松/みじかいの
名前変換
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こういうのって大体好きになった方がまけだ。だから今みたいな場合だと完膚なきまでにぼこぼこにされて空振り三振のノーヒットノーランストレート完敗完封ノックアウト敗けをかましてるのは結局俺の方だ。まあどうせ童貞だから詳しいことはわかんないけど。
だって俺の(あえて俺の、と言い切ってしまうがこれは頭の中だけの話で実際口に出せたことは1度もないけどでももう一昨日くらいに決めた、名前ちゃんは誰がなんと言おうと俺のものだ誰にも渡さない)名前ちゃんときたらまるで駄目な大人だと言うのに、学校でてからニートしてた奴が駄目だと言って憚らないレベルで生活能力にかけてるのに、結局俺は彼女のことを嫌いにならないし彼女は彼女でそれを知ってか知らずか相変わらず駄目なまんま俺が世話を焼くのに任せている。
「名前ちゃんあのさ、何これ」
「あ、……空き箱、かな」
「空き箱こんなためてどうすんのこれ、50個くらいあるよねなんに使う気なの」
「いやさすがに50個はなくない?」
「いや数の問題じゃなくない?」
「だってチョロ松君が」
「え、ていうかなに、何でこんなに溜め込んだの」
「………無視した…」
「ねえなんで何に使うのこれ」
「…空き箱ためといて収納に活用すれば部屋が片付くってテレビで」
「そういうのは基本的な片付けができてからやる話なの見てこの部屋!空き箱とかそういう問題じゃないからね!」
名前ちゃんは生活能力が残酷までにかけている。ほんとに、完膚なきまでに容赦ないくらいにいっそ清々しいほど。本人もそれを自覚してて改善する意志があるのがまた頂けなくて、だってもう名前ちゃんは恐ろしいくらいに家事のセンスがない。むしろ何もしないでくださいとこっちがお願いするレベルだ。片付けも下手くそだし料理も下手だし、ていうかコンビニのおにぎりの袋すら普通に剥けない。あれ?もう家事とか生活とかそういう問題じゃなくない?いくら働いて立派な社会人やってようとこれじゃだめだよね、と、ニートな上に家事だって別に大して得意じゃない俺を嘆かせる位になにもできない。そんな彼女が部屋の大掃除をするというからこうして手伝ってるわけど、ていうかほとんど俺が片付けてやってる訳だけど、崩れた本の山の奥から出現した押し入れから、何か可愛い空き箱が50個近く転がり落ちてきた時にはさすがにめまいがした。
「こないだ片付けたばっかだよね僕、何でこんなすぐ散らかるかな」
「何でかなあ」
「何でかなあじゃなくて」
めまいがする。片付けても片付けても終わらないし絶対今日終わらなくて多分これ明日も片付けるんだろうな、俺が。めまいがしたのにあっさり許してしまうのはもういつものことだけども正直、こうやってお説教みたいに名前ちゃんに怒ってるふりをしながら多分全く説得力なんてなくて、自分でもわかるけど今自分の顔はだらしなく緩んでる。だって「…ごめんね」と申し訳なさそうにしてる名前ちゃんは超絶可愛いしここで最初の下りに戻るけど結構好きになった方が敗けでつまりこっちは最初から負けてる。
「チョロ松君私!私なに手伝えばいい何でもやるよ私」
何でもやるとか言っちゃ駄目名前ちゃん!ほんと今この状況でそれは駄目!
…と、言おうと思ったけど勿論本人にはそんな気はなく、つーかこれ俺が邪なこと考えてるのが駄目なんじゃないのほんと自分が嫌になるよね、とか、いやでも正直この状況は非常に宜しくないしじゃあもうお持ち帰り(略)とか、いっそ(略)とか、ぐるぐると頭を回転させてくうちに自分が嫌になって、そもそも手伝うってかここ名前ちゃんの部屋だよね手伝ってるのは俺だよねと、まだ健全な方向に考えがシフトしていったのでなにも言わずにため息だけ吐いた。
「………ありがとうじゃあごみ袋もってきて」
「ごみ袋ね!?任せて今持って」
「足下危ないから気を付け、」
足下危ないから気を付けてねと、この台詞を全部言わせない辺りが流石というかお約束というか柔らかいというか暖かいというか超絶可愛いというか。がごっ、と、すっごい音がして数秒の沈黙。おでこの辺りに柔らかいものが何か当たってるけど、それが何か考えたらきっと大変なことになる。
「…………」
「ごめんチョロ松君いたかった?大丈夫?どっか打った?頭売ったよね今!?すっごい音したよ痛い?痛いよね大丈夫!?」
「………えっ、あっ、うん?」
逆に、逆にあれだ名前ちゃん大丈夫怪我してない!?
そう思って咄嗟に彼女の肩を手を掴んでみたのは、これはもういい感じにプラトニックな動機からくる行動だったとは思うしそもそも転んだ彼女の下敷きになった辺り自分でも泣かせる位に天晴れな行動だと信じている。だって現に俺の名前ちゃんが怪我するなんて最悪の事態は回避できたわけだし決して邪な気持ちがあった訳じゃないんだほんとに。ほんとにそうなんだけど、純粋プラトニックレモン100%果汁みたいな自分の行動が引き起こしたのが今の大変宜しくない体制だと思うと死にたくなるあまりに逆に開き直りそうになる。そういえばこないだこういうエロ漫画読んだよね。よりによって今めっちゃ思い出しちゃったよマジ死にたい別に死なないけど、
「チョロ松く、」
あ、あ、駄目だ目があったもう駄目だ。至近距離でバッチリと視線を合わせた名前ちゃんの目のなかでテンパりすぎて逆にいつも通りの顔を張り付けてる自分とも目があった、ので、それを見ながらこの事態の打開策を考える。
考えるけど勿論なんも浮かばないしていうかそろそろ離れてくんないと、あ、肩掴んだままだったんだ離すの惜しいなあだからってそういう(略)なあれをするタイミングは今じゃないしここでそんなことしたらそれはただのくずって言うか、いやくずでも別にいいけど名前ちゃんに嫌われるのは嫌っていうか、時じゃなっていうか、じゃあいつが『時』で一体いつまで待てばいいのかって言われてもまあわかんないけどしかしほんと超絶可愛いなもういいかな。
超絶可愛い彼女(彼女ってほんとこの言葉今の状況だと心臓に悪い)の目のなかで自分と見つめあって数秒。如実に誠実!如実に誠実!と、よくわからないけど何か真面目っぽい言葉を必死で頭の中で連呼したけど特に効果はなく、そのタイミングでずきずきとどこかにぶつけたらしい後頭部が痛みだしたのでもうすべてがどうでもよくなった俺は、我ながらロクデナシにも程がある決断を下してしまった。
…………もういいや。だっていつまでやったって部屋片付かないし僕もう十分よくやったよ。もうよくない?そもそもこんなに散らかしたのが名前ちゃんならこの状況の責任だって彼女にあって、じゃあなにも問題ないしこの際、いざとこうなったら頭打って記憶なくしたことにしちゃえばいいや。
「あの、ちょろま」
なげやりになって無理矢理唇を重ねたらあまりの柔らかさに視界がチカチカしてきた。このまま死んだっていい。いやそれはちょっと。本音を言うと一回でいいから(以下略)的なあれを体験してみたかったけど、それにしたっていい匂いすんな女の子って皆そうなの?名前ちゃんがあっけにとられて動かないのをいいことにもう一度唇を押し付ける。しかし隙だらけだよねほんと、駄目だよ善人面したって男なんて所詮エロいことしか考えてないんだからねつーか善人面してるやつほどそうだからほんと、絶対信用しちゃ駄目だよ僕以外は、………と。あまりにも隙だらけの名前ちゃんに何て説教しようか台詞を考えてるうちに、チカチカしてた視界が暗転した。
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「……うう…」
誰かがうめいてる。と、思ったら自分の声だった。うっすらと目を開けたら真っ白な天井、の、手前で涙目の名前ちゃんと目が合う。体を起こした瞬間に「大丈夫!?今救急車呼ぶから、病院、病院いこう」とか言われて何となく状況を把握した。さっきのチカチカは脳震盪的なあれだったのか。つまり俺はまた、(略)的なあれをまんまと押さえることに成功してプラトニックなあれをまもったわけだ流石というか死にたいというか、逆に安心したっていうか嫌われなくてすんだっていうか。部屋は相変わらずの惨状で、俺の目の前にいる名前ちゃんは相変わらず超絶かわいい。ぼんやりと彼女の手を目で追っていたら
「良かったほんとに、死んじゃうかと思った」
と、声がしてそのまま抱きつかれたのでもうほんとに死ぬかと思った。その状態のまま、名前ちゃんが「あのさあ、部屋きれいになったら、もう遊びに来てくれないかな」とか超絶可愛いことを言うもんだから死ぬかと思うっていうか、むしろ俺はもう死んでる。気がついたら「ああもう馬鹿だなあ部屋なんて俺がいつだって片付けてあげるから大丈夫だよ」とか口走ってて、だから最初からわかってたけどこうなったらもう好きになった方が大体敗けで、つまり俺は最初から既に負けてる。
相も変わらず散らかりっぱなしの部屋の中で抱き合う様は端から見たらさぞかしまぬけでだらしない上に多分全く誉められたもんじゃないけど、それがいわゆる幸せってやつなんじゃないかと思うしそれならば世間だの常識的だのの物差しはこの際関係なく、結論として僕は非常に幸せだ。きっとこの先も名前ちゃんはまるで駄目なまんまで、俺が一々世話を焼かなきゃ行けなくて、それは気が遠くなる話ではあるし絶対こっちが損してるにも関わらず、それを考えるとめまいがするほど幸せなのはつまり、こういうのって大体、好きになった方が敗けだからなのだ。