかまずなんで付き合って三日で押し倒してんだふざっけんな、そもそも彼女の家で押し倒してくるとか飛んだドすけべクソ野郎じゃねえかクソがぶち殺すぞ」
「ドすけべクソ野郎って、何か凄い昭和な表現だよね」
「真面目に!話を!聞け!」
「聞いてるよ真面目に」
名前が家に来たのは俺たちが小学校の五年くらいの時だった、と思う。そのとき聞かされた名前の話は結構悲惨だったと思うけど、かなり昔の事だから何を聞かされたかは全部忘れた。覚えてるのは名前の神経質そうな目の動きだけ。家に来てから最初の三日くらいは、愛想笑いしてばっかの変に大人びた子供だった。今はわかんねえけど。確か、父方の母方のいとこのはとこの、……なんだっけ忘れた。遠縁の遠縁の遠縁過ぎてもはや他人。俺達とあの妹とは多分少しも血が繋がってない。だから、名前は必死に『妹』っていう自分の役割に固執してるのかもしれない。あれから十年ちょい、いまでも名前は可哀想なくらい一生懸命『妹』の役を演じている。特に、あの三男に対してはとりわけ熱心に。
「選べよ相手を!少しは!」
「選んでるじゃん」
「選んでないじゃん!だからお前の基準はどこにあんの名前!?」
「前も言ったけどチョロ松兄さんには教えてあげない」
チョロ松兄さんには教えてあげない。
そう言ったときの妹の顔が泣きそうに見えたのは俺の見間違いだといい。
ままごとみたいな兄妹ごっこでも、十年以上続けていればそれなりに情だって沸いてくる。俺は結構あの妹の事が可愛いし、それは世間一般で言うところの兄貴としてのスタンスに近いもんがあると思う。名前に関しては、ゴミクズな六人の兄貴たちの事など微塵も気にせず、真っ当に幸せになってほしいとかそんな、まるで真人間のようなことを考えたりしている。だからあの妹を泣かせるようなへまは踏みたくないし、余計な事には気づかないふりをしていてやろうと思う。
「なんで!?なんでそこ共有しとかないの!?」
「逆になんでそこ共有するの!?」
「トッティみたいな事言うなよ共有しろよシェアしろよ!」
「だからなんで」
「え、それきいちゃうの!?そこわかんねえの!?兄妹なんだからあたりまえでしょ!?」
「………、だから、」
ああほら、だまっちゃった。
ちゃらんぽらんな妹のふりをして。いかにもふて腐れたみたいな表情のしたで、一生懸命ぐるぐると返す言葉を考えてるのかもしれない。名前はこういうとき決まっておんなじ仕草をする。一瞬だけ目を伏せて一呼吸。そのあとで一回だけ瞬き。名前は凄い早さで家に馴染んでいったのに、その仕草だけが十年ちょい前に家に来たときと全く変わらない。それが痛々しくて見ていられないから、喧しくそれっぽいごたくを並べるクズでゴミな兄弟の頭を思いっきり叩いて黙らせることにした。
「痛っって!おい一松今なんで僕の頭叩いた」
「俺たちもさあ、」
「無視すんなよなんなのおまえほんとに、サイコパスかよ」
「たちの悪い妹持っちゃったよねえほんと。ねえ、名前」
にやにやといつもの声のトーンを作りながらいつもみたいに言ってやれば、名前もいつもの調子を取り戻す。「一松兄さん、たちが悪いってそれどういう意味よ」俺達のとは全然違う、色素の薄い柔らかそうな髪がさらりと揺れる。家の妹。ゴミくずみたいな兄貴たちには似ても似つかない、素直で可愛い俺たちの妹。大丈夫だよ。お前が自覚しないでいるんなら、俺もずっと気づかないで居てやるから。
そう思ったことは絶体に口にださないでいてやろうと思う。そんなのはきっとゴミくずみたいな俺の妄想で、ほんとのことなんてこれっぽっちも含まれてないんだろうから。