松・シリーズ
名前変換
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できればオタクじゃない人と結婚したいものだ。わかりもしない横文字を得意気に並べ立てるようなのもちょっと。自意識過剰すぎるのは困るし、突っ込み体質で緑が似合うなんて人はもう、それはそれは丁重にお断り申し上げたい。私の嫌なタイプはピンポイントで三番目の兄のチョロ松兄さんだったので、理想が高すぎて婚期を逃すなんて事態は避けられそうだった。というか、チョロ松兄さん以外なら外見も性格も問わない。なので顔面偏差値は中くらいでも意外と彼氏が途切れたことはない。追わず拒まず、『頑張らなくても落とせそうな女』というスタンスがコツだ。自分でも割とくずだなあ、と思うけど、家の家族は割とそういう、くずの集合体みたいなところがあるのでそこまで気にしてない。と、そう思いながらいつものようにうちの三男のチョロ松兄さんと喧嘩していた。今日の喧嘩の種は、前の彼氏のイタケダカくんの事だ。私がイタケダカくんを家につれてきた時にちょうどチョロ松兄さんが居合わせていて、あろうことか「将来のビジョンは?特技は?日本経済に関して君の意見を聞きたいんだけど?名前の幸せに対して君はどうコミットするつもりなの?」と、何とも自意識ライジングな感じでイタケダカ君に詰めよってしまったのだ。お陰さまで破局したけれど、雨にも負けず風にも兄の妨害にも負けない強い心を持つ私は、早速合コンにでかけ新しい彼氏アカクロダくんをゲットした。
「…………お前ね」
「だから、何回妨害しても無駄だよお兄ちゃん。今度おかーさんに紹介するからその日は絶対出掛けててね」
「あのね、毎回いってるけどお前はほんっっとに、節操ってもんがないんだよ」
「そんなことないよ私にだって好みってもんがあるから」
「嘘つけよ、毎回毎回取っ替え引っ替えしやがって」
「嘘じゃないよほんとに、結構毎回えらんでる」
「へえじゃあ言ってみろ、どういう基準で選んでるんだ」
「え、別に教えないけどさ」
「………お前ね」
「だってさ、なんでチョロ松兄さんにそんなこと教えなきゃいけないの」
「節操無さすぎなんだよお前は!」
「こんな夜中にご近所迷惑だよやめてよ」
「ああもういつもいつもいつもいつもクソみたいなやつ捕まえてきてさあ追っ払うこっちの身にもなれよ毎回大変なんだよわかるでしょ」
「チョロ松兄さん、私それ頼んでない、余りにもたのんでないよ」
『名前、ちょっとこっちきて座れ』と、帰宅早々開始した兄弟喧嘩はもう二時間も続いている。「お前の男選びの基準はほんとなんなの」と、いつもの言葉をきれいに無視して、私はいつものようにチョロ松兄さんの小言を聞き流す。私の男選びの基準はものすごく明確だ。できればオタクじゃない人がよくて、緑色の似合う人は絶体ごめんだ。帰宅早々妹を捕まえて小言をぶちまけるようなのも、毎回妹の恋愛を邪魔してくるようなのも嫌だ。でも、それ以外だったら大抵誰でも同じことで、だから今日も私はチョロ松兄さん曰く「取っ替え引っ替え」しながら王子さまを探している。大抵はチョロ松兄さんに邪魔されるけど、そうじゃない時は兄弟の誰かが決まって妨害してくるから大概長続きはしない。だから結果的に取っ替え引っ替えしてるような形になってしまうのであって、兄達に邪魔されなければもっとうまくいくはずなんだけど。
「全く、なんで揃いもそろって化け物ばっかり連れてくるのおまえは。せめてまともな人間をつれてこいよ」
「え、でもイタケダカくんはまともだったじゃん」
「いやいやいやいや将来性がないでしょあんなの、僕の質問にもまともに答えられてなかったし」
「じゃあ前の前のドドメダさんは?」
「弱そう論外」
「…じゃあその前のアビコガワさん」
「中年じゃん!しかも禿げてたうえに無職!あれでいいのかお前は」
「………じゃあその前のクロヌマさんは?」
「名前。逆に聞くけど、なんで78歳と付き合おうと思った?」
「じゃあその前のアオチャガワさんは」
「やばかったじゃんあいつ!絶対何か変な薬やってたよね!?おまえあんなんとどこで知り合ったの!?」
「じゃあその前のネコヤナギさん」
「せめて人間をつれてこい」
「でもネコヤナギさん以外は全員人間だったでしょ?」
「そういうことじゃないだろ分かれよ!」
足、痺れてきたんだけど崩しちゃダメかなあ。もぞもぞと姿勢を崩した私を思いっきり睨み付けて頭を抱えてから、チョロ松兄さんは思いっきりため息をついた。「ああもう、兄さんはお前が心配だよ」
「ああうん、そう」
私はといえば、そんな兄の、指先を見ながらぼんやり考えていた。チョロ松兄さん、無駄に指が綺麗だな。
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